第5話ぼっち剣士拾った
ギルメンで町ぶらをしていると最高級の剣士装備の一つである赤龍の甲冑を纏ったBB団の奴と、剣士装備の一つである短い袴が特徴の少年剣士を着用した黒髪に空色の瞳をしたポニーテールの花剣士が何か話している。
BB団はあまりいい噂は聞かないギルドだ、この剣士に何かしたのかとちょっと良くない気はしたが聞き耳を立ててみる。
「ゲンジョウさん、昨日ずっとクエスト待ってたんですよ?いきなりフレ解なんて…自分なんかしましたか?クエストやらないんなら甲冑返してほしいんですけど。」
見た感じまだ中学生くらいの少年だが、焦るでもなく落ち着いた声のトーンで装備の返却を促している。
「大切な装備を貸す方が馬鹿なんですぅー、こんなレア装備が必須になるクエストなんてあるわけないじゃーん!」
「…え?あるよ?昨日それをする予定だったでしょ?」
「嘘乙〜」
あっかんべーを、するゲンジョウと呼ばれたBB団の剣士。
「あるの?」
ユイが聞いて来る。
「あるよ、あいつ馬鹿だね赤龍の甲冑の正規のドロップ方法と着用条件知らんとやね、有名とに。」
「BBの奴ら、最初はフレンドリーに接して仲良くなったら装備を借りパクして、フレンド解除してるって言う噂だし、ほとんど正規の装備の手に入れ方知らんとやない?他人から貸してもらったりしても着用は出来るとやけど、ああ言うレアな装備は条件をクリアしてない場合力は半減すーよ。」
「へーそうなの。」
「運営が装備の貸し借りを出来るようにしてるくせに運営に訴えたところで、自分らでどうにかしてみたいなスタンスだし、そもそも今はプレイヤーから運営に連絡を取れないしな。」
「それな。」
「この装備さえ手に入ればてめぇみたいな刀剣バカは要らねぇんだよ、バァーカ!」
BB団の奴がそう言い放ち、剣士の奥義の一つである疾風斬を放つが、いまいちぎこちない動きに見えるのは僕だけだろうか?
少年剣士は
いとも簡単に疾風斬の風の刃を避ける。
「くそっ!」
再び疾風斬を繰り出すゲンジョウ。
「きみ、それしかできんと?」
少年剣士は、ひらりひらりと避けて…
そして…
「…花連撃。」
シャン!と桜の枝を模した刀を2本手の中に出してシュパパパン!と高レベルの花剣士でも習得が難しいとされる二刀流技、花連撃を放った。
「おぉー!かっけー!」
思わず、前のめりになって素晴らしい剣技に称賛を送るシュガーロードの面々。
「ん?」
見学していた事に気が付いたのか、少年剣士が僕らにふり返る。
「野次馬してすみません」
「いえいえ、自分達もこんな場所で対戦したので」
どもどもと、会釈をし合う。
因みにBBの奴は一発でK.O.されてた。
このゲーム、プレイヤーは死なない。
このようにK.O.されると一度灰色になった後、じわじわと光って色が戻ってきて再生すると言う仕様だ。
だがそれはこのゲームの世界観の設定上、妖精王ファルファーザ(雌雄体)と、その夫である生命神アラド(♂)の信託を聞いた神子(プレイヤー)だけの特権である。
一般NPCの人達には攻撃しても当たらない仕様であるが、一般NPCの人達も僕らに攻撃しても当たらないぞ。
因みにNPCにも対戦相手になってくれたり、傭兵として、パーティが必須だが、中身のいる他人とパーティを組みたく無いというソロプレイヤーのために手伝ってくれるNPCもいるが、そのNPCの人達は神子のNPCである。
「なんで…?赤龍の甲冑着てたのに…全然強くなってない…」
へたり込むゲンジョウに
少年剣士が
「赤龍の甲冑ってさ、フレンドから貸してもらってそのフレンドとパーティ作って限定クエストクリアしないと正規のゲットじゃないんよ、レア装備は其々に着用条件があってからさ、貸してもらって装備出来たとして正規の条件のそれをクリアしないと力も半減してしまうと。」
「…え?ひょっとしてうちのギルメンの人達がいまいち弱いのってそのせい?」
「そうかもねぇ、また自分とフレンドになって今度はちゃんと限定クエストクリアする?」
「…俺、あんたを騙してバカにしたよ?」
「気にしてないよ。」
行こう?とゲンジョウに手を差し伸べる人の良い少年剣士。
「僕も手伝おうか?」
なんか心配だなと思ったエールが彼らに話しかける。
「え、テイマーの人とかたすかるー良いんですか?あ、エル兄ちゃんだ!」
ぱあっと明るくなる彼。
僕の名前をエル兄ちゃんと呼ぶ少年剣士の声に聞き覚えがあった。
少年剣士の装いだが、思い出したぞこの子は朝陽と言う女の子のプレイヤーだ。
「…ひょっとしてあーちゃん?ストレートロングのアバターからポニーテールのアバターにしたと?一瞬わからんやった!アバターではあるけど…大きゅうなって…お姉さんになったねぇ。」
「あーちゃん、久しぶり!」
「あっちゃん、久しぶり!」
「ヨミ兄ちゃんとウィーくんもおるー!」
「知り合い?」
ユイと今まで空気だった雫とゲンジョウが聞いてきた。
「うん、あーちゃん…朝陽も結構古参のプレイヤーだからね…えっと…あの頃小学校低学年だったから…え、もう大学生?はやーい、僕おっさんになるはずだわー。」
ツクヨミが笑う。
「まぁ、行こうよ。」
赤龍の甲冑を持ってない者が赤龍の甲冑を入手するには、フレンドから赤龍の甲冑を貸してもらい一緒にドラゴンのお宝探しをクリアするというのが入手条件でありながら着用条件になる称号ドラゴンフレンズを入手すると言う方法以外に正規の入手方法はないのだ。
テイマーの従魔特に索敵を得意とするフォレストキャットに赤龍の甲冑の材料を落とす事が多いジュエリードラゴンのルビーを探してもらい、パーツを探して行く。
「よし、兜のパーツ以外は全部揃ったね、あとはボスのジュエリードラゴンのダイヤを倒したら兜ゲット出来るはずだよ。」
「…キッちぃ~っ…」
ゼイゼイと肩で息をするゲンジョウ。
聞けばゲーム時代はパワーレベリングで経験値を稼いで、力の具合を見る対戦の時は、勝てそうなレベルの相手に結果だけ見るショートカットにして、まともに戦ったのは久しぶりだったとの事。
それで動きがぎこちなかったのか…自分のレベルは89だしレベルが近いからレベル90の朝陽に挑んでも大丈夫だろうと高を括っていたのかな。
「レベル89と90の間には分厚い差があったって事か…それに実際にダンジョンとかクエストに潜るのって、結構大変なんすね」
「当たり前だよ、いつ技を出すか考えながら戦うのけっこう大変なんだよ?それに90に上げるためには試練の間でグラディエーターのバリアンの英霊との対戦と、パラディンのエンヴィーの英霊と戦わにゃならんのよ?」
「え…80の昇級の時も槍の英霊セストと、盾の英霊オズワルドと対戦してしんどかったのに…またあるんだ…」
「あーダンチだよねー、エンヴィーの攻撃ってゴリゴリにHP削られるし、バリアンの連続剣舞きつかったよね。」
「だよねーソロ向いてない回復職や魔法職の人には別のクエスト用意してくれてもいいのにね。」
「まぁ、攻撃される時ってどこに攻撃が来るか一応ガイド出るから避けりゃあ良いって話だけどね」
とか色々雑談しながら遂にボス戦へとたどり着いた。
「ゲンジョウくん、右に逸れて!」
エールの声に反応して、すっ!と右に体を逸らすゲンジョウ。
「花突!」
ザンッ!と桜の枝を模した刀に貫かれる全身がダイヤモンドで出来たドラゴン。
ガフ…と言う声とともに、倒れるドラゴン。
朝陽が高レベルの花剣士の技、花突をお見舞いしたようだった。
一発で仕留めたため大量のダイヤモンドと赤龍の甲冑の兜が入手出来た。
「はい、今度こそこれは君のもの。」
「…あぁ、なんか不思議な気持ちだ。」
「頑張って入手したから…ギルドに入る前の初ドロップを、思い出したんじゃない?」
「…そうか、こんな感じだった…嬉しい事だったよな、ドロップって。」
「良かったじゃん、思い出せて。」
「…うん。」
ゲンジョウと別れ、朝陽に今も秋桜に入っているのかと聞くと
「秋桜はクビになりましたぁー、そして秋桜はもう解散してますぅ、ほら…面倒な人いたでしょ?」
「あーモンクの避雷と、避雷の金魚のフンでヒーラーのはるのんだっけ?」
「あいつら、自分のスタンドプレーが目立ってクエストやりにくいってギルマスに嘘付いてさ、ギルマスは揉める原因になる人は要らないって言うタイプだったから切り捨てられちった。」
「はぁ?寧ろあいつらだよね?スタンドプレー凄いの」
「そだよ、あの人達気に要らないギルメンが成功したら自分の功績、失敗したら気に要らないギルメンのせいって言うジャイアニズムだからね」
「自分がクビになって直ぐに解散しててさ、元ギルメンの桃香と話した時、避雷とはるのんに1番タゲられてた自分がいなくなって次は自分かもって逃げる人が続出したっぽい。」
「なるべくしてなったって感じやね。」
「うわ…女子が多い会社でありがちなやつー。」
「それなー」
「じゃあさ、うち来ん?」
「えっ、よかとー?いくいく!」
朝陽は喜んでシュガーロードの一員になるのであった。
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