二十五話 熱血先生のマンション
「ここか、先生の自宅は……」
一人用マンション3階の一室。僕の担任の相澤先生の自宅だ。今年二十八歳になる若手の先生で、熱血肌で生徒の面倒見もいい。
本来は、職員室にいる時に相談に行くべきだろうけども、学校では有紗と一緒なので話しずらい。
有紗に言えばいいのだろうけども、心配させたくない。今回のことは一人で解決すべきだと思った。
僕はいるのか不安になりながら、エレベーターで3階に上がりインターフォンを押した。
「珍しいな、佐藤が俺のマンションに来るなんてさ」
気さくな表情で僕を部屋に迎え入れてくれる。一人暮らしの男性のイメージと違って、1DKの部屋は綺麗に片付いていた。
「相澤先生、意外にも綺麗好きなんですね」
「いやさ、俺はそうでもないんだが……」
相澤先生は珍しく顔を赤らめて、頭をかいた。きっと掃除をしてくれているのは彼女だ。
「急に訪れて、すみませんでした」
「いいよ、いいよ。あいつ帰ってくるかもしれないけども、気にすんな。その代わり学校では内緒だぞ」
相澤先生は人差し指を立てて内緒のポーズをした。きっと彼女と同棲してるんだ。
「そこに、座れよ」
相澤先生は四人がけのダイニングテーブルに僕を座らせて、自分も正面に座る。
「大事な用なんだろ? 冬月さんとのことか?」
「えっ、先生ご存知なのですか?」
「そりゃな、学校一可愛い女子が佐藤の手を引いて、学校から飛び出したと聞いたら噂にもなるだろ」
僕と有紗のことは、生徒だけでなく先生の噂にもなってたんだ。
「で、相談事とはなんだ?」
「実は、悩んでることがありまして……」
僕が話そうとするとインターフォンが鳴った。同棲している彼女が戻ってきたのだろう。ガンッと扉にぶつかる音がした。
「隼人、荷物重いから開けてよね」
「あ、僕居ない方がいいですか?」
「いや、恋愛話ならあいつのほうが適任だろう」
ちょっと待ってろと言って、玄関ドアを開けて女性を迎え入れる。
「あれ、西山先生?」
「うわっ、佐藤くん。珍しいわ」
そこでダイニングテーブルに何も置かれてないことに気づく。
「隼人。コーヒーも出してないの? 信じらんない」
ちょっと待ってね、とニッコリ笑顔を向けると、台所からコーヒーメーカーを取り出した。
「お砂糖とミルクは入れた方がいいよね」
「ありがとうございます」
それにしても驚いた。相澤先生の彼女が西山先生だったなんて。相澤先生はお洒落もせず、学校ではいつもジャージ姿だ。
それに対して西山先生は、男子から可愛いと言われてるマドンナ先生だ。
「正直、驚きました? おふたりが……」
「このことは内緒、……だよ」
先ほどの相澤先生と同じく人差し指を立てて内緒のポーズをする。西山先生だと絵になる。
僕はコーヒーを飲みながら、お皿に並べてくれたチョコレートケーキを一口食べた。
「コーヒー、かなり甘くないですか?」
「高校生だから、甘い方が嬉しいと思ったけどダメだった?」
「いや、駄目じゃないですけども……」
モノには限度と言うものがある。ケーキが甘く感じられないくらいには甘かった。
「まあ、私たちのことは置いといて、冬月さんとはどうなの? 君のクラス、君と冬月さんの話で持ちきりよ」
ダイニングテーブルに座り、ミルクたっぷりの甘そうなコーヒーを飲みながら、西山先生は嬉しそうに話す。やはり女子は大人になっても恋バナが好きだ。
「実は僕たち付き合ってます」
ここはハッキリと言っておいた方がいい。
「おっと、惚気話かぁ。いいよね、青春だねぇ」
西山先生は自分のことのように嬉しそうだ。
「先生も青春真っ盛りじゃないですか」
「うーん、隼人どう思う?」
「いや、どう思うって言われてもよ」
その言葉に西山先生は思い切り溜息をついた。
「熱血教師か知らないけども、彼女のことも考えて欲しいよね」
西山先生は僕の方に思い切り乗り出した。胸は有紗と変わらないが大人の色気に僕は思わず唾を飲み込む。
「あーぁ、これなら高校生に乗り換えようかな。佐藤くん歳上とかどう?」
「おい、遥。先生と生徒の恋は駄目だろ」
いきなり言われ僕は内心ドキッとしてしまう。からかわれてることは間違いないけれども。
「珍しい。やきもちだね。そう言うのいいよ。ずっと無表情で俺について来いスタイルだと彼女に嫌われちゃうよ」
「彼女って遥のことだろ」
「だ、か、ら、わたしに嫌われないようにしてってこと」
完全に当て馬にされた感じはするが一応……。
「えと、僕には有紗がいるので、ごめんなさい」
「おっと熱いね。その発言、いいよいいよ。なんか青春感じるわ」
「その有紗のことなんですが……」
僕は今までの話をかいつまで話をした。有紗が僕の優しさに惚れてくれた、と言うと、中山先生は、男は優しくないとダメだよ、と相澤先生を教育していた。
「それにしてもさ、今の時代にそんな話あるの? 許嫁なんてありえないじゃん」
「まあ、そう言うなって。あのお屋敷のお爺さんなら、そう言うだろう。かなり頑固だしな」
「相澤先生は、有紗のお爺さんをご存知なのですか?」
「うん、冬月さんが高校に入学した時に、かなり寄付をしてくれたんだがその後、いちいち学校の行事に注文をつけて来て、説得するのに苦労したんだよ」
苦笑いする相澤先生。西山先生も同意見らしくて、駆け落ちなどはいい結果にならないだろう、と言うのがふたりの結論だった。
「冬月さんのお爺さんと近藤さんのお爺さんは昔、事業で何かと揉めてたんだよ。ふたりが仲良くなったきっかけは後継問題だったらしいんだ」
「後継問題ですか?」
「詳しくは知らないけど、冬月さんのお家は有紗さんしかいないわけだろ。当然、将来の会社の行く末が心配じゃないか」
「じゃあさ、佐藤くんじゃ無理ってこと? こんなにいい子なのに、別れるしかないの?」
西山先生の言葉に相澤先生は、うーんと腕を組んだ。田中さんが話していた男子生徒の話を聞くには、ちょうどいい機会だ。
「すみません。昔、ある生徒が彼女のお父さんを説得するために学年一位を取り続けたと言う話知りませんか」
「なんの話だろ? 遥、なんか知ってるか?」
「あれじゃないの? 冬月さんのお父さんの話」
―――――
遅くなりました。
東京長期出張で、色々バタバタしてました。
今日からは同じペースで書けそう。
今後もよろしくお願いします。
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