第8話
声が出ない。喉が潰れている。
泣いている様な、それとも安らんでいるかのようなくびり鬼の死に顔が羨ましかった。
くびり鬼は部屋を後にした火車を見て観念したのか力を緩めた。俺はその隙に奴を殺した。火車がもう一人を食べれたのかわからないからだ。興奮した火車はいつもやり過ぎる。くびり鬼の周囲に蝿が群がり逃げていった。
ガラガラと雑に戸を開ける音をたてて火車は部屋へと戻ってきた。火車の血糊の付いたボロボロの服が目についた。
くびり鬼に覆いかぶさっていた俺を火車が蹴ってきた。
「こいつは、俺のもんだ」
火車はそう宣言するとくびり鬼を食べ始めた。俺は火車のその姿を見つめていた。
火車がくびり鬼を食べ終えた頃、俺も話せる程度には回復していた。
「血がたりない」
貧血で倒れそうだ。力を使うといつもこうなる。
「仕方ねえな」
と、火車は首を差し出してきた。俺は宝物に触れるように首に触れ、噛みついた。
火車の血を吸うといつもあの夜の日を思い出す。
研究所が破壊された夜。俺と火車だけが残されたそこで語り合った。
「何でお前は逃げなかった?」
「火車が逃げないからだよ」
「気持ち悪いな」
「火車だけが僕の生きる希望だった」
「お前は何をやっても死なねえじゃん」
「散々斬られて、刺されて、潰されたからね」
「ここを出たら美味い飯でも喰いてえな」
「外には美味しい物もいっぱいあるらしいよ」
「何で知ってんだよ」
「大人がそんな話をしてたから」
「どうやって聞いたんだ?」
「霧になって」
「化け物かよ」
「化け物だよ」
「お前と2人っきりだと気が滅入る」
「ぼくは嬉しいよ」
「気持ち悪い」
「結構傷つく」
「お前は外に出てしたい事はないのかよ」
「そうだな。しいて言えば旅がしたい。火車と一緒に」
「願い下げだね」
「そう言わないでよ」
「それなら、ここから出してくれ。そうしたら考える」
「わかった。約束だからね」
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