第59話 軽音部の相談
———私達は学校を出て校門まで歩いているんだけど……この六人で歩くといつも注目を浴びちゃう。
そう言えば、陽葵も春休みに入る頃には「葉倉丹菜 派」か「希乃陽葵 派」かと言われるほど「学校一、二を争う美少女」に昇格してたらしい。
どうやら、バレンタインでの「大宮大地と交際宣言」以来、彼女の大地君に対する行動に制限が無くなったので、何の遠慮も無く大地君とイチャついているのだが、その時の表情が凄く可愛いと大評判なのである。
いつものように、陽葵は大地君の腕にしがみついて、芳賀さんは、空君の袖を掴んで、私は正吾君と恋人繋ぎで手を繋いで歩いている。
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———喫茶希乃音に着いた。
“カラン♩コロン♫カラン♪……”
「こんにちはー」
「お、いらっしゃい。今日は皆お揃いだね」
「先日はお騒がせして申し訳ございませんでした」
「あぁ、それは気にしないで。奥の方空いてるから……」
「あ、お父さん、今日は私の部屋で」
陽葵はそう言うと私達を自分の部屋に案内した。
陽葵の部屋は、八畳くらいのちょっと広めの部屋で、普通に女の子な感じの部屋だ。可愛らしい物も有れば化粧品とかも普通にある。私の部屋と大差ないかな?
大地君はカバンを適当な場所に置くと慣れた感じでベッドの上で胡座をかいて座った。
「えっと……カツサンド六つと……ごめん、飲み物はこのメモに書いて」
陽葵はそう言ってメモ用紙をテーブルに置くと、チェストから着替えを取って部屋を出て行った。どうやら着替えてくるようだ。
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皆でカツサンドを頬張る。テーブルは六人で囲むにはちょっと狭いので、陽葵と大地君は勉強机で食べている。そして陽葵は大地君の膝の上に座っていた。
食事も終わり、空君が話し始めた。
「でだ、来週の新入生歓迎会なんだけど、部室寄る前に生徒会に確認したら『必ず紹介する事』だそうだ」
「紹介しないのが一番だったんだけどな。やっぱり紹介必須だったか……それはちょっと問題だな……」
私達が悩んでいる理由は幾つかある。
一番の問題は「ハイスペックス」だ。あくまで皆に内緒である。しかも、去年卒業したのかすら不明の謎の集団(?)だ。
トゥエルブについても文化祭後、暫く騒がれたけど、最近ではライブ動画を配信しても動画は話題になっても、「トゥエルブ=本校の生徒」と言う話題はそれほど出ない状況だ。
第二の問題は我々が「軽音部に所属している事」だ。これも内緒の話だ。「軽音部に所属」というより「バンドをやってる」ことそのものが秘密事項だ。
年度末、偶然この部の存続を知り、私達が入部して部を存続させただけの部だ。
部としての活動は、「出来なく無い」が本格的な活動は「出来ない」でいる。部員である私達も、「バンド」というイメージからは程遠い人達ばかりだ。
第三の問題……入部希望者がいた場合どうするか?
希望者が幽霊部員になる事を目的としているなら問題は無いが、この手の部で幽霊部員になる人は想像できない。絶対やる気がある子が来るだろう。
そうなると、第一と第二の問題が係ってくる。
第四の問題は、我々自身が幽霊部員である事だ。放課後、全く活動していない。と言うより活動できない。それが明るみになった場合、軽音部そのものの存続に関わってくる。無くなっても問題は無いけど、譲り受けたものを手放すのは、正吾君に言わせれば「ロックじゃ無い」だ。
「———普通に紹介でいいんじゃないか?」
正吾君が口を開いた。
「普通?」
「ああ、去年の軽音部の———」
———正吾君は淡々と紹介する内容と入部の条件について説明した。
内容を聞く限り大丈夫そうだけど……それだと正吾君、ちょっと目立っちゃうんじゃない?
———当日、空君とギターを持った正吾君がステージの上に立った。
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