第84話 洗脳?

 ———メニュー班は準備が着々と進んで、メニュー表も材料も全て準備完了した。因みに文化祭までまだ一週間ある。やる気を出した陽葵、仕事早すぎ。


 他の班は、流石に作業は終わっていない。だけど皆、楽しく作業を進めていた。暫くみんなの作業を眺めていると、凄く違和感のある光景が目に飛び込んできた。

 看板・パネル班は作業開始当初、浅原兄が率先して作業をして、時には教えを乞い、時には作業を手伝って貰ったり、皆と作業を進めていたと思ってたんだけど、今、浅原兄は一切作業をしていない。周りの皆が作業をして、浅原兄がその出来栄えとかを確認しているのだ。


 その光景を見た私はこっそり陽葵に聞いてみる。


「ねぇ、陽葵、なんか変じゃ無い?」


「丹菜も気付いた? 一昨日辺りからあんな感じの時間が目に付くようになって、今日は完全に作業して無いね」


「周りも気付いて無いみたい……っていうか、彼の為に作業してる? そんな感じだね」


 すると、浅原兄が私達に気付いたらしくこっちに寄ってきた。


「そっちはもう作業終わったんだ? 早いね」


「だから言ったでしょ、四人いれば十分だって」


「だったらうちのパネル作り手伝ってくれない? あと少しで終わるんだけどさ」


「ごめん、私、絵とか苦手。手伝っても何も進まないよ。それにもう少しで終わるんなら手伝う必要ないじゃん」


「それもそうだね。悪いね、邪魔して」


 そう言い残し、彼は作業に戻った。作業してないけど。

 

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 日を追う毎に彼の周りにいる人は文化祭の準備に限らず「彼の為に率先して動いている」感じになっている。しかも目はキラキラさせてるのだ。そして、彼が落ち込めば慰め、喜べば共に喜ぶ。「仲間」としてみれば当たり前の光景なのだが、何かが変なのだ。そしてそのちょっとした違和感みたいなものが遂に顕著に現れた。


 ある日、普段あまり話しかけてこない子が陽葵に話しかけてきたんだけど……。


「ねぇ、希乃さんって今の彼氏との仲ってどうなの?」


「え? どうしたの急に」


「ううん、ただ、はたから見てると浅原君とお付き合いした方がお似合いだなって思って……」


「———!」


「なんか、浅原君、希乃さんのこといいなぁなんて話してたから、ちょっと気になってね。御免ね、変な事言って……」


 確かに変な事言ってるけど……何で? なんか変だよ? どうしたの?


「陽葵……」


「実はちょいちょい滲ませた話はされてたんだけど、今日はかなり明白あからさまだったね」


「前からあったんですか?」


「うん、本当に気付かないレベルでね。浅原君の良さをさり気無く言ってきたり、大地の事聞きながらも浅原君と比較する感じで浅原君の方がいいような雰囲気を出してきたり……ま、私は全く興味ないから馬の耳にだね」


「陽葵……私は敢えてツッコみませんよ」


 ・

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 そして遂に、クラスメイト全員ではないが、浅原君と結構仲良くしている女の子達が周りに対してアピールするように陽葵と浅原君を囃し立て始めた。


 陽葵と浅原君が話をしていると、周りから遠巻きに、しかも周りに聞こえるように二人の事を話しているのが聞こえてきた。


「やっぱ二人で並ぶとお似合いだよね?」

「大河君、まんざらでもないんでしょ?」

「この前大河君『希乃さん彼女だったらなぁ』なんてぼやいてたしね」


 その言葉に浅原君も苦笑いしながら、


「ごめん、希乃さん。なんか皆変な事言って」


「別に浅原君が悪いわけじゃないからいいよ」


「そう言って貰えると助かるよ。ただ、彼女ら言ってる事まんざら嘘でもないんだけどね」


「…………」


 陽葵、今の一言、無視……というより意にも介さずといった感じだ。ただ、浅原君の表情はどこをどう捉えたらそうなるのか「手応えアリ!」みたいな表情をしている。言い換えれば「ドヤ顔」かな?


 なんか段々面倒な事になってきた気がするんだけど……。

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