第108話 人生設計

 ―――叔父さんの家からの帰りの車で、大吾さんが私達の今後……高校を卒業してからの事を聞いてきた。


「二人は大学行くのか?」


「俺は行くぞ」


 正吾君は端的に答える。


「学部は?」


「工学系だな。エンジニアってのになりたいね」


「私はてっきり音楽業界に行きたいのかと思っていました」


「ん? ギターでメシ食うの? 無理無理」


 正吾君のレベルで……彼自身、ギターの腕には自信を持っている筈なのに否定を自信満々に即答してきた。


「そうなんですか? 正吾君程の腕が有れば……」


「いやいや、夢追っかけてるギタリストなんて星の数ほどいるんだぜ? で、メジャーデビューするのが一握り。そこから有名になる奴なんて十人も居ないだろ? 現に丹菜、知ってるギタリストっているか?」


「正直、三人くらいでしょうか? そう言われると確かに居ませんね」


「そう言うこと。なので俺は堅実に大学行ってエンジニア目指す」


「ハイスペックスでメジャーデビューって話しは無いんですか?」


「それって、丹菜はメジャーデビューしてもいいと?」


「まぁ……条件さえ納得いけばいいかなって思うところはあります」


「実は空がやってるSNSの方には以前からレコード会社やらプロダクションから打診は来てたんだよ。だけど全部断ってる」


「何でですか?」


「俺らのバンドって、演奏が自由過ぎるんだ」


「確かに自由過ぎるところがあると思いますが……何がいけないんでしょうか?」


「例えばライブツアーをやったとする。昨日の演奏と今日の演奏が違ったら……同じお金払っている人に対して公平性が保てないだろ? プロでも日が経てば慣れやら疲れやらでその日の演奏にブレは出る。ただ、俺らはそんなのお構いなしに日々演奏が違い過ぎるんだ。それはプロとしてどうなんだ? プロになったら常にとは言わないが、ある程度は同じ品質の物を提供しないとな。でもそれだとハイスペックスじゃないだろ?」


「確かにそうですね。ハイスペックスってその時の勢いで演奏するのがカラーですから……」


「と言うことで、俺らは意識が超アマチュアだ。メジャーデビューはしないんじゃなくて、出来ないわけだ」


「納得です」


「ところで丹菜は大学は?」


「行きます。地元の大学に行こうと思ってました」


「学部は?」


「薬学部です」


「薬か……なんか向いてそうだな」


 すると、言い出した大吾さんはずっと黙って私達の会話を聞いてたけど、区切りが見えたのか突然口を開いた。


「今、バンド活動楽しいか?」


「そりゃ楽しいだろ」


「そういうのって仕事にするとつまんなくなるから、仕事の選択肢に入れてないのは正解だと思うぞ」


「なんでつまんなくなるんだ?」


「やりたくなくてもやらなきゃダメだからだよ。強制されんだ。俺のバンド仲間でもメジャーデビューしかけた奴らが何組かいたけど、結局型にハメられて個性殺されて、嫌になって音楽活動そのものを辞めてしまったな」


「なんかそれも寂しいですね」


「バンドに限らずなんでもそうだよ。理想とする将来像描いて、それを夢見て入社してくる新卒いるけど、そういう奴に限って『思ってたのと違う』って辞めてくんだ。理想を持ったらマイナスな部分をしっかり見てから進めよ。マイナスな部分が見えてない時はその物事がちゃんと見えてないって事だから、ま、物事決める時の一つの目安だな」


「なるほどな……」


 その話を聞いて、今後、私がやりたいと思っている仕事についてちょっと考えさせられた。確かにやりたい事とやらなきゃダメな事は全然違う。私の中で仕事に対する意識と認識が少し変わった気がした。


「ところで引越しはいつする? 平日は仕事と学校でダメだろ?」


「GWでどうだ? なんか予定あるか?」


「無いな……丹菜ある?」


「無いです」


 という事でGWに引っ越す事で決まったが……洗濯機と冷蔵庫どうしようかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る