第98話 初めての気持ち

「あれ? そう言えばクリスマスって……一緒に過ごした?」


「過ごしては無いけど、実は住んでるマンション近くて……クリスマスプレゼントはライブの帰りに連絡が来て……」


 ライブの後、挨拶もままならずに急いで帰ったのはそう言うことだったんだ……。


「ところで初詣はどうやって誘ったんですか?」


「冬休み前に、『初詣、何処の神社がお勧め?』とか聞いたら色々詳しく教えてくれて、じゃあ、神社でもっと詳しく教えてってお願いしたの」


 陽葵が最後に一つ、波奈々に心理テストのような事をした。


「私からも聞いていい?」


「何ですか?」


「目を閉じて……いい? ……誰でもいいから、クラスの女の子が彼と二人っきりで……手を繋いで歩いているところ想像して」


「———はい」


「どう思う? 思った事、素直に答えて」


 私と陽葵は……正吾君もニコニコして彼女を見守っている。これ、心理テストでもなんでも無い。単に波奈々の気持ちの意識付けみたいなもんだ。そんなことは知らず、波奈々は陽葵の質問に素直に答えていく。


「凄く……凄く嫌。なんか、モヤモヤする……私と代わって欲しい……うん……変わって欲しい気分だね」


 この一言で十分波奈々の気持ちは分かったけど、陽葵は更に追い打ちを掛ける。


「それじゃあ、彼が背中から自分を抱き締めてきたら……どう?」


「———(ボン!)」


 顔がみるみる真っ赤になった。


「ごめん、波奈々、こんな心理テストみたいな事したけど、私達三人、このテストする以前に答え分かってるんだよ」


「え? ……何?」


「―――恋だね」


「はい?」


「120%恋だね。 ―――初恋。波奈々、小宅君に恋してんの」


 その言葉に波奈々は目を開き、キョトンとした顔で私達の顔を見る。


「小宅君が誰か他の女の子と歩いているところを想像して『やだな』『モヤモヤする』『代わって』って思うのが『好き』って気持ちの一つなんだよ。ちょっと聞くけど、正吾君に対して『いい人だな』って思うでしょ?」


「思う」


「それも『好き』だね。でも正吾君への『好き』は波奈々の『音楽が好き』とか『ケーキが好き』と同じレベルで『好き』ってやつ」


「はぁ……」


「小宅君に対する『好き』は、『自分の物にしたい』って気持ち……波奈々、小宅君の全部を知りたいでしょ」


「うん……知りたい……」


「それが恋。って言うか、文化祭で『お化け屋敷を一緒に』って思ってる時点で私達三人『スキスキじゃん』って思ったけどね。と言う事で彼に振り向いてもらえるように頑張ろ」


「……ありがと。 ……うん、頑張ってみる……」


「恋か……」と呟やく彼女のその表情は何だか楽しそうに見えた。


「で、なんかアドバイスとか頂けますか?」


「早速前向きですね。うーん……そうですね……家が同じ方向なんですよね? 通学時間って同じですか?」


 その質問に波奈々は首を横に振る。


「ううん……同じじゃ無い」


「えっとですね……まず、自分の学校での立場っていうか注目のされ方ってご存知ですか?」


「まぁそれなりに……丹菜達二人と同じ立ち位置だって事は認識してるよ」


「それなら話しは早いですね。まず、同じ時間の電車に乗りましょう。なので―――」


 私は、正吾君と付き合う前の通学の方法を波奈々に伝授した。勿論、私の部屋がこの部屋の隣って事は伏せている。


「―――って事を私と正吾君はお付き合いする前はやってました。結構いいですよ。何気に朝から成分補給出来るんで」


「なるほど……良いこと聞いた♪ ありがと。早速新学期から実践してみるよ」


 ・

 ・

 ・


 ———皆が帰って正吾君と二人になった。


「私てっきり波奈々は正吾君の事が好きなんだとばかり思ってました」


「そうだったの?」


「はい。だって正吾君をみる目がちょっとキラキラした感じありましたもん」


「いやー……しかし相手がオタク君って……彼女もお前ら同様学校では有名人だぞ。これは……今年のバレンタインも荒れそうだな……」


「ですね。取り敢えず照準はバレンタインって事で。その前にくっつけばよし。目標はチョコレート渡す……ですね」


「初詣の時オタク君に波奈々の事どう思ってるか聞いたんだけど……気はあるってさ。寧ろ無い方がおかしいって自分で言ってたから……変に拗らせなければくっつくのは時間の問題だな」



 波奈々って可愛い顔して恋すらまだだったってのはちょっとビックリしたけど……私も去年までは同じだったか……。

 この初恋、実ればいいね。

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