第89話
「昔……その、指輪を渡した相手が指にはめられなくて……本当は、髭がある人が好きなのと……言われたこと……が……」
ぐあああああっ。
なんだか過去の傷をえぐるようなことを私は言ってしまったようです。
髭コンプレックスが根深いのも、もしかしたらこうした過去の経験によるものなのかもしれません。髭で振られるとか想像を絶します。
いえ、でも、なんか漫画でありましたね。割とイケメンなのに剥げてるから振られるみたいなもの……。
もしかしたら、この世界の髭が生えていないは、日本の禿に匹敵するようなコンプレックスになる要素なのでしょうか……。謎です。
「私は、グレイルさんはとても素敵な人だと思っています。あの、私の国ではグレイルさんとてももてると思います。テレビに出て人気があっという間に出て世界的なスターになるほどの人だと思います」
私の言葉に、グレイルさんが顔を覆っていた手をはずしました。
「テレビ?スター?星になるということは、死ぬっていうことか?」
は?
こっちの世界でもお星さまになるって、死んだ人のことを言うんでしょうか。そっちのスターじゃないですっ。
「ち、違います、あの、人気者になるってことです。手が届かないくらい人気が出て、ほ、ほら、星のように手が届かないけれど、キラキラと輝いてあこがれる存在になるというか……」
グレイルさんの右手が私の頬に触れました。
「俺は……手が届かない存在にはなりたくない……」
え?ちょ、イケメンが、手が届く存在でいるとか、凶器ですよ。
いやいや、届く距離にいても物理的に届く距離でも、手が届く存在であるわけではないんですよ。
「リツ、俺は……ああ、ごめん、俺……女性に不用意に触れるなんて……またダンに何といわれるか。すまない。俺は、その……リツと結婚はできない」
あ?
え?
「け、結婚?いや、私、グレイルさんと結婚なんて考えたこともないですけど、なんで結婚なんて単語が?」
グレイルさんがもじもじして言いにくそうに口を開いた。
「その……男女が二人っきりで一夜を……その……」
ぶはっ。
イケメンが何を言い出すかと思ったら……。
私が無意識のうちにラブラブ念波とかを送って結婚を迫っていると思われたのかと一瞬焦りました。
かっこいいとは思いますが、それこそ手に入ると思うレベルを超越しているので、恋愛対象として見るわけはないですよ。
「まさか、馬車でのことですか?」
グレイルさんがちょっと頬を赤らめて頷いた。
「えーっと、あれは私が女だって知らなかったんですよね」
「そうだ。だが、知らなかったとはいえ……その、傷つくのは女性側だ……本来ならば、責任を取って結婚すべきだとは思うのだが……」
いやいや、何もなかったんだし。
いや、何もなくても、男女が二人きりで一夜を共にしたという事実が駄目なのか……。
でも誰も知らないし。いえ、馬車の御者は知っていますね。でも御者は私が女性だって知らないんじゃないですか?でももし知られたらってこと?
私の名誉だとかなんだとかはどうでもいいのですが……。
グレイルさんが片膝をついて私の顔を見上げました。
「結婚は無理だが……責任はとらせてほしい。ギルドへ行けというようなギルド任せにはできない。俺に……俺に、リツの一生の面倒を見させてくれ」
は?
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