第29話


体中の体液全てが熱くなって、俺を内側から犯していた。


体験した事のない体温のせいで、吐き気がする。


どうして床が熱くならないのか不思議に思ったが、答えを探す気力はもうない。


炎が俺の呼吸用の酸素を奪い、焼却炉の中には二酸化炭素が充満していた。


瞬時に唾液が蒸発してしまうので、もう声で助けは呼べなかった。


小窓を叩く力も無い。


Tシャツから手が離れ、倒れていく体を支える力も無い。


意識が遠のき、炎に包まれる前に死ねると思った。


あの男の思いようにはならなかった!


心の中でニヤリと笑う。


だが、倒れ込んだ先で悲劇が起きた。


後ろに倒れた俺の背中が焼却炉の壁に当たったのだ。


望月 愼介:「ぅぁぁぁあああああ゛!!」


もちろん、同じ空間で炎の熱を浴びている壁は、とても熱い。


人体よりも熱伝導が素早いので、壁はフライパンの様になっていた。


望月 愼介:「ぁぁぁああああ゛!!」


焼かれている。


目玉焼きの様にジュージューと焼かれている。


意識を失うどころか覚醒してしまい、俺は慌てて壁から逃げてうずくまる。


望月 愼介:「ぁああ゛ぁぁああ゛!!」


重度の火傷のせいで、背中が燃えているかの様に熱く、痛い。


その痛さに思わず目を開けて振り返ると、壁には俺の背中の皮膚が貼り付いていた。


水膨れになっていたせいで、簡単に剥がれてしまったのだ。


望月 愼介:「ぁぁぁぁあああああああ゛ッ!!」


肉が露出している背中に炎の熱は耐えられない。


溢れ出る血液と組織液は音を立てて蒸発している。


もう……ダメだ。


これ以上、生きて苦しい思いはしたくない。


俺は燃え盛る炎に視線を向ける。


???:「……床を熱くしなくて正解だったな」


炎の中から声が聞こえた。


驚いていると、揺らめく炎の中に男の顔が浮かび上がる。


???:「どうだ、被害者のワタシの事を思い出したか?」


望月 愼介:「ぅぅうッ……あぁッ……」


知らないと叫びたかったが、俺は炎の熱と背中の痛みに耐える事しかできなかった。


???:「……まぁ、いい。ワタシはお前に復讐できればそれでいい」


陰のように浮かび上がる男の顔が笑う。


???:「お前の事は死んでから、たっぷり教えてやる」


男の怒りを表すように炎の勢いが増す。


???:「お前の命もここまでだ」


火柱が手の様に二本伸び、俺に迫り来る。


望月 愼介:「ぅあぁぁぁあああ゛ッ!?」


火柱が俺の首に巻き付き、絞め付ける。


人の手で絞められているの感触がある。


でも炎には変わりない。


逃げようとしても炎を掴むことは出来ないし、形が無い物を振り解くことは出来ない。


望月 愼介:「んんん゛ッ……んんぁぁああ゛!!」


顔が燃える。


逃げられない。


首を中心に炎が燃え広がり、髪の毛は簡単に消えて無くなった。


水膨れが出来ていた皮膚は焼け落ち、頬や胸元の肉が露出する。


急激に水分を失った唇は黒く焦げ、裂けて血液が溢れ出た。


薄い肉の瞼は縮れめくれ上がり、強制的に眼球が露出される。


炎が直接眼球を犯し、視力を失った。


炎に当てられて眼球の表面に穴が開き、水晶体がとろけ出る。


自分の顔面が燃えている臭いを感じながら、遂には顔全体が炎に包まれてしまった。


俺は熱さと痛みと苦しさを味わいながら、男の思い通りに死んでしまった。


???:「ひどい顔だな……」


炎が消えた焼却炉の中で男の笑い声が響く。


???:「この体から魂が抜けだしたら、捕まえて永遠に続く拷問をしてやる。今から楽しみだな」


一体、この男は俺の何を知っているのだろうか……。



BADEND√

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る