第27話 



はぐれた昌暉と合流できなかったので、先に神澤を迎えに行く為に201号室を目指した。


望月 愼介:「神澤、俺だ。望月だ」


扉をノックするが、返事は返ってこない。


耳を近付けるが、不気味なほど静かだった。


なにか、おかしい。


俺はドアノブに手を掛ける。


鍵は開いていた。


望月 愼介:「神澤?」


真剣に部屋を調べている神澤の姿を願いながら、扉を引き開ける。


だが、部屋の中は想像以上に血生臭い光景が広がっていた。


望月 愼介:「か、神澤ッ!?」


陣内:「きゃぁぁぁああああっ!!」


軽部:「ッ!!」


床に転がる腕と脚を失った下着姿の胴体、引き千切られた腕や2つに分かれた脚。


そして血だまりの中には見覚えのある顔が、ゆらゆらと左右に揺れながら男の足元に転がっていた。


部屋には、白衣を着た半透明の男が立っていたのだ。


男の顔を認識する前に、男は俺の目の前に立っていた。


息が掛かりそうなほど近いのに、何の臭いもせず、男の濁った眼球から目が離せなくなってしまった。


???:「お前が……望月、か? 望月……慎介か?」


生気を感じられない男に名前を言い当てられ、心臓を鷲掴みされたかのように苦しくなった。


???:「そうか……お前か」


否定したいのに吸った息は吐けず、視界に広がる濁った眼球のせいで意識が飛びそうになる。


すると男は、すっと視線を外して俺の後ろに立つ2人に視線を移した。


男の視線が最初に捉えたのは、悲鳴を上げた陣内だった。


陣内は震える脚を無理やり動かして後退るが、廊下の壁に背中をぶつけてそれ以上は恐怖で逃げる事が出来なかった。


俺の視界から濁った眼球が消え、部屋の惨劇が目に入る。


201号室の血だまりに浸る生首は、間違いなく本物の神澤だった。


ということは、この目の前の半透明な男が殺した事になる。


部屋の中の事故で、体が引き千切れるわけがない。


このままでは背後の2人が危険だ!!


そう思った瞬間、俺の顔の横を何かが背後に向かって飛んで行った。


陣内の短い悲鳴の後、軽部の怯え上がる悲鳴が聞こえた。


???:「君はあの人に似てないからね」


振り返ると、廊下の壁に陣内が梁ついていた。


望月 愼介:「じ……陣内……ッ」


俺は血液を流す陣内を目の前にして、何が飛んできたのかようやく理解した。


文房具だ。


黄色の塗装がされた鉛筆が2本、陣内の右目に深々と突き刺さっていた。


青い色鉛筆が左頬に1本、悲鳴を上げていた口には鉛筆や色鉛筆が何本も刺さっていた。


無傷の左目は涙を流しながら、白目を向いていた。


鉛筆は顔だけではなく、手足や腹部にも突き刺さっている。


その中にはコンパスや三角定規も混じっていた。


全ての傷口から血液が溢れ、衣服を赤黒く染めていく。


軽部:「い、今ッ、助けてやるからなッ!」


飛んできたものに驚いて尻もちをついていた軽部が、陣内に駆け寄る。


そして陣内の首に刺さっている鉛筆に、震える手を伸ばした。


???:「人のこと心配してる暇なんて……」


その言葉と共に、俺の背後から再び文房具が飛んできた。


???:「無いんじゃないかな?」


『軽部危ない!』と口が動く前に、鉛筆と色鉛筆が軽部の皮膚を突き破っていた。


陣内とは違い、文房具は顔だけに刺さっている。


右目には赤とオレンジ色、左目には緑と白の色鉛筆が眼球を潰していた。


鼻にしっかりと刺さらなかった茶色の色鉛筆は、軟骨を抉って床に転がっている。


額には黄色い塗装は施された鉛筆が3本刺さり、軽部はピクピクと痙攣していた。


???:「お前は……簡単には殺さないぞ」


文房具に貫かれた2人に釘付けになっていると、半透明の男が耳元でゾッとする言葉を囁いた。


???:「お前がいなければ、ワタシはこんな事をしなかったかもしれないんだ」


俺の存在が、この悪夢の元凶だとでも言いたいのか?


俺は反論しようと振り返った。


だが男の腐った目を見た瞬間、視界が急激に狭まり、意識を失った。


次に目が覚めたのは、小窓の付いた狭い空間だった。


どこに閉じ込められているのか見当もつかないが、小窓から見える景色は外のように見える。


雑草だらけの地面と、遠くには薄汚れた壁が広がっていた。


望月 愼介:「……病院の裏側か?」


立ち上がれるほどの高さは無いが、体を起こそうとすると硬い何かの角が腰や腕に当たった。


痛みを感じたが切れてるわけではないので、ゆっくりと上体を起こし、硬い物を手に取る。


小窓から差し込む月明かりに照らすと、それは木だった。


細い丸太を4等分や6等分にしたような、イチョウ型の薪の上に俺は横になっていたらしい。


壁にもたれ掛かる俺の目が、暗闇に慣れると視野は広がり、新聞紙の切れ端や四角いガムテープの塊が転がっているのが確認できた。


望月 愼介:「……なんだこれ」


ガムテープの塊の正体が月明かりだけでは分からなかったので、スマホのライトを点けようとした、その時だった。


???:「気にするな。それもお前も消えるんだ」


ガラガラとした男の声が外から聞こえた。


望月 愼介:「おい! 俺をここから出せ!!」


男の姿が視界に入り、小窓を叩く。


???:「お前は自分の過ちを忘れているんだろ? ワタシをこんな風にしてしまったのもお前だ」


男はぬっと小窓に顔を近付けて、俺を恨めしそうに睨んだ。


望月 愼介:「何言ってやがる! 俺はお前なんか知らねぇよ!」


???:「忘れてるだけだ。お前が原因で少女は死んだ。お前が殺したんだ」


望月 愼介:「なっ……」


俺は何を忘れてるんだ?




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