第11話

3分間、俺はなぶられ続けた。

ボコられ、こかされ、ひやされ、殴られ、切られ続けた。


3分あればカップラーメンが作れる時間だ。

そしてその時間は混乱して心臓バクバクだった俺を冷静にさせるのに十分な時間だった。


彼らの攻撃は俺に効いていない。レベル99は伊達じゃなかった。

だが全く効いていないわけじゃない。



鏑木旭

レベル:99


HP  :8321/9516


MP  :801/914


力  :922

速力 :601

体力 :807

魔力 :943

運  :999



この3分で約1200ほど食らった。彼らは全員で6人のダイバーからなるパーティだ。

一分で約400、一人当たり分間約70、秒間1のダメージだ。ドットダメージか。

俺にバトルヒーリングスキルはないから一生かかっても倒せないとは言えないことが残念だ。


大したダメージではない。

だが、彼らは連続の連続による攻撃で水が石を穿つといわんばかりにダメージを与えてきている。



反省しよう。舐めていた。俺は完全に彼らを舐め腐っていた。

彼らは訓練されたダイバー。

連携をして効率よく相手を処理することができる人達。


ダイバーは今では攻略法が確立されているところが多いため、死亡率は低いが、それでも死亡することがある。

油断したり、不注意で殺されることもある。

そんな中、生き残ってきた彼らだ。弱いわけがない。


そして俺は自分の体を使いこなせていない。

スキルを覚えていないし、そもそも大した格闘術も覚えていない。


殺気にあてられて腰を抜かしてしまう素人だ。

そりゃそうだ。こんな体になったのはつい先日なんだから。


体の経験値はマックスだが、戦闘に対する経験値が圧倒的に足りない。なんかエロイな。


これはゲームでいうところの課金最強装備を得た初心者と、無課金廃人の戦いだ。

全身鎧エクスカリバー対裸果物ナイフ。一撃スナイパー対100発ピストル。


そんな圧倒的不利な条件を、彼らは経験に裏打ちされた技術で対応していた。

勝負の天秤を自分たち側に傾け続けていた。


だが、それも終わりだ。

これだけボコられれば、初心者もさすがに覚える。伸びしろがあるのは初心者の方だ。

水が石を穿てるのは、石が動かず反撃してこないからだ。


ありがとう、己の未熟さを教えてくれて。


俺は腹に力を入れて立ち上がった。


相手が攻撃してくる。だが俺は避けるそぶりを見せなかった。

俺はまだうまく避けられない。

下手に避けると、いくら早くても回避動作が素人だからか、着地を読まれてその隙をずっと狩られていた。


攻撃は上手く避けられないなら避けてはいけない。それはこちらの攻撃機会を減らすだけだ。

ダメージが無視できるレベルならなおさらだ。無視できるならビビらなくてもいい。

息を吸う。今度は足に力が入る。


そして俺はその場で勢いよく跳躍して相手の懐に無理やり入って腹部に掌底を入れる。


その速さに相手は姿勢を変えるそぶりすらできない。力を抑えているが勢いよく吹っ飛び、壁にぶつかった。

そしてそのまま気絶した。血を少し流しているが、死んではいないようだ。


「俺は運がいい」


一人が落ちたことにより、相手の攻撃が止まった。


本来、訓練された彼らが一人落ちたところで戦闘が止まるなんてことはないのだろう。

だが圧倒的なステータス差が、それを現実としていた。


「スカイツリーダンジョンは後にしてよかった。レベル99とはいえ、このまま入れば死んでいただろう…」


「…何を言っている?」


「ありがとう。ここが俺のチュートリアルだ」


彼らの目の前から俺が消える。眼にとらえられない影が走る。

そして一人、また一人と弾き飛ばされてき、壁で気絶していく。


そうして1分後、俺以外に立っているものがいなくなった。







「やべぇ。思わずレベル99とか言っちゃった。」


バラしてはまずいことをばらしてしまった。

やっちまったな…。


いやぁ、なんか興が乗っちゃって、思わず口が滑っちゃったんだよな。

圧倒的にボコってやろうと思ってたら、意外にも最初ボコられちゃったし。


というか訓練されたダイバーの殺気に当てられすぎた。

気持ちが乱高下しすぎて情緒不安定になった。


ボコられてるのに『ありがとう。ここが俺のチュートリアルだ』なんて言ってしまうほどだ。

あれは酔ってるわ。 決してボコられることに快感を覚えていたわけではない。


…まぁ大丈夫だ。こんなところにレベル99がいるなんて思わんだろうし。

どうせただの虚言だと思われるだけだろう。


言っちまったもんは仕方がない。まさか口封じするわけにもいかんしな。

気持ち切り替えよう。




俺はちらりと虹色に光るダンジョンの入り口を見る。


「今日は…さすがに無理か」


今からダンジョンに入っている間に彼らが起き上がって応援を呼ばれたら流石にまずい。

レベル40であれだったんだ。おそらく日本のダンジョンの最大クリア級数が6だから、精鋭は55~70はあるはず。

チームでそんなんこられたらレベル99といえど素人の俺には無理。


けど、さすがに今日これで帰るのはちょっとだめだ。そんなのは認められない。

一年のカウントダウンは始まっており、時間がないので成果をもぎ取らねばならない。


俺は周辺で倒れている人たちのことを見た。

正確にはそれぞれの頭に生えている髪の毛を。






「では、収穫たーいむ!」


俺はどこからともなく取り出したバリカンで彼らの髪を剃っていく。

何でそんなものを持っているんだって? そりゃ内緒だ。


そうだ。今日は彼らの髪の毛を収穫しに来たんだ。貴重なダイバーの髪の毛。レアものだ!

ドロップ率はあのなんちゃってレアものドングリよりも低いに違いない!


ふんふふーん。

俺の鼻歌とバリカンのウィーンとした音が洞窟の中に響いた。

ダイバーたちの髪の毛が次々に落とされていく。


「む、女性がいるな。」


襲ってきたダイバーの二人は女性だった。

女性は可哀そうか? 髪は女の命とか言うし。


うーん…。


「まぁ世の中男女平等だし。パーティのみんなで坊主になれば、団結力が増すよね!」


この人たちの連携は素晴らしかった。団結力が増せばさらに強くなるに違いない。

これはそう、愛の鞭。愛の鞭なのだよ。私は皆さんに強くなってもらいたい。


うなり声を頷き声に変えてバリカンのスイッチを再び入れる。


そして動きやすいように短めのカットしていた女性の髪も、さらに動きやすくなるようにバサリバサリと剃っていく。

落ちた髪から次々に吸収していった。



「ふふ、ダイバーの情報、ガッポガッポ」


俺のステータスにはダイバー6人の情報が映っていた。


今日の成果は上々だ。

当初はモンスターを倒してドロップ品の魔石でも得ようかと思ったがそれは無理だった。


だが、その代わりの成果があった。

ダイバーを倒してドロップ品の髪を得た。これは普通にダンジョンダイブをしても得られない。


あんなドングリよりも一層美味しいアイテムだ。

ゲームでいえば裏イベント報酬ゲットだろう。


「いろいろあったが、終わってみれば戒めのチュートリアルだったな」


チュートリアルクエスト完了!


そしてすぐにそこから飛び去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る