First Dive & First Contact &

第14話

あの後、課長の宮本から鬼教官のもとで再訓練を指示されて、田中聡が胃痛のあまりすっぽかして病院に行こうとして、途中で鬼教官に首を引きずられていた頃。


そして主人公、鏑木運啓が体を何となしにスキルを発動させたあまり、暴発して隣の部屋から壁ドンをされていた頃。




東京のとある高級住宅街の一角では、新進気鋭のパーティ『リュミエハーツ』に所属する6人がパーティハウス内で思い思いにそれぞれの時間を過ごしていた。


「むむむ…」


うなりながら、ここ最近のダイブのレポートを読んでいるのはパーティ『リュミエハーツ』のリーダーの神々廻遥(ししば・はるか)だ。


神々廻家(ししば・け)。

この家は日本において重要な意味を持つ。


ダンジョン発生以降、神々廻家はそのダンジョン探索を積極的に支援し、それによって得た成果を研究開発に転用し、多くのアイテムを作り出してきた。


神々廻グループが作り出した商品は攻略の最前線やダンジョン協会等で多く使われており、それに伴い莫大な財産を築いた。


神々廻遥はその神々廻家の三女だ。



彼女が呼んでいるレポートの内容はダンジョン内の位置や、味方の動きや敵モンスターの動き、スキルやアイテム消費などが書かれている。


神々廻遥は今、というよりここ最近ずっと悩んでいた。

新たに踏み込んだダンジョン、第7級の【栃木宇都宮ビルダンジョン】の攻略に行き詰っていたのだ。



【栃木宇都宮ビルダンジョン】は大量のビルと大量のワイバーンで構成されたシンプルなダンジョンだ。

このダンジョンはシンプルだが、シンプルゆえに面倒な場所になっている。


ダンジョン内にはステータスの宝珠が設置されているビルから一定範囲内に様々な種類の無数のビルが存在する。

そのビル達は地面からニョキニョキと生えていき、一定以上伸びたら地面を離れて空中に浮かび、空へと昇っていく。


そして空中に浮かんだビルはビル同士でビルを用いて連結したり、消えたりもする。

ビルが横に傾いたり、そのまま反転する場合もある。つまりはビルが空中で自由に浮遊している。


このビル群は日夜ずっとわずかに動いており、ダンジョンダイブするたびにその構造が変わっていく。

つまりはフレキシブルダンジョンになっているのが、この【宇都宮ビルダンジョン】だ。

まぁ要は不思議なダンジョンだ。


ここまでは、別に普通のダンジョンの範疇だ。おかしくはない。

おかしいのはそこに住むワイバーンの量だ。


ワイバーンは地上からは見えないどこか高いところに住んでおり、そこから飛び立ってきたワイバーンは地上から生えてきたビルの内外に住み着いたり壊したりする。

勝手に部屋を3階3部屋ほどぶち抜いて巣にしたりするので、大家がいたら怒髪天だろう。


そして下に行けば行くほど、つまりは地上から近いほど弱いワイバーンがいる。

このために、狩り自体は一定以上の手段さえあればそれほど難しくはない。狩り自体は。


彼女たち『リュミエハーツ』が目指しているのは狩りではなく攻略だ。


今まで何度もダンジョンダイブを仕掛けたが、どれも失敗に終わっている。

前回は確か300階ほどの高さまで入ったのだが、そこで退却している。


敵の物量に対して明らかに火力が足りていない。

いつもある程度狩っては体力も資源も限界になって退却する。

これでは攻略ではなく採取だ。意味がない。



「何か手はないか…」


彼女はこの問題を解決するためのプラスアルファを求めていた。

攻略法、レベル、スキル、アイテム、そして人員。


このダンジョンのワイバーンは獲物を見つけると、ひたすらいろんな角度から攻撃してくるということしかしてこない。

シンプルが故に、こちらもそれにシンプルに対応するということしかできない。


下手に相手を避けようとして、別の道がないか、ワープ的なものはないかと探って、一度50階あたりから落ちてしまったことがあった。

高レベルで落ちたのが比較的丈夫な前衛だったから、大きな怪我もなく骨折だけで大丈夫だったが、さすがに二度とあんなことはごめんだった。


レベルは、すでにこの級数である程度上げている。

各級数ごとにあげられるレベルには限りがある。大体ここは70くらいだ。根本的解決にはならない。


ワイバーンに有効なスキルは特にない。

しいて言うなら重力魔法などがあるが、燃費が悪すぎるし、すでに所持している。


今度オークションで新しいスキルがないか覗いてみよう。

ただ、もう最近はお小遣いがなくなってきた。

また父に頼んで見ようかな。1億くらい。


アイテムも厳しいか。父親は支援してくれているんだ。だったら何か有効な手があれば教えてくれるはず。

つまり現状はない。


「やはり、新しい人が欲しいですね…」


やはり人員。手数を増やすにはそれが一番手っ取り早い。だが、それはそれで問題がある。

遥は今まで来た人たちのことを思い出し、頭を痛ませた。


募集をかければ人は来る。新進気鋭のパーティということで方々に注目されているからだ。

だけど、何かしら問題を抱えている場合が多い。


そもそもまだレベルが全然追いついておらず、明らかに培養目的だった人。

レベルを上げるあまり傲慢になり、人間性に問題があった人。

私たちを若いからとか女だからと言って、チームの言うことをあまり聞かなかった人。


悪い場合は盗みや恐喝を働くような人もいた。返り討ちにしたが。

新メンバー募集はいつもリスクが付きまとう。


今までさんざん募集してきて、それでだめだった。

一番手軽な手段が、一番遠い手段となっている。やはりむりか。


今から他のダンジョンに変えるか? 

他の候補は、【鳥取砂丘ダンジョン】、【北海道雪原ダンジョン】

他にもあるがどれもフィールドが延々と続き、延々とモンスターが出てくるダンジョンだ。


どっちにしろ物量に対する手がないといけない。

つまりはそれだけの物量に対する火力がなければどこもクリアできない。


火力が物量の基準に満たずに無理に行けば、誰かが死ぬ。


どうするか。


悩んでいると、隣にパーティーメンバーの一人がやってきた。


「ねぇねぇ、遥、これ見て」

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