第25話 神澤視点


神澤 真梨菜:「んぐっ」


???:「最近、退屈しててね。今度は痛みと恐怖に悲鳴を上げる姿が見たいから、殺す前に少し楽しませてもらうよ」


ぐぐぐっと首を絞めている手に力が入り、体が浮いて行く。


慌ててつま先立ちになるが、すぐに床の感触が無くなった。


???:「実はが狭くてね」


体は宙に浮いたまま、男の手から首が解放された。


???:「大人しく付いて来てくれればよかったんだけど……死体はバラバラにしないと、運び込めないんだ」


自分がどうなってしまうのか、容易に想像が出来た。


ただ殺されるだけではない。


人間としての形を奪われてしまうのだ。


???:「眼鏡の小僧みたいに一瞬で殺すのは退屈しのぎにならないから、君は生きたまま、少しずつバラバラにしていくね」


男の見えない力が、私の両腕を持ち上げる。


十字架に張り付けにされている気分だ。


指の関節も勝手に動かされ、ガムテープが巻かれた「何か」が落ちる。


???:「そういえば、ずっと何を持っていたんだい?」


男が左手の人差し指をクイッと曲げると、床に落ちた「何か」は宙を浮いて移動した。


???:「あぁ、この形には見覚えがあるな……そうかそうか」


男は「何か」の正体が分かっているのか、嬉しそうに笑った。


???:「君は宝探しの天才だ。ワタシはこれを探していたんだよ。感謝する」


「何か」は男の目の前から移動して、絵本が置いてある机に静かに落ちた。


???:「あれは後で裏庭の焼却炉に入れておくよ」


ウジ虫が這う顔を私に向けて、男は笑った。


男の関心が私に戻る。


神澤 真梨菜:「いやっ、いやっ!!」


???:「君には敬意を表して、丁寧に、バラバラにしていくね」


神澤 真梨菜:「いやっ!! 止めてッ!! 殺さないでッ!!」


お願い!


望月さんに届いて!!


私は渇いた口で必死に叫ぶ。


神澤 真梨菜:「望月さんッ!! 望月さん助けてっ!!」


渇いた口で無理やり声を出し続けると、喉が切れたのか血の味がした。


声を出すのに痛みを感じたが、私は助けを呼び続けた。


???:「君が素直にワタシの傍に居ててくれれば、こんな事はしなかったんだけどね。ワタシも残念だよ」


言葉とは真逆の嬉しそうな顔をしている。


神澤 真梨菜:「この、サイコ野郎ッ!!」


白く濁った眼球を睨みつけるが、男は目を細めるだけだった。


???:「ワタシはこんな事も出来るんだよ?」


そう言うと見えない力が私の服を引き裂き、下着姿にされてしまった。


素肌が外気と男の目に晒され、一瞬で全身に鳥肌が立った。


???:「……ワタシを楽しませておくれよ」


男がニヤリと笑った次の瞬間、私の左腕が強い力で引っ張られる。


神澤 真梨菜:「ひぃっ!! なに!? やめてっ!!」


メキメキと関節がきしんでいる。


神澤 真梨菜:「やめてやめてッ!!」


掴まれているというより、吸引されている様な感覚に恐怖が増す。


神澤 真梨菜:「(振り解けない……ッ!!)」


左腕の関節たちが軋んでいる。


やがて引っ張られる痛みとは別に、皮膚の表面がピリピリと痛み始める。


見ると関節周りの皮膚に、無数の赤い亀裂ができていた。


紐がゆっくりと千切れるように、ピシピシと赤い線が増える。


神澤 真梨菜:「ぃゃぁぁああッ!!」


このままじゃ、腕がッ……!!


神澤 真梨菜:「ダメダメッ! 肩がッ」


私の左肩が限界値を超えた。


ガゴッ! 肩の関節が嫌な音を立てて外れ、骨という軸を失った肩の肉は吸引力に負けた。


ぶちぶちと血液を飛ばしながら、肩の肉が引き千切れた。


神澤 真梨菜:「ぁぁぁぁぁああああああああッ!!!!」


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!


心臓がバクバクと大きく跳ねている。


???:「大人しくワタシの傍に居てくれれば、悪いようにはしなかったのに」


男は悲しそうに目を細めるが、ガラガラの声色は楽しそうだった。


無数の血管の断面から、とめどなく真っ赤な血液が溢れ出し、床を汚す。


酸化して茶色くなった血痕に私の血液が重なり、生臭い鉄の臭いが部屋を満たす。


殺人現場が生き返った。



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