第48話



「では挨拶もすんだので、今から新幹線に乗りましょう。九州に向かいますね。」

「九州?」


え、そんな遠いところ行くの?

東京近辺じゃないんだ。


「はい、今回は第3級ダンジョンの遺跡調査です」

「そうなんだ?」


3級か。…意外と低いな。

『リュミエハーツ』は最前線パーティなわけだから、もうちょっと級数は高いかと思ったよ。


「本格的な遺跡調査は第6級にある遺跡ですが、その前に一度第3級ダンジョンにある遺跡を見てみようと思いまして。旭が来ますからね」


俺が来るから。

ああ、そういうことか。


「つまり俺が来ることで何かイレギュラーなことが発生しないか、まずは低いところで見たいわけか」

「そうです」


なるほどねぇ。

確かにそちらの方がこちらも助かる。


「わかった。なんかいろいろ悪いな。これ、予定変更だったんじゃない?」

「いえ、元々九州自体に用事があったので、ちょうどよかったです」

「用事?」


なんだろう。

九州でダイバーの用事…。


ハウステ○ボス、風車のところかな?

別名ドンキホーテダンジョンがあるらしい。


「ちょっと応援を頼まれました。たまにあるんですよね」

「…応援? なんの?」


チアガールか? ちょっと見てみたい気もするけど、そんなわけないよな。

たぶんダイバー関係だと思うけど。


聞くと、杏奈が代わりに答えた。


「そちらは旭は用はないから大丈夫だ」

「杏奈。旭は戦力になりますよ」

「お嬢様。モンスターじゃないのですよ。現場を混乱させるつもりですか?」

「…わかりました。すみません、旭。内緒です」

「…わかった」


お嬢様は秘密が多い。







そして一行は新幹線に乗った。


乗った車両はなんとダイバー専用車両。

他に乗っている奴は二人しかいなかった。


いいね。なんかVIPみたい。


ちなみの俺の相席は空気でした。

九州まで仲良くしような。


「しかし、新幹線で移動するなんて意外だな…」


ぼそっとつぶやいた。


東京から九州までだと飛行機の方が早いんじゃない?

そうでもないか?


「ダイバーだと飛行機は乗れないんだよね」


俺のつぶやきを聞いたのか、前に座っていた瑞樹が反応した。


体を返して座席の頭からひょこっと顔を出す。

なんか猫が顔を出しているみたいだ。

隣に座っているエマもこちらに顔を出す。


「え?」


「いや乗れないことはないんだけど、ダイバーで飛行機乗るの、結構面倒なんだ。だいぶ前にスキル暴走させて飛行機を墜落させた人がいたらしくてさ」


「…なるほど?」


そういえば子供の頃にそんな話を聞いたことがあったようなないような?


「ダイバーって公共交通機関に制限がかかることが多いんだ。ここも最後尾の列車でしょ? 何かあったときに切り離せるようにって」


「そういえばそうだった…。」


VIP待遇だと思っていたら、危険物待遇だったでござる。


「ま、遥が新幹線で移動するのはまた別なんだけどね。遥は自家用ジェットもあるし」


流石はハイソ。レベルが違う。


「じゃあ何でわざわざ新幹線乗っているの?」

「遥から聞いた?」

「いや?」


そんな話は聞いたことない。

君は新幹線派?なんて質問もしないし。


「じゃあそのときのお楽しみだね」

「…お嬢様は内緒が多いな」

「そう、みすてりあすなの!」

「…そうだね」


気のせいじゃなければ、なんか俺にフラグたってるっぽいけどな。


それはそうと、この際に言っておこう。


「あー。そういえば、あの時は助けてくれてありがとう。」

「? あの時って?」

「以前のボス戦だよ」

「?」


瑞樹は何のことを言っているのか分からないという表情を見せた。

首をこてっと傾げた。


「最初に盾で守ってくれただろう」

「ああ! 別にいいよ! 当然のことをしたまでだし!」

「そ、そう」


命張るのが当然か。すごすぎない?

俺一生足向けて寝れません。


やっぱ浄化されそう。


「試練を乗り越えし勇者にこれを授けよう」


エマが唐突にお菓子を差し出した。


「賢者の石だ」


思わずお菓子を二度見する。

だがどう見ても有名なコンビニ菓子のだった。


二つの里でよく戦争を起こしているあれだ。

こう聞くとすげー物騒な菓子だな。


これはタケノコだ。


「…いやどう見てもお菓子だけど」

「そうともいう」

「…ありがとう」


受け取ると、満足そうにうなずいた。


そして続けて問うた。


「君はどちらの里派だね?」


それはチョコのお菓子のどっちの里が好きかという話だろうか?


「…その議論は戦争を起こしそうだけど?」と、俺。

「火種はいつも世にあふれている」と、エマ。

「エマー、キノコはないの?」と、瑞樹。

「異教徒め」と、エマ。

「旭はどちらが好きなの?」と瑞樹。

「…正直、どちらでも」と俺。

「教化の余地、あり」とエマ。


そしてエマはもう一つ差し出した。


…。

エマはいい子だとは思うよ。


瑞樹はニコニコしながら俺たちのやりとりを楽しんでいた。


その後もたびたび話しながら九州まで向かった。

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