第26話 神澤視点


神澤 真梨菜:「イヤァァァアアッ!! 腕がッ腕がッ!!」


???:「心配しなくても後で縫い付けてあげるから。入り口が狭いから一度分解したいんだよ」


男は私の右脚に視線を向けた。


神澤 真梨菜:「い、いや……ヤダヤダッ! もう止めてッ!!」


涙と涎でぐちゃぐちゃな顔を横に振る。


???:「……それは聞けないお願いだなぁ」


そう言った瞬間、右脚に空気が密着したような感覚に襲われる。


そして吸引しているかのような力で、下に向かって引っ張られ始めた。


左腕が引き千切られた感覚と同じだ。


神澤 真梨菜:「やめてっ! もうやめてッ!! お願いッ!!」


喉が痛いのなんて気にしてられなかった。


神澤 真梨菜:「ぁぁあッ! ダメッ!! あしがッ! あ、しがッ……」


関節がメキメキと音を立て、耐えられなくなった皮膚は少しずつ赤い亀裂をつくっていく。


抵抗できない私は、痛みを訴えながら泣き叫ぶしかなかった。


神澤 真梨菜:「あっ……あっ……もう脚がッ! もう、ダメッ」


関節の限界を感じ取った私は、右脚を諦めた。


ガゴッ!


鳥肌が立つ嫌な音の後に、皮膚が裂けて筋肉も引き千切れた。


神澤 真梨菜:「ぁぁぁああぁぁぁあああぁぁあああああッ!!」


今まで経験した事のない激痛を味わい、吐き気が込み上げてくる。


神澤 真梨菜:「あぁぁあしが……あしが……」


私はえづきながら、失われた脚を見下ろす。


すると引き千切られたはずの太ももが、まだ胴体と繋がっていた。


???:「根元からが良かったのになぁ……」


残念そうにしているが、どこから千切られようと私の体の2ヶ所から激痛が発生しているのに変わりはない。


神澤 真梨菜:「うっ……うぇ……オエッ」


耐えられなくなり、私は胃袋の中身を床にぶちまけた。


吐瀉物が床で血液と混ざり合う。


朦朧とする意識では、昼に何を食べたかなんて思い出せなかった。


ただ太田さんと望月さんと3人で、くだらない話をして笑いながら食べていたような気がする。


面倒見の良い太田さんと、何かと文句ばかりの望月さん。


もう会えないのだと思うと、とても愛しく感じた。


たばこが大好きな望月さん。


嘘吐きな望月さん。


文句を言いながらも車に乗せてくれて嬉しかった。


面倒臭がりなのにファンサービスとして、轟チャンネルの撮影に付き合ってあげたり。


私の左手を掴んで逃げてくれたり。


必死で脱出手段を考えてくれたり。


混乱していても的確な指示を出してくれたり。


1階に隠れてる轟チャンネルの3人を迎えに行ってあげたり。


なんだかんだ優しい望月さん。


……これじゃ、私が望月さんの事好きみたいじゃない。


ガゴッ!


神澤 真梨菜:「イ゛ッ!?」


???:「急に黙るから死んだのかと思ったよ。やっぱり女性はこんな痛みでも耐えられちゃうんだね」


どうやら私は意識を失っていたようだ。


残っていた太ももを引き千切られた激痛で目が覚め、生きている事に初めて絶望した。


さっきまで「生きたい」「助けてほしい」と思っていたのに、今はもう早く殺してほしかった。


神澤 真梨菜:「ぁぁあッ……痛い痛いッ……もうやだっ」


股関節から右脚を失ったのに、感じるはずの無い膝にも激痛を感じた。


両目からは大粒の涙が、とめどなく溢れ出ていた。


???:「次は残ってる右腕と左脚、どっちがいい?」


私の胴体に繋がる右腕と左脚に、ピタッと空気が張り付く。


神澤 真梨菜:「もう、いや……早く、殺して……」


???:「そう言われると、ゆっくりしたくなるよね」


神澤 真梨菜:「サイ、コ……やろっ」


???:「まぁそろそろ同じ反応だから飽きてきたころなんだよね。ワタシに時間はたっぷりあるけど、君の体は……ね」


床に転がる腕や二つに分かれた脚に視線を這わす。


すぐに腐るとでも言いたげだ。


???:「ワタシの本来の楽しみは君を殺す事じゃないんだ」


そう言って男が私を見上げると、ピシっと紙で切ったような痛みが首に走る。


視界から男の姿が流れるようにずれていく。


声が出なくなる。


ゴドンッと重い物が落ちる音と共に、赤い水飛沫が宙を舞う。


左腕と右脚と……首を失った体が視界に広がるが、すぐにそれは霞んでいく。


視界の周りから墨汁が染み込むように黒く滲んでいき、最後は暗闇が私を包み込んだ。


何が起きたのか理解するだけの思考は残っていなかったが、体の痛みから解放された私は安らぎを感じでいた。


どこからか望月さんの声が聞こえた気がしたが、何を言っているかは分からなかった。


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