雨降りの放課後、大好きなねこ系美少女を拾った。離れたくないから一緒に住むことになった。

第8話 亜理紗のお母さん

「ちょ、亜理紗早い！　道細いんだから、もうちょっと手芸部の俺を労わってくれ！」

「うるさい、私だって帰宅部！　ちゃんとついてこい鮫島……ていうか、こう言うのは男の子の方が引っ張ってくれるものじゃないの？」

「だって道わかんないし……俺の知ってる道だったら、いくらでもエスコートするけど。柊木の事、俺がエスコートしてあげられるけど」

「……そう言うとこ、また、さっきも……は、早くついて来て！　遅れちゃダメだよ、早く！！！」

「……はーい」

　☆

　早足で歩く柊木について行きながら細い道を抜け、それから数分歩いたところにある白い壁のアパート。

　たまに遊びに来る、柊木のお家。

「なんか久しぶりな気がする、柊木の家」

「そうだっけ？」

「うん、最近俺の家ばっかりだったし。最近ずっと、俺の家来てたでしょ。そのおかげで、母さんが柊木用のスペース作ってたし」

「それもそうだったね。あのスペース、結構嬉しいよ。あ、そう言えばお母さんも最近鮫島に会えてない、寂しい！　って言ってたような気がする」

「え、柊木のお母さんが……あぁ、なんか納得」

　そう言って楽しそうに笑う柊木の言葉に、少し驚きながらも納得する。

　柊木のお母さん、そう言う人だもんな……毎回俺がいると二人きりの時にセクハラじみた質問とかそう言うの投げかけてくるし、帰る時寂しそうだし。

　俺と柊木の事、結構心配してる感じだと思うし、俺が来ると結構張り切って料理とお菓子作ってくれるし。確かにそう言う事を柊木のお母さんが言ってるのは納得だし、脳内再生も余裕だ。

「ふふっ、そうだね。うちのお母さん、鮫島の事大好きだもんね。いつも日向が家に来るときはすっごく料理美味しいし」

「いつもお世話になってます、ありがとございます。柊木のお母さんに好かれてるのは、嬉しいな俺としても」

「うん、そうだね……でも、お母さんより私の方が日向の事大好きで、私の方が日向に美味しい……」

「だって、将来的にはそう言う……え？」

「んんっ、何でもない！　ちょっと独り言！　そ、それより早く部屋入るよ、お母さんもう家帰ってるみたいだから！　早く言って、パパっと大事な用事は済ましちゃうよ！！！　善は急げって言うしね！」

「あ、うん、そうだね！　それもそうだね……んんっ」

「う、うん！　早く行こ……って、どうしたの鮫島？　そんな顔強張らせて……ふふっ、もしかして緊張してる？」

「え、いや、べつ……ううん、ごめん。ちょっとだけ」

　そりゃ、何度も柊木のお母さんには会ってるけど、今日は大事な話をするわけで。

　俺の両親が一緒に住むとはいえ、大好きな人との同棲を許可してもらうために、大好きな人のお母さんに報告に行く―こんなシチュエーション緊張しない方がおかしいってわけですし！　内心バリバリ緊張しております！

「ふふっ、そっか……鮫島が緊張って、なんか珍しいな。でもあんまり緊張しないでね、いつも通りで。いつも通り、してくれればいいから。何回もお母さんにあってるし、大丈夫でしょ、鮫島も？」

「そう言われてもな……わかった、頑張る！　お母さんだもんな、柊木の。柊木のお母さんで、俺の……ふー！　大丈夫大丈夫！」

　クスクスと笑いながらカギをガチャガチャする柊木の後ろで、緊張ほぐしの深呼吸を一つ。大丈夫、何度もあってる……いつも通り、すればいいんだから！

「最近カギの調子が……あ、開いた。お母さん、帰ったよー！」

「おじゃましまーす……！　おじゃまします、鮫島日向です！」

　ドアを勢いよく開けて入っていく柊木の後ろで、俺はそう元気よく……いや、場違い感も甚だしい、全力の挨拶をする。

「ふふっ、何それ鮫島？　どういう挨拶、普段しないじゃん、そんなの」

「いや、だって……だってぇ」

　緊張してるんですもん、かなり緊張なんですもん！

　だって、柊木母に同棲……そんなの緊張するじゃん、絶対！

「そんな緊張されると、けっこ……んんっ！　も、も～、緊張しすぎだよ、鮫島！　わ、私まで緊張しちゃうじゃん！」

「で、でもその……」

「あ～、嬉しい声が聞こえた！　亜理紗の他に、久しぶりの嬉しい声もきゃっちー！　お義母さん、感激、今すぐ会いに行く～！！！」

『あっ』

　少し顔の赤い亜理紗とそんな言い合いをしていると、部屋の奥の方から元気の良い声とともに、どたばとと忙しそうな足音が聞こえる。

「お帰り亜理紗～、それに日向君！　ようこそ、柊木Houseへ！　お義母さん、また日向君に会いたかったよ～！！！　最近全然来てくれないんだから～、お義母さん寂しかった！！！」

　長い黒い髪とすらっとした体型、それに柊木に似たキレイな顔。柊木をそのまま大人にしたような、そんなそっくりな女の人。

　満面の笑みを浮かべながら俺の名前を呼んで、嬉しそうに腰をふりふり頭をゆらゆら動かす、季節外れのニットの服がよく似あう女の人。

「……お母さん歳考えて！　鮫島も困っとるやろ、そんな変な絡み方しないで！」

「え～、だってお母さんも寂しかったんだも～ん！　亜理紗が全然日向君の事お家呼んでくれなくて、日向君のお家ばっかり行くから～！　お母さんも日向君に会いたかったの！！！」

「それやめてって言ってるの！　い、意味わかんないじゃん、お母さんが鮫島に会いたいなんて！　私が会いたいならわかるけど、お母さんは意味わかんないでしょ、鮫島に会いたいなんて！　ね、ねえ鮫島！　意味わかんにゃいよね？」

「え、いや、その……あはは」

　……柊木のお母さん、何歳か知らないけどすっごい若いんだよな。

　見た目とかもそうだけど、言動というか行動というか……今だって、娘の柊木と姉妹みたいな言い争いしてるし。

　若くて、キレイで、料理が上手でエネルギッシュで……本当に、未来の柊木を見ているような感じ。まあ、ちょっとテンションが高すぎるし、めっちゃ人をいじるのが好きだけど、柊木と比べると。

　そんな柊木母は、俺と柊木の方を見ながらニマニマ笑いながら、

「ほら～、日向君も良いって言ってくれてる！　だから良いじゃない、私が会いたくても！　それに亜理紗が毎日楽しそうに日向君の事話してくれてるし！　日向が、日向の～、って！　だから会いたくなっちゃうんだよ～、お母さんも日向君に！　亜理紗が毎日日向君との事惚気るから～、お母さんも会いたくなっちゃうの、お義母さんとして！」

　そう言って、俺にパチンとウインクをくれる。

「……え、そ、そうなんですか？　え、柊木俺の話そんなにしてくれてるの？」

　柊木、家でそんなに俺の話してくれてるの？

　俺だって家では柊木の話結構してるけど……柊木も一緒なの？　それならその……えっちゃ嬉しいんだけど。俺と一緒なら、すごく嬉しいというか……えへへ、なんか理由言えないけど、すごく嬉しい、かも。

「え、ちが、そんな……えっと、日向の事にゃんて、そんなに……いや、毎日、私も、嬉しい、日向の事あいしｔ……ｱﾗﾌﾞﾙﾀｹ！　にゃー！　ちょっちょちょちょっとお母さん！　わ、私そんな話しとらんでしょ！　鮫島の話なんてそんな！　してにゃいでしょ！！！　さ、鮫島、いつもの冗談だから！　いつものお母さんの冗談だからね！！！」

「何よ、亜理紗照れちゃってるの～？　鮫島じゃないでしょ、日向君でしょ？　いつも嬉しそうに話してくれてるじゃない、日向君の事！　私日向が、日向の事が～……ってそんな風にいっぱい話してくれるのに！　日向君の事、亜理紗は本当に四六時中大好きで、それでしあわ……」

「にゃにゃにゃん！！！　にゃーん！！！　お母さん！　そそそそそんな嘘言うのやめて、わ、私さささ鮫島の話なんて、ま、全くしてないじゃん！　そ、そんな話したこと、ななないでしょ！！！　さ、鮫島の話なんて一度も……あ、そうだ私着替えてくるから！　暑いから着替えてくるから待ってて！　日向もお母さんの話信じちゃダメだからね！　そ、その、日向を大好きな人の方信じる……ててて違う、違う！　わ、私の事だけ信じてくれればOK、私が日向の事だいｓ……んんっ！　にゃ、にゃー！！！　と、とにかく！　着替えてくるから！　信じないでよね、お母さんのはにゃし！　あ、あと覗くのも禁止！」

「え、あ……は、はい」

　早口でまくし立てるようにそう言って、柊木が自分の部屋に帰っていく。

　え、その、えっとよく聞き取れなかったんだけど……ええっと、その……と、とにかく分かった覗きません！　

　そ、それより今はその……

「ふふっ、あの子は本当に恥ずかしがり屋ねぇ。本当はいっぱい話してくれるのに、日向って呼んでるのに……ふふっ、ホント恥ずかしがり屋だね、亜理紗は」

「そ、そう言う話は……こほん。誰のせいだと思ってるんですか」

「ふふっ、誰のせいだろうね。でも今日の亜理紗いつもより素直、日向君を……ふふふっ。ところで日向君、久しぶりだね！　今日も来てくれてありがと、亜理紗もお義母さんもすっごく嬉しいよ！」

「アハハ、ありがとうございます、おばさん」

　柊木のお母さんと、二人きりになった事の問題を考えよう……今日はどんなこと聞かれるかな？　いや、柊木の嬉しい情報も聞けるから、嬉しいことも多いんだけど……でも、俺の負担もでかいんだよね。

　☆

「ホント久しぶりね、日向君！　どう、最近亜理紗とは？　本当に亜理紗は日向君の事いっぱい話してくれるんだよ～？　それに何回かお泊り行ってるけど、関係は進んだかしら？　お義母さん気になるわ、そう言う所！　将来のお義母さんになるために！　日向君と亜理紗の関係、お義母さん本当に気になる！！！」

　目の前に座る柊木母が、そう言ってニヤニヤ笑いかけてくる。

「……アハハ、まあまあです。それより、おばさん。結婚おめでとうございます」

　……ホント柊木のお母さんは、二人になるとこういう話しかしないな。

　いつも俺と柊木の関係はどうかとか、将来の二人がとか……その勇気が出せれば、どれだけいいかなんですけど……こ、こほん！　そ、それより結婚祝わせてください、おめでとうです！！！

「ふ～ん、そっかぁ……ってあらぁ！　聞いたの～、亜理紗から！　亜理紗とそう言う話したの～？　お義母さんのそう言う話、してくれたんだ～！」

「はい、聞きました。亜理紗さんから、ちゃんと……今日はそれ関連の話に来たんですから」

「あっはー、そっかそっか！　そうなんですよ、お義母さん結婚するんです、幸せになっちゃうんです！　ごめんね、日向君。お義母さん、人妻になっちゃうんだ……キラーン☆」

「何がごめんねなんですか……とにかくおめでとうございます、おばさん。お幸せにです」

　……なんで柊木のお母さんははこんなにテンション高いんだろうか？

　柊木は別にそんなハイテンションガール……いや、モンハンとかポケモンしてる時はかなり高いけど、普段はそこまでじゃないし。

　このテンション、楽しいんだけど少し疲れる……ってそんな話は良いか。とにかくおめでとうございます、柊木のお母さん。薬指の指輪、すごく似合ってますよ。

「あらもう、日向君は！お世辞がうまいんだからぁ！　そんなにお義母さんの事褒めても、何も出ないぞ……ところで日向君、すこしいいかしら？」

　そう言って楽しそうにぺちぺちしていた柊木母が、急に神妙な面持ちになって俺の方をきりっとした目つきで見つめる。

「……ど、どうしました？」

　え、何怖い。

　なんでそんなにすん、となってるんですか、いつものハイテンションはどうしたんですか？　なんでそんな真剣な目つきで……え、な、何かあるんですか？

「うん、重要な話。日向君に聞かなきゃいけない、重要な話」

「じゅ、重要な話……な、なんでしょうか」

　ゴクリと唾を飲み込む。

　柊木母の口が恭しく動く。

「日向君はその……」

「は、はい……な、何でしょうか！！！」

「日向君は、その……もう亜理紗とエッチしたの～！　亜理紗との初体験、そろそろすましたのかしら！！！」

「……ぶふぁっ！？！？！？！？」

　★★★

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