第41話

扉の前には遥と紬と杏菜の三人が立っていた。


遥はニコニコとこちらを見ている。


紬はニヤニヤしている。

そして杏奈は怒りのマークがついていそうなピキピキとした表情をしている。


…。


あー会いたかったななんて言わなきゃよかったなぁ…。


とりあえず、俺はそっと扉を閉じた。


ガッ


だが、扉は閉じる前に開かれた。無理矢理に。


「旭くーん。あんなにも激しい一日を過ごした仲だというのに、見た瞬間扉閉じるなんて失礼じゃないかー?」


紬がにこやかな表情で言う。

隣には杏奈が鬼の形相でこちらをみている。


なんか、杏奈が最初からキレてない?

怖いんだけど…。


「私、悲しいです。せっかく会いに来たのに、そんな風に拒否されるなんて」


遥が泣きそうな表情で言っている。

こちらが申し訳なくなるくらいの泣きそうな顔。


「い、いや。拒否した訳じゃないんですよ? ただちょっと驚いたって言うか」


思わず丁寧語で返す。


「私、悲しいです。せっかく会いに来たのに、そんな他人行儀な言葉遣いなんて」


君いつも丁寧語じゃん。


「いや、ほら。親しき仲にも礼儀ありっていうじゃないですか」


「まぁ、なら私たちはそれだけ仲がいいってことですね。うれしいです」


遥がめっちゃ笑顔を向けてきた。

笑顔が怖い…。

君そんなキャラだっけ?


「ははは。じゃぁそういうことで」

「おい」


俺が再び扉を閉じようとすると、杏奈のすごみのきいた声が聞こえた。

すごい形相でこちらを見ている。見ていらっしゃる。


「はい!」

「お前を今すぐ通報してもいいんだぞ。いいから早くなかに入れろ」


「は、はい!」


やばい。なんかオーラがあの裏ボスよりも怖い。

この人戦ってなかったけど、オーラだけ見たら一番強いんじゃ?


思わず扉を開け、部屋の中への道を開ける。


「あら、ありがとうございますね」


「い、いいえ」

「旭?」


丁寧語がお気に召さなかったらしい。


「お、おう。いいってことよ」

「それでいいのです」


やばい。なんかすげー調教されてる感じがする。


3人が中に入ってくる。俺の部屋に。

…こうみると俺の部屋めっちゃ汚いな。


「はは、なんというかほんとに男の部屋って感じだな」

「へぇ。男性の部屋って初めてはいりますけど、こんな感じなんですね」


いやそんな男性代表みたいな扱いされても困るんですけど。


「とっとと片づけろ」

「はひ!」


杏奈の短い言葉に体が反応する。

俺は散らかっていた部屋の片づけを始める。

杏奈は無言で窓を開けた。


…。


最近、換気してないから臭ったんだろうか…。

精神ダメージ9999だぞ。死にたい。


「しかし、旭君。君はそういう顔してたんだね」


紬が俺の顔をまじまじとみてきた。


「あ」


しまった、顔を変えてない!

そりゃ普段から変えてはいないけど。


「ちょっと変えてみてよ」


紬がおもしろそうに言う。

いや、シェイプシフターじゃないんですよ僕。

だから変えられないです。


「いやぁ、なんのことか」

「今更それでごまかせるって?」


紬がニコニコしながら言っている。目が笑っていない。

こっちもこわい!


「は、はひ」


とりあえず適当な人物に変える。


「おー」

「へー」

「…」


三人が俺の変化をまじまじと見ていた。


見せ物小屋か。ちょっと珍獣の気持ちがわかったよ。

分かりたくなかったけど。


先ほどまで俺の楽園だった一室が、いつの間にかフリークサーカスになっていた…。


というか、思わず勢いで押されたけど何でここ分かったんだ。

何故。


そして、逃げそびれた。

いや自宅だから逃げるもクソもないのだが。


掃除も程々に終わって、三人が座る。


「…それで、どうやってここが分かったんですか?」


「元の姿に戻ってからにしましょう」

「え? お、おう」


俺は元の姿に戻る。

なんかすげー遥にまじまじと見られている。


「まず、自己紹介から始めましょう。あのときは簡単な挨拶しかできませんでしたからね。私は神々廻ししば遥、『リュミエハーツ』のパーティを率いてます。こちらの二人は私に仕える使用人の紬と杏奈です」


「よろしくな」

「よろしくお願います、(そしてシネ)」


杏奈? いや杏奈さん? 挨拶の後ろに何か聞こえましたけど?


「それでここが分かった理由は…。まぁ内緒です」


内緒らしい。そうか内緒か。

ハイソな人たちに居場所がばれてるってめちゃくちゃ怖いんだが?

今晩寝れないかもしれない。


「それで、旭って本名はなんていうんですか?」

「えーと・・・・・・」


本名を言おうかどうか迷っていると、紬と杏奈の表情が気になった。

何かねらっているかのような。


…というか、住所までばれていれば、本名もばれてるよな。


「鏑木旭だ」


本名を言うと、杏奈と遥は紬を見て、紬はうなずいた。

そして何故かがっかりしたような顔を見せる杏奈。


「なんです?」


「いいえ、なんでもないんですよ」


と、遥はすげーニコニコしながらいう。

本名名乗るだけでそんなうれしそうな顔するの?

初めての挨拶を喜ぶお母さん?


「それで、えっと・・・・・・」

「・・・・・・?」


遥が何か言おうとするが、聞きたいことがあるのに聞けない感じの表情を見せる。

紬が代わりに口を開いた。


「まぁ、まずはあの日のこと聞こうか」


う…。そのことからか。


尋問パートがスタートしちゃったよ。

スキップボタンはどこだ? ないの?


「旭君はあそこで何をしていたんだい?」

「あー。ちょっと調べ物を」

「調べ物?」


検証とかなんだけど。

というか、そこらへんどう言えばいいんだ?


俺が悩んでいると紬が口を開く。


「別にとってくいやしないよ。さっき杏奈が脅したけど、別にそこまでのことをするつもりはないよ。正直に話してくれればいいんだ」


紬はめっちゃニコニコの笑顔を言う。


本当かよー。

後でガブっときそうな笑顔だよそれ。


「まぁ、スキルとかの検証ですよ」

「ふーん」と紬。

「魔石を取りに来たんじゃないのか?」と杏奈。

「まぁ、それもあります」と俺。

「それも?」と紬。

「初めてのダンジョンだったんで」と俺。

「あれが初めてだったんですか?」と遥。

「…ああ」と俺。


三人は顔を見合わせた。

どうも不可解な表情を見せている。


そりゃそうだよな。

あんだけのステータスがあって初ダンジョンなんて信じれない。


「旭はレベルいくつなんです?」


遥が質問する。すごいまっすぐな目で。


う…。


「…レベル99だ」


ばらすと、皆不審そうだが、若干納得してそうな顔をした。


「ふーん?」

「本当か?」

「…ええ」

「ダンジョンは初めてで、どうやってそこまでレベルをあげたんだい?」

「レベルは・・・・・・。なんかたまたま」


あれはどう説明すればいいんだ?


「たまたまレベルがあがるのですか?」


遥が尋ねる。


うーん。上がらねぇよなぁ。

けど本当にあがったんだよな。


今まで映画とか物語とかで急に力を得たやつは、何て人に説明をしていたんだろう。


神の威光? 完璧やばい奴じゃん。

蜘蛛にかまれた? 実際そんな説明されたら信じられないよなぁ。


たまたま力を得たんですってごまかす?

それとも正直に話す?


どれを選択しても理解されなさそうだな・・・・・・。

まぁ、だったら正直に話すか。


「たぶん、説明しても理解されないと思うけど」


そして、話してみることにした。

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