第45話 暴露の日

 ———私は彼の返事も言葉も何も聞くこと無く、私は彼の腕を取り、廊下へ向かった。食堂内にはかなりの人が入っていたけど、私達が歩くと皆私達を避けて道を作ってくれた。まるで「十戒」の海が割れるシーンのようだ。

 後で陽葵に言われたがこの時私は満遍の笑みだったそうだ。そして、正吾君の食器を片付けてくれたらしい。ありがとう。


 当然だけど「学校一美少女」と言われる私の告白は全生徒に知られる事になった。


 廊下を移動しながら正吾君は参ったって表情をしながら私に話しかけてきた。


「丹菜さん……勘弁して下さいよ」


「『丹菜さん』じゃなくて『丹菜』ですよ。ニコニコ」


「丹菜、何でこんなことした?」


「正吾君言ったじゃないですか。『離れて見えることもある』って。見えた結果、私は正吾君が側にいないとダメダメだって事が分かりました。そして我慢出来なかったので、行動に移しました。ふふふ」


「一日でダメだったの?」


「もう、耐えられませんでした。私もビックリです。寂しすぎて、気がおかしくなりかけました」


「分かった。常にとは言えないけど、出来るだけ丹菜の傍にいるよ。正直、俺もダメダメだった事が分かったしな」


「そうなんですか?」


「俺もお前がいないとダメダメだよ」


「私のことスキスキですか?」


「認める。丹菜の事スキスキだ」


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 教室に入ると、私はクラスの皆に大きな声で正吾君の事を紹介した。


「皆さん紹介します♪ 私の彼氏の御前正吾です♡ 皆さん仲良くして下さい」


 皆、私達を唖然とした顔で見ている。


「ちょ……おい、仲良くって何だよ」


「正吾君も言って」


「え? 俺も? 丹菜の彼氏の正吾です……ども。 ———これでいいか?」


「ま、ヨシとしましょう♪」


 食堂にいなかった人達は状況を飲み込めていないようだ。

 その人達は、食堂で終始見ていた人から事情を聞いて驚いている。


 私達のやり取りを見た女の子が一人、高瀬さんに声を掛けた。


「ねぇ、高瀬君、葉倉さんいいの?」


「ん? 俺? 別にいいよ。俺も彼女いるし———」


 そう言って、高瀬さんは椅子に座っている女の子の隣に立って肩に手を置いた。その女の子は笑顔で置かれた手の上に自分の手を添えた。


「俺の彼女の 佐藤舞美さとうまみです」


「「「ええええぇぇぇぇ――――!」」」


 そっちはそっちで大騒ぎだ。高瀬さんもオープンにしちゃった。そして高瀬さん一言。


「舞美のこと取っちゃダメだよ」


佐藤舞美さとうまみ」実は佐藤さん脚が片方義足である。人あたりが良く、何事も前向きで色々チャレンジしてみる、所謂「意識高い系」に分類される子だ。クラスの中心的人物の一人で、高瀬さんのグループにも在籍している。たまに義足が悪さして不自由する時がある。そこが男子の保護欲を駆り立てられるらしく「守ってあげたい系女子」に分類されてるようだ。


 初詣で私は彼女が歩いて来たことを心配していたのはそう言うことでもある。


 話は戻して、教室内では男子と女子が数名、天井を見ている……涙を堪えてる?


 女子は高瀬さんへはまだチョコを渡していない。早い時間に渡すと置き場所がなくなるので放課後に渡すという高瀬ルールが敷かれていたようである。これ……彼にチョコ渡せないよね?


 佐藤さんはさり気無く手を合わせながら私達に聞いてきた。


「えーっと……あの時の……なの?」


 どうやら「初詣の時一緒にいた男なのか?」と聞いているようだ。


 私は笑顔で口元に人差し指を当てた。その様子を見た高瀬さんが私の代わりにこっそり耳元で答えたようだ。佐藤さん、かなり驚いている。

 その様子に気付いたのか正吾君も笑顔で人差し指を口に当てた。


 今度は他の子から質問が来た。


「葉倉さんはいつから……正吾君のこと……」


「私ですか? 正吾君ラブになったのは文化祭前かな? 一緒にいるようになったのはもっと前ですけど」


「おいおい、あんまり余計なこと話すなよ」


「いいじゃないですか。減るもんじゃ無いですし。それに今まで内緒にしていたことが多いんです。聞かれた事はちゃんと答えないと相手に失礼ですよ」


「———そうだな」


 素直な正吾君の一言にクラスの子がビックリしている。


「え? そんなあっさり許しちゃうの? 正吾君ていつもこうなの?」


「そうですよ。私の言うこと何でも聞いてくれます。エヘヘ」


「意外……ちょっと怖いイメージ持ってた。って、こんな葉倉さんも初めて見るけど……可愛い」


 食堂から戻ってきた陽葵が横から割って入ってきた。


「大体、私が前に『正吾っぺ』なんて言ってたあの『正吾君事変』あったでしょ? あの時だって正吾君なんにも言わなかったでしょ」


「すると、希乃さんも知ってたの? この二人の事」


「知ってるも何も、側でずっと見てたよ。もどかしいったらありゃしない」


“キーン、コーン、カーン、コーン……”



 今日は陽葵、高瀬・佐藤、私と正吾君の事実が発覚し阿鼻叫喚の一日になった。


 ・

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 ———放課後。


 正吾君は自分の部屋の鍵をこっそり私に預けた。


「合鍵、今無いからこれで部屋入って」


 正吾君自身の部屋の鍵だ。私はその鍵をギュッと握り、胸に押し当てた。


 正吾君の鍵を預かっただけなのに凄く信頼されている気がして嬉しかった。

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