第3話BAD ENCOUNT~恐ろしき反逆~

 「――魔王様、いままで一体どちらへ!? お体は大丈夫ですか!?」

 「騒がなくてもよい、我の身にはまったく問題はない」


 試しに空間転移魔法を使用してみると、ごく普通に元の世界の城に戻ることができた。 直近の問題と思われていたことは、あっけなく解決してしまった。


 出迎えてくれたのは、メフィストフェレスか。 こいつは勘が鋭い奴だ、私の行動がバレないようにしなければ。 人間との接触が知られると、配下に示しがつかなくなってしまう。

 さっさと出てしまおう。



 「フェレス、戻って早々に申し訳ないが我は再度、出かけねばならない。 留守を頼んでもよいか」

 「お待ちください! これから超大陸中の人間を掃討していくというのに、魔王様抜きでは軍の士気に関わります」

 「ならば仕方あるまい、お前に指揮を任そう」

 「御冗談を!? 光栄ではありますが、他の幹部が納得しません。 進軍の他に何か大切なことがありましょうか魔王様、どうか考え直してくださいませ」



 粘ってくるな。 真面目で忠実、高い知略は評価しているが、なんせこいつは遊びがない。 このような奴は勢いで押し切ることは厳しいか。


 「ここだけの話にしておいてほしいのだが」


 飛ばされた先の世界のことを意味ありげに話してみせる。 新大陸、魔族が存在しない世界があり、全てが未知数。 ここまでは本当のことだ。


 しかし、何が起こるか不明の為、魔王である私が調査を行う。 これは極秘捜査。



 「信じがたいお話ではありますが、魔王様を疑うつもりなど毛頭ございません」

 「お前は知略に長けた賢き者。 理解してくれて我は嬉しい」

 「ですが、せめて誰かを連れて行ってくださいませ。 魔王様の盾となり矛となる者がいなければ、もし何かあった時には……そうです! 私などはいかがでしょうか!?」



 フェレスは引き下がる気配がない。 めんどうなことになってきたぞ、この場に他の者が来てしまったら、さらに話が大きくなってしまう。


 それに、別の者が同行するなんてもってのほか。 ここは釘を刺しておいた方がいいだろうな。


 「フェレス、お前は我を愚弄するのか? 我だけでは手に余るとでも言いたいのか? え?」

 「――そ、そんなつもりは」


 強行突破。 あまり使いたくない方法だが、モタモタしてもいられない。



 「よいか、我の調査は極秘、ここだけの話だ。 そして我の配下が同行することも許さん」

 「か、かしこまりました、無礼な発言を大変失礼いたしました」


 シュンとしているフェレスに、今後の指揮について再度任命する。 許してくれ、私の活動は誰にも知られるわけにはいかないのだ。



 「――フェレス、最後に一つだけ。 我が娘サーシャはちゃんと部屋にいるんだろうな」

 「もちろんでございます」

 「よし、それでは行ってくる。 後はよろしく頼む」


 ひとまずこちらの世界は問題ないだろう。 脅威は何も残ってなどいないのだからな。 さっさと転移魔法で出発だ。


 「トランポリー・ワープ!」

 「あ、魔王様ッ! 勇者たちの処遇はどのように――」





 「人間よ、我が戻ってきたぞ」


 よし、なんなく異世界にも戻ることができた。 座標さえ特定できれば、なんてことはないようだ。

 ずいぶんと見晴らしのいい場所に来てしまったが、ここはどこだ?


 「ちょっとちょっと! だれよこの人!? さくらの友達?」

 「もしかして、彼氏?」

 「……だれだっけ」


 人間の女が2人も増えているが、こいつらは友達か? まったく同じような服装をしている。 地面に座り込んで食事でもしているのか。

 いずれにしても、些細な存在。 私の邪魔などもってのほかである。



 「さぁ行こうか。 キサマに我を、この世界を案内させる仕事を与えてやろうじゃないか」

 「えーー!? やっぱ彼氏かー! さくらの男の趣味ってこんななのぉ!?」

 「意外」

 「そんなわけないでしょ。 私がこんなヤギのコスプレしてる奴、好きになるわけないわ」


 一斉にケタケタと笑い始める人間の女3人。 何がそんなにおかしい? 私の姿のことか? この世界には魔族が存在しないゆえに、物珍しいということだろうか。


 しかし不愉快極まりないことだ。 恐怖で顔を青くすることはあれども、笑われた経験なんぞない。



 「――キサマらッ! 我を侮辱することは絶対に許さぬ! それに人間の女よ、我と付き合ってくれると言ったであろうがッ!」

 「わぉ」

 「きゃー!きゃー! さくら、もう隠さなくてもいいからぁ! この素敵な男性のこと教えてー!!」

 「……ッ!」


 ようやく立ち上がったか、と思いきや、私の服の袖を乱暴に引っ張っていく。



 「勘違いされるようなこと言うなっ!! ちょっとこっち来なさいよ!」

 「やめろッ! この魔導服は繊細なのだ! なんの素材で出来ているのか知っているのか!?」

 「お幸せにぃー! 後でいろいろ教えてねー!」

 「ねー」


 端の方まで引きずられたところで、人間はようやく服から手を離した。 ずいぶんと鼻息が荒いが、どうしたというのか。


 「キサマ、体調が優れないのか」

 「アンタのせいでしょうが! 何の用なのよいったい!? 気安く話しかけないでくれる!?」

 「ッな!」


 記憶の扉がゆるりと開いていく。


 【我が娘サーシャよ、顔色が良くないようだが……】

 【話しかけないで】

 【……】


 何を一体どう解釈すれば、身を案じる発言で気分を損ねるというのか! 私がいけないのか、タイミングがよくなかったのか? そんなものわかるか!



 「す、すまなかった」

 「謝るぐらいなら今後は学校に来ないでくれる? それとその恰好はなんとかならないの? 本当はそれって脱げるんでしょ」

 「やめろォ! これは我の顔であって、被り物などではない!!」


 ぐいぐいと頭や首を引っ張られる。 人間というものは自分とは違う存在を受け入れないと聞いていたが、この世界の人間も同じということか! 多様性という言葉を知らぬ低俗な生物め!



 「やだ、本当にそれが顔なの? いったい何者なのアンタ」

 「魔族の王だッ! 見た目で相手を判断するなど、愚か者のやること! キサマら人間はいつもそうやって自分と違う存在を否定しようとする!」

 「急に現れといて開き直らないでくれるかしら」


 人間はうんざりとした顔をしている。 「これ以上かまっていられない」とでも書いているかのようだった。


 「それに、アンタもそうなんじゃないの? 人間人間って上から目線でモノ言って、自分と違う存在を認めてないじゃない。 それに相手の都合も考えずに現れる。 自分勝手が過ぎるんじゃないの?」


 なんなんだ、この眼は。 嫌悪感というものを隠そうともしない。 それに、この人間は私という存在が恐ろしくないのか。



 「――キ、キサマ!」

 「アンタがどんな存在か知らないけど、ここは人間の世界。 歩み寄ろうとする気持ちがなかったら、相手もそのまんまなんじゃないの?」


 人間の女は吐き捨てるように言い放って背中を向けてしまう。


 「自分の都合ばっか、もううんざり。 二度と顔を見せないで」


  その後、大きな鐘の音が幾度か鳴り響いていた。




 「彼、落ち込んでる」

 「もー、酷いこと言ったんでしょー!? あんなカッコウまでして現れて、さくらを喜ばせようとしてたんじゃないのー??」

 「……ごめん、世界が滅んだら私のせいだわ」


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魔王様・いん・わんだーらんど☆  妹尾妹子 @ngangafunfun00

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