第86話 嘘くさい
———放課後、準備も佳境に入った。そんな中、陽葵が数人の女の子と話をている。ちょっと珍しい光景だ。ただ、話の内容が……
「ねぇ、大宮君と別れて浅原君と付き合いなよ」
「希乃さんには浅原君みたいな人が一番お似合いなんだよ。何で分かんないの?」
「浅原君だったら希乃さの事、今の彼氏よりももっと大事にするって」
なんか内容が
「付き合うも何も浅原君好きでも何でもないし……」
「なんで好きじゃないの? 浅原君いい人だよ。優しいし……それに今の彼氏よりカッコいいじゃん」
「まぁ、カッコいいのは認めるけど、私、優しい人に惹かれないから……期待に添えなくて御免ね」
「大体、希乃さんの好みってどういう人なの?」
「え? 大地みたいな人だけど?」
「何の取り柄も無さそうな? そんな人より浅原君みたいに魅力の塊みたいな人の方が絶対いいじゃん!」
「えー……だったら自分が付き合えばいいじゃん? そこまで言うんだから好きなんでしょ? 浅原君だって自分に興味のない人と付き合うより自分のこと好きって言ってくれる人と付き合った方が全然いいと思うけどね」
そんな問答をしてると、浅原君がやってきた。
「なんか、僕の事で揉めてるって聞いて来たんだけど……」
「あ♪ 浅原君いい所に来た。今、希乃さんに今の彼氏と別れて浅原君と付き合いなって薦めてたんだけど、希乃さん全然応じてくれなくて……」
「なんで希乃さんに僕の彼女にって薦めてんだい?」
「浅原君、前言ってたじゃん、『希乃さん彼女だったらな』って、だから私達希乃さん説得してるのに……」
「おいおい、こんなやり方されたんじゃ、希乃さんと付き合えたとしても、それ、希乃さんのお情けでしか無いじゃん。僕はそんなの望んでないよ。ごめん希乃さん。皆にはちゃんと言って聞かせるから」
浅原君は困った顔をしているが、なんか演技くさい。
「まぁ、この際だから本音言うけど、最近、彼と一緒にいる事多いけどさ、正直何処がいいのか全然分かんないんだよね」
その言葉に取り巻きの子達が頷く。
「なんで希乃さん、大宮君と付き合ってるかが全く分からないな。僕だったらもっと刺激的な毎日をプレゼントできると思うんだけど……どう? 大宮君と別れて僕と付き合ってみない?」
———! ついに本性が出た感じだ。浅原君の顔は何処となく自信に溢れている。
「希乃さん、浅原君もこう言ってるよ」
なんでそんなに浅原君を推すのか……全然分からない。
ただ、今この状態で陽葵が「ノー」と言っても取り巻きは納得いかない筈。口撃は更に強くなるだろう。
私は陽葵を見ると……陽葵……なんか企んでるような……あの目付き……何か閃いたようだ……しかも悪い閃き方の目だ。そして含みのある笑顔で陽葵は口を開いた。
「そう言えば浅原くぅん、噂で聞いたけどぉ、文化祭のステージでハイスペックスとぉ、一緒に演奏するんだってぇ? しかもギターでぇ」
あ、ついに出た。今まで公開しなかったが、陽葵の「ちょっと語尾伸ばし」。これが出た陽葵は100%黒陽葵だ。ブラック陽葵だ。
陽葵、皆に聞こえるようにちょっと大きな声で話した。顔はもう悪役以外の何者でもない。
だけど、陽葵さん、ライブの情報出しちゃいます? ま、当日変に騒がれても困るからいっか。
「希乃さん……ちょっ、え? あー……うん、そう……だけど……」
その一言で教室中がザワついた。
「ウソ? マジ? って、ハイスペックスってまだ卒業してなかったのか? てか、何で浅原がハイスペックスと知り合いなんだよ!」
「あ、うん、ちょっとライブハウスで偶々知り合うキッカケがあって……ハハ」
そして陽葵は話を続ける。
「ハイスペックスってトゥエルブ入る前は『ギター殺し』って言われてたの皆知ってるよねぇ?」
クラスの男子が答える。
「あぁ、知ってるも何も知らねぇ奴いねぇんじゃね?」
「で、思ったんだけどぉ、浅原君ギターなんでしょぉ? 文化祭のライブでハイスペに殺されず、最後まで演奏出来たらぁ、私、浅原君の彼女になってあげるよぉ♡ ニヤリ」
陽葵から意外な提案が出された。これ、陽葵自身浅原君を潰しに行くつもりだ。負ける気は更々無いのは言うまでも無い。
「僕の彼女になるならなんでもいいや。それじゃあ、お前達も僕が負けたらもう希乃さんに口出しすんのんは無しな」
「うん、分かった。浅原君なら余裕だよね。当日、応援行くね」
取り巻きの子達も納得したみたいだ。
陽葵……完全に顔が悪役だよ。
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