第3話感動の再開…?

ピ…チチ…鳥の囀り…柔らかな朝日。


ゲーム内に閉じ込められて2回目の朝が来た。


「くあー!うーん、良く寝た!あぁ~洗いたてのお布団気持ちいい〜…雫さんには感謝やね。」


新しいギルメン雫さんが趣味で取得した様々なジョブの1つ魔導具制作で、MPで動く布団が洗えるほどの大きさの大きな洗濯機と乾燥機を3セット作ってくれた。


今後は他のギルドやNPCにも※一日銀貨5枚で、洗濯機と乾燥機の使用を許可するらしい。


※銀貨一枚は日本円の百円。


この国のインフラやライフラインは魔導具で出来ているので実は貴族以外のNPCもある程度のMP持ってるんだって、ヘェー。


しかしコインランドリーとはいいところに目をつけたね。


行く行くはギルドそれからNPCの皆さんに向けて家庭用の洗濯機も量産したいので


少数精鋭の魔導具生産ギルド、ロビーナちゃんに踏まれ隊に協力を打診すると面白そうだからトキオに居る大手生産系ギルド、ハロルド商会にも声をかけてもいいかと聞かれたのでいいよ!と言った。


新規事業みんなでやれば怖くない!まぁ、知らんけど。


「んーっフカフカ!やっぱり洗濯したてのお布団って、さいこう〜。」


ひゃっほーう!布団の上でコロコロ転がる。


もう一眠りしたい気もするけど、もう朝だしなー。


なーんて思っているとドビュッシーの月の光が枕元から聞こえて来た。


ギルドに加入すると、ギルド限定アイテムのスマホが貰え、ギルチャが出来るようになるのだ。


しかし、現実化してからはチャツトと言うよりは電話だ。


掛けてきた相手はエールだ。


翼をエールといった理由?一応ゲーム内では個チャでも本名はお互い避けてるよ〜ゲーム感がなくなっちゃうからねっ。


「おはよーエッくんいい朝だねぇ。」


「ふふ…そうやね、ヨミ兄、朝ご飯出来とーよ。」


見れば朝7時。


この時間が現実世界だったら慌てて翼が握ってくれた特大の鮭フレークおにぎりを口に詰め込みながら大慌てで病院の準備とかしてただろうなと雪兎は思った。


何処の土地でもだろうけど、お年寄りの朝は早く、診察時間は9時からなのだが、8時前には待合室はすでに満員なのだ。


こんなにゆっくり寝たのなんて、いつ以来だろう?


朝ごはんなんだろー?


ギルドホームのダイニングキッチンに向かう


ふわん…と豚汁の良い匂いがした。


「おはよう、いい匂いだね。」


「おはよう!今日はベリー豚の豚汁とコカトリスの厚焼き玉子とご飯だよ。」


エールと雫さんが共同で餌ご飯を作ってくれていた様だ。


「副ギルドマスターおはようございます、私はこんなことしかできないですけれど、息子共々よろしくお願いしますね。」


猫耳族の一種、にゃんこ先生特有のアカデミックドレス姿の雫がぺこんちょと挨拶した。


黒く艶々とした細く柔らかい毛質のおかっぱ、雪の様に白い肌、綺麗な卵型の顔、髪と同系色のフサフサの猫耳、フサフサの尻尾、ぱっちりと大きく、まつげビシバシでくりくりした紫の瞳で、150cm弱の程よい肉付きの小さな体。


この姿は現実の姿と変わらないと彼の息子ユイ君も言っていたので本当なのだろうしかし…このような少女と見紛う程の小さくて可愛くて可憐な彼が…


年齢は39歳のオサーンだとは誰も思うまい。


しかしながら、ギルマスの二人含め小さい種族が多いせいか一部のプレイヤーからロリショタギルドと言われていたりする。


大人サイズの種族はウィステリアと、あともう一人仕事が忙しくてここ2年ほどインしてないエールの幼馴染位だろうか?


因みにウィステリアは大学生で、ユイが居なければ唯一の10代だった。


「…ギルメンなんだしラフでいいよ、雫さん。」


「エルくんからもそう言われてしまったよ、私のことも好きに呼んでくれるかい?ヨミくん。」


しかし声はダンディで甘い美声…脳がバグるよね。


「じゃー、雫っちで。」

 

「ふふ、ありがとう。」


「しかしビーストマスターの調理スキルで作った食べ物がプレイヤーが食べても従魔同様、戦闘時のみステータス上昇効果が数時間あるなんて大発見でしたね。」


「ゲーム時代は食べても空腹ケージが上がるだけやったんやけどね?」


「ステータスの確認って戦闘モードに入る前に確認する位だからじゃ無いですかね?敵の攻撃避けつつステータスの確認なんてやる暇ないじゃないですか。」


「確かに」


「あ、そう言えば僕、昨日お父さんと再開する前にお腹空いちゃって、料理スキルで作ったサンドイッチ食べたんですけど、何か今一美味しくなくて」


ユイが思い出したかのように喋る。


「あ、それ僕も思ってた」


「料理スキル持ってるって事はユイくんは第一覚醒は済んでるんだね。」


「はい、まだ50に到達したばかりで弱っちいですけど。」


このゲーム初期はレベル50で頭打ちだったけど、リリースから2年目に上限アップしたので、現在は上限がアップするごとに覚醒となっている。


僕とヨミ兄はベータ版からの最古参のためレベルは現在の最高値である90だった。


そして閉じ込められたあの日は上限が100に拡張する予定だった日だったのだ。


「そもそも作り方も違うんだよね、料理スキルでは材料集めて包丁を降ろせば一瞬で出来るんだけど、従魔ご飯は切ったり茹でたりの動作があるんだ。」


「ヘェ~なんでだろ?」


「従魔ご飯はベータ版からあるスキルだから、最初は料理スキルもその予定だったけど何秒も待ちたくないって、言った一部のユーザーが居たんだって逆にテイマーの人はこっちが楽しいからって従魔ご飯はこのままの仕様になったっぽいよ。」


「えーっ、従魔ご飯のほうが楽しそうなのに。」


ユイは眉を潜めた。


「ユイくんは料理するの好きだものね。」


フフと優しく笑う雫。


「お父さんが毎日美味しいご飯作ってくれるから僕も料理好きになったんだよ。」


ぎゅうと、小柄な父親に抱きつく長身痩躯の美形息子。


「何秒も待ちたくないって言った人の気持ち社会人になったら少しはわかるよ」


「ですね~やることが多いし。」


「大人って大変なんだね。」


「そうだね~しかしスキル料理は不味くはないけど何かが根本的に足りないっていうか。」


「何ていうか、旨味や、コクが足り無いというか…えーと仏作って魂入れずって言うんですかね?」


「あ、それだ的確!」


ユイの感想にエールがそれだそれだと頷いた。


机に素材アイテムの塩とアリアケ海苔が置いてあったのでツクヨミが


「ねぇ、ご飯おにぎりにしてもよかと?」


と聞くと


「私がお作りしますよ、ヨミくんはおにぎりの具何にします?私のおすすめはエビマヨです。」


「じゃーそのエビマヨで。」


素材アイテムであるボイルエビを小さく切ってマヨネーズにあえてエビマヨを作り、素材アイテムである炊きたてご飯にエビマヨを包みふんわり軽い力で握ってエビマヨおにぎりを作ってくれた。


「そうだ、タコさんウインナーもおまけしちゃおうかな。」


と、ウインナーを飾り切りして、軽く炒める雫。


ささっと、料理をする雫に


「手際いいね。」


ツクヨミが聞く。


「ありがとうございます、まぁ…普段から家の料理は私が作っていたので…あ、でも厚焼き玉子焼いたのはエルくんです、ベースの卵液を作って焼こうとしたらコカトリスの卵ははテイマーにしか調理出来ないと警告がでました。」


「そなの?コカトリスの卵って、卵かけご飯にする分には昨日やったみたいに僕らでも普通に出来るのに?」


と、ユイが首をひねる。


「コカトリス生卵も、炊きたてごはんも素材アイテムだからではないでしょうか?現に卵液を作るところまではうまく行きましたから…

それはそうと卵かけご飯いいですね~あとはあまーい九州醤油があれば完璧ですね。」


昨日卵かけご飯に使った素材アイテムの醤油は日本サーバー共通の通常品だったのだが九州人には塩辛すぎた。


「そう言うと思って!九州の醤油メーカー各社とのコラボのモンスター、ショーユーフォーユーをホームから連れてきたよ!」


と60cm程の猫耳の生えた醤油ボトルに、可愛らしいつぶらな瞳と猫口、小さな手足が生えた九州限定モンスター、ショーユーフォーユーを出してくるエールに雫とユイが


「あの良く分からない伝説のネタ枠モンスター!?」


と、どよめいた。


何にでも適量の醤油をかけるという謎スキルを持ったモンスターで、ゲーム時代は敵モンスターの集中力を削ぐために適量醤油と言う技で目潰しとかに使われてたりした。


「ヘイ、ボーイ!ショーユーフォーユー?フゥ~!」


どこから出したのか、あるお笑い芸人がよく使うウインクメガネでウインクとサムズアップをしてきた。


「…なんかムカつくなこいつ。」


ユイが顔を顰める。


「…アハハ…。」


「えーっと、この卵かけご飯に適量のお醤油をくださいな。」


エールが、頼むと…


「ズバキュウーン!」


と、ショーユーフォーユーが手ピストルをすると、本当に卵かけご飯に適量な醤油を掛けてくれた。


「では私も」

「僕も」


「ズバキュウーン!」


「程良い〜」


「ありがと~」


って感じで緩く過ぎていった。


「エルくん、ありがとう。」


「え?」


「私のような人見知りがギルドに誘ってもらえるなんて思っても見なかったですから、ありがとうございますこのギルドは最高です。」


「お父さん、それは僕もだよ。

僕ホラー好きだからネクロマンサーになったんだけど、僕の※従魔が女の子メンバーから怖がられちゃうんだそれでギルドに定住できなくて…」


※ネクロマンサーも従魔(アンデット系)なら従えさせられる。


「えっ?こんなに人懐っこいのに?」


エジプトっぽい装飾の巨大な痩せた黒い犬と緑のマッチョマンを撫でまくるエール。


巨大な痩せた黒い犬は嬉しそうにヘッヘしながら尻尾をブン回している。


緑のマッチョマンは手から花を出してエールに花をくれた。


そこは流石テイマーと言うか何と言うか。


「すごい!普段僕以外にあまり懐かないんですよアヌビスとオシリス。」


パチパチと手を叩く雫とユイ。


すると、赤ちゃん用の椅子に座らせていた菫麗もおててをパチパチとさせた。


「もー褒めても何も出ないよ?はい、すーちゃん、ももミルクだよ。」


菫麗の、小さな手にこれまたジョブマニアの雫がガラス職人のジョブを応用して作った哺乳瓶を持たせた。


ミルクはこの世界の素材アイテムの一つだったおっぱいみたいな形の桃がたまたま取れて食べてみたらミルクの味がしたので、ポーションマスターのスキル成分鑑定で母乳とほぼ同じ成分だと分かり、ももミルクと名付けて飲ませている。


布おむつを分けてくれたNPCの妹さん家族に赤ちゃんが生まれたと分かったので哺乳瓶とももミルクを分けたらとても喜ばれた。


「みーく!」


器用に両方のおててで持ってちくちくとミルクを飲むすーちゃんの姿に周囲の顔がメロメロに変わるのがわかる。


「おいし?」


「うっうー!」


すーちゃんは嬉しそうに手足をパタつかせた。


すーちゃんは美味しい物を食べた時は、頭と手足がせわしなく動くのでこれは超旨いという評価なのだろう。


「そう言えば、あの人の妹さんの口コミで子育て世帯のNPCの人達から自分達にも使い捨ておむつと、ミルクと、哺乳瓶を、買わせてくれと依頼があったよ。」


「そうなんだ…毎日おむつ洗いとかしんどいから使い捨ておむつはありがたいんだろうね。」


ちなみに不織布や吸水ポリマーなんてものはこの世界には当然存在しないが、どんな紙でも作り出せる紙職人と、除湿や加湿ができる魔物スライムが居る。


スライムから抽出した成分から極小のスライムもどきを作り、紙職人に紙おむつと似た効果のある肌触りのいい綿紙を作ってもらい、裁縫が得意なエールが縫い合わせて使い捨ておむつを作り出したのだ。


当面はベビーグッズとコインランドリーでなんとかやれそうではと思った。


なんてぼんやり思っていると、膝に乗っかるものが…菫麗に対抗して赤ちゃんのような振る舞いをする玉藻だった。


「あるじ、たまちゃんも!」


「はいはーい、豚汁とお稲荷さんだよ。」


従魔の玉藻が自分もお腹すいた!と言うので従魔用に別に作った豚汁と、狐型従魔の好物である従魔用のお稲荷さんをあたえる。


「おいしい!」


ペカーッとした笑顔で豚汁をククーっと飲み干して、お稲荷さんをパクっと食べる玉藻。


「あ、あ。」


玉藻に向かって歯が生え揃ってない口を開く菫麗。


「え?すーちゃんもたまちゃんのお稲荷さん食べたいの?じゃあ、お汁がしみて柔らかくて特別美味しいとこあげるー。」


と、お稲荷さんのご飯を与える玉藻。


ちゃんと柔らかいところじゃないとだめだと理解してるあたり玉藻は賢いし、面倒見のいいお姉ちゃんだ。


二人が楽しそうにご飯を食べる姿にユイも


「僕も食べよ〜…は…これは…嗚呼…何たる甘美な…合わせ味噌の奥ゆかしさ…豚の脂の甘味…我が血肉とならん…」


とか言い出すものだから。


エッ?


となっていると、雫が


「ユイくんはお年頃なんです。」


と答えた。


…あぁ、あの年頃か。


「…でも分かる…親とかにこの年代の自分の思春期真っ只中のノートとか見せられないもん。」


「ノートに書いた無駄に長い謎小説、及び漫画、イラスト…大切な思い出とはいえ僕的には黒歴史だよ」


「えー?僕、青春爆走期好きだよ?」


「ちょ、ま…っば…エッくん僕の押し入れ見たと?」


「結構面白かったから見よったよ。」


「やめてよぉ!ただ、ヤンキーに憧れてただけなんやけん…僕人と喧嘩とか絶対できないタイプやけん、ああ言うの憧れとって。」


「それは僕もやね、僕はファンタジーな世界に憧れとった。」


「うん、知ってるトゥインクル・リボンちゃん好きやったよ。」


「…兄ちゃんも僕のノート見てたんやん!」


…ぷ!あはは!


朝からめっちゃ笑った。


こう大きく口を開けて笑うなんて何年ぶりかな?大人になると羞恥心が出て来て心の底から大笑いって中々できなくなるよね。


…あ、夕方にあってるどぶろっくの番組で先週めっちゃ笑っとったわ僕。


その後はサーガのウレシノ茶の茶摘みの手伝いをした際に報酬でもらった緑茶を啜りながらサーガの限定アイテム、オギヨウカンとサガニシキに舌鼓を打っていると突然ギルド専用玄関の扉が開き、泥だらけの装備の長髪の男性が倒れ込んできた。


「…だ、大丈夫?」


手を前に出して大丈夫…と静止してくる彼。


ゼーゼーと肩で息していたので走ってここまで来たことがわかる。


ケホケホと乾いた咳をしている、水分が足りて無い様だ。


「お水いる?」


コクっと頷いたので


「ゆっくり飲んでね、噎せちゃうからね?」


ゆっくりと水を飲ませるツクヨミ。


「…ヨミ兄、祝祷で汚れと穢れ落としてくれん?」


「あ…!ウィーくん?」


「はい、すーちゃんを追い掛けて別垢から来たんですけど、このアカ、世界一周アイテム狙って旅をさせたまま放置していたんで…。」


「そうか強制的に世界旅行に行く羽目になっちゃったのか。」


「はい、そんかわりお土産は大量ですよ。」


アイテムバッグを見れば大量のレアアイテムが入っていた。


世界一周は時間がかかるので、別垢にしてもらうのがゲーム内でもセオリーだった。


しかしながら…この姿を見るになかなかハードな旅だったらしい。


ゼム遺跡の大墳墓とか、泥でぬかるんだ大地とか名称も中々だし、別垢が帰ってきたら聖職者のジョブを持ったギルメンに祝祷で洗浄してもらうと言うのが世界旅行のやり方なのだが、成る程…実際経験するとここまでハードなのか。


「別垢には感謝だな。」


「ですね…」


「癒やしの水」


パアァ…


泥で汚れた長髪は、見慣れたハニーブロンドに変わり、白に金の装飾が美しい甲冑になった。


「にいにー!」


ウィステリアを見た菫麗の顔がぱあっと明るくなる。


「すーちゃん!」


抱き合う2人。


「にーにー!にーにー!」


必死にウィステリアに抱きつく菫麗。


そうだよね、お兄ちゃんに会いたかったよね。


全員がもらい泣きしていたが…


ぷうっ…


菫麗のおしりからおならが鳴って


「ぶーでた!」


と菫麗が叫んだので、全員大笑いしてしまった。

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