姥鳥

第10話

 クチャクチャと咀嚼している音が響く部屋の中で、火車が笑っていた。

 短髪の髪を逆立てて、目には歓喜の火が宿り赤みを帯びる。火車にとっては半年ぶりの食事になるだろうか。仕方のない事とはいえ、我慢の限界でもあったのだろう。

「月神、こっちへ来い。」

 俺は火車の隣へ並んだ。そして、火車の手が俺に伸びる。朝、手入れした俺の長髪を鷲掴みにして俺の顔を引き寄せる。三編みが解けた。

 ッ!!

 熱さに似た痛みが口元を走る。火車が俺の唇を噛みちぎり、俺の口元の皮膚も一緒に火車の口へと入って行った。

 クチャクチャと俺の唇を咀嚼する火車。

「不味いな。相変わらず。」

 なんて、口にして俺の唇だった物をペッと吐き出した。

 俺は口元を手で押さえる。血はだらだらと溢れてきて喉元を伝い服を赤く染めていく。

 そんな俺を火車は気にもとめない。いつもの事だ。目の前の女に集中している。

 奴は肉を喰っていた。俺達がこの部屋に入って来る前から。そして、入った後もそれを止めない。奴は背中に刺さった数本の鉄の棒も無視して、今も目の前の肉を喰らい続けている。

 蝿が俺の目の前を横切った気がした。

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