第四十一話 冒険者ギルド入会試験②
「二………って言ったのか? 魔人だろ? 」
「なにかの間違いだろ。ほら、野生のファンシーパンジーが虫とかに反応して鳴く時だって五とかそれくらいはあるし」
ピヨコの魔力適正検査。
魔人という肩書で大いに期待を寄せられていたところでファンシーパンジーが告げた「二」という数値に、冒険者達は首を傾げる。
それはコリーも同様なようで、笑顔を引きつらせたまま、
「ピヨコさん、もう一度お願いできますか?」
「え? わかったピヨー! こうやって手を出して………ピヨーッ!」
「………にッ!」
ファンシーパンジーは笑ったまま、同じ鳴き声を発する。
「………えー。はい。魔力量は二。適正属性なしです」
受付のコリーが悲惨な結果を告げる。
すると周囲が慌ただしくなり、
「低すぎんだろ………ッ!」
「さすがに二ってちょっとね? だって虫以下よ?」
「あの子、ほんとは魔人じゃないんじゃない? ただのおっきい鳥なんじゃ………」
「でも喋ってるし、それはさすがに無いんじゃ? それにホラ! あの黒髪の魔法使いが『ヒヨコの魔人』って言ってたじゃない? ひ・よ・こ! まだ赤ちゃんなのよ! これから伸びるのよ!」
さすがに低すぎる数値ということで、冒険者達はピヨコに哀れみの目を向け、中には気遣う者までいる始末。
アホのピヨコも流石になんだか周りの様子がおかしいと理解したようで、
「なんか良くなかったピヨ………?」
腹の羽毛を握りしめ、潤む眸でコリーに尋ねる。
「えっと………」
コリーは流石に言い辛いのか少し考えた込んだあと、大袈裟に手を叩いて、
「あっ! ま、まだこれからですよー! ピヨコさんはまだ幼いようですし、十四歳くらいで急に伸びる人だっていますから気にしないでください! これから! ピヨコさんはこれからの人で」
「でもボク二十歳ピヨ」
「え………?」
コリーはおろかギルドにいる冒険者全員が絶句し、この日一番の静寂が訪れる。
魔国領からずっと離れたこいつらケツタニアの人間は知らないようだが、魔人だからといって魔力が高いワケではない。
魔力が人より高い種族が多いことは事実だが、ひよこ魔人や牛魔人など、魔力がほとんど無い種族は存在する。
まあ流石に低すぎる気はするが、ピヨコは力持ちで頑丈なのが取柄だしどうでもいい。
………いやこいつら絶句しすぎじゃない?
ピヨコが二十歳なのは俺も驚いたけどね?
まあそんなことお構いなしに赤ちゃんとして接してるけども。
腹も減ったしそろそろ次の試験に移りたい。
助けてやるか。
「大丈夫。この花がピヨコのすごさを理解出来ないだけだ。このあとの試験でピヨコが凄いって分かってもらえるよ」
「………すごいピヨ?」
「そうだぞピヨちゃん! ピヨちゃんはすごいぞ!」
「………ふふふっ!」
ベルベルの言葉もあり、どうやらゴキゲンになったピヨコ。
よし。ここからが本番だぞお前ら。
「コリーさん。 魔力は低いですがピヨコはなんといっても力持ち! 次の実技試験はきっと活躍してくれますよ!」
コリーに向き直り、ピヨコを擁護しつつ次の試験を促す。
実技試験は試験官との模擬戦闘だった。
どんな奴が来るかは分からないが、人間や亜人如きこいつらの敵ではない。
フェンリルはパーになっているが敵意を感じれば防衛本能で迎撃するだろうし、ピヨコも………いやちょっと不安だな。
ちゃんと戦ってくれるだろうか?
ビックリして泣いちゃったりしちゃうんじゃないか?
試験の前にちゃんと分かるように説明してやらないと。
俺がピヨコにどう理解させるかを悩んでいたところ、きょとんとしたコリーが告げる。
「実技試験は魔力量二百以上の方でないと受けることが出来ませんよ?」
「え?」
魔力測定で足切り!?
昔はそんなもの無かったぞ!
「ま、待ってくださいよ! そんなの魔法使いしか合格出来ないじゃないですか! ピヨコはそこらの冒険者なんて目じゃないくらい強いですよ? それを魔力量が基準以下だからって不合格にするのはいくらなんでも愚かすぎやしませんか?」
「そう言われましても。決まりですので」
「とにかく一度見てください! そうすれば魔力量が低いなんて些末なことだと分かっていただけるはずです!」
「これまでもそう仰る受験者さんも多くいましたが、皆さんにお断りしてますので」
コリーは全く笑顔を崩さず、それ当然と答える。
この! 決まりを守るしか出来ないクソガキが~!
これだから今時の若い奴はダメだ! もっと柔軟な対応をだな………!
いっそのこと一発説教して分からせてやろうか?
………いやダメだ。
ここで騒ぎを起こすのは今後の生活に影響するかもしれない。
ピヨコの分の冒険準備金は惜しいが、ここは退き下がろう。
「では私とフェンリルが実技試験に進めるっていうことですね。分かりました。では案内してください」
「いえ。 魔力量千五百以上の方は実技試験が免除されますので、最終試験であるギルドマスターとの面接へ進むことが出来ます」
「え?」
面接!?
収入が良くなって冒険者志望が増えたから合格者を絞る為、とかそういうことか?
いやそこそこバカそうな奴いたけどな?
にしてもこれは良くないぞ!?
面接なんてパーのフェンリルが合格出来るはずがない!
せめて俺が一緒に………!
「面接って、飼い主の俺もフェンリルの面接に同席するんですよね?」
「いえ。フェンリルさんとブレインさんはそれぞれ一人ずつ受けてもらいますよ? フェンリルさんも一受験者ですから」
「いやいや! 犬ですよ? 面接の受け答えなんて出来るはずないじゃないですか!?」
すると、コリーは細い目を少し開き、その赤い眼を怪しく光らせながら、
「ですから言ったでしょう? 入会できるのは人のみ、と。それに………」
そう言ったコリーが含みを持たせた笑みを浮かべながらシバに目配せをすると、シバは待ってましたと言わんばかりに拳を合わせて音を鳴らし、
「飼い主のオメエも常識ってモンがなってねえみてえだからよォ!? そのクソ犬がギルマスんトコであぱあぱ鳴いてる間に躾けてやンよォ!!!」
シバは肉食獣のような獰猛な表情で近づいてくると、俺の胸ぐらを掴んで顔を至近まで寄せて、
「覚悟しろやゴミカス野郎ォ。 テメエの鼻っ柱バキバキにしてやんよ」
「ふふふ。エリカちゃん、殺しちゃダメですよ?」
「言われなくても分かってンよ! な~にコイツの顔面ぐちゃぐちゃにして泣かせてやるだけだア!!!」
あぁ、そういうことか。
こいつらは俺が魔法を使ったことが気に障ったらしい。
初めから俺達を合格させる気なんて無かったんだ。
平和になって面の良い女を置くようになった………前言撤回だ。
昔と変わってないんだ。
冒険者ギルドの受付は荒くれた冒険者共を抑えつける役割も担うゴリゴリの武闘派。
そして、ようやくこいつら受付嬢を敵と認識して気付いたことがある。
魔力量二万を超える俺を躾けるとのたまうシバだ。
正確な魔力量は分からないが、目を凝らすと人間にしては桁外れに多いことが分かる。
そして、いきなり暴言を吐き散らす異常性。
ここが王都オシリアナの冒険者ギルドだということ。
これらのことから推察されるこの女の正体。
冒険者ギルド「ビッグホール」の受付嬢シバは―――
―――異世界召喚者だ。
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