第88話
「いや。国宝級……あ、いや、た、たまたま、その、たまたまだ。俺が国宝を扱える立場にあるとかでなくて、親、そう、親がその……」
グレイルさんが何か焦った様子を見せています。
そして、私は国宝級と言う言葉に心底がっかりしました……。そう、ですよね。一般に流通していれば、わざわざ10歳を待って祝福を受けなくとも、いいですもんね。教会まで兄弟で連れて行って、一緒に祝福受けさせたりしたほうが楽でしょうし。
米粒魔石しか使えないって言ったときにミック君何もいわなかったですし。
……ほら、なんだか知りませんが、レシピを買いとってくれる人が、料理に必要なものは買ってくれるみたいな話があったけれど……。魔力増強装置が一般的ならミック君買ってくるとか言いそうですもんね……。
国宝級っていうことは、相当高価な品。世界にいくつもあるわけじゃなくて、私のようなものが理由なくして使えるものじゃないんですよね。
残念すぎます……。
「転移魔法というのは?」
「ああ、俺の一族は代々転移魔法が使えるんだ。ただ、魔力増強しないと使えないからホイホイと転移できるもんでもないんだがな。今回は、大事なことだからダンにも言って使わせてもらった。ダンも、往復に時間をかけるくらいならどんどん使えと」
ダン……さん?
国宝級の品をお父さんが扱える立場で、使えと言ったのはダンさん?えーっと、どういう関係なのでしょう?
「むしろ、座標となる俺の指輪をリツがはめることができたことに驚いていたよ」
はっ。
そうでした。
「あの、これ、指輪、えっとも、貰ってよかったんですか?こ、国宝級とか、やっぱり高いもので……か、返さないと……」
指を5回慌ててこすって姿を見えるようにします。
「ああ、いや、指輪は国宝級とかじゃないよ。問題ない。その辺で簡単に手に入る品だ」
「えええ、でも、魔力増強装置みたいに不思議な能力がついてるの、そんなに簡単に手に入るわけないですよね?」
指から抜いて渡そうとしたら、グレイルさんが手を振って止める。
「本当に、その辺の指輪だ。ただ、会話をしたり転移魔法の座標にするため、俺の魔力を染み込ませてある」
「え?」
「その金属が魔力を吸い込むものだからな。俺がずっとはめていたから、俺の魔力がしみ込んでいる。だから、通話や座標になる」
魔力を吸い込む金属……。
「す、すごいです……」
魔法のある世界っぽくなってきました。
指にはめた指輪をしげしげと眺めます。
「ただ、俺の魔力がしみ込んでる指輪は、誰の指にでもはまるわけじゃなくて、俺に対して悪意を持っていたり、悪感情のある者ははめることができない」
へぇ。魔力が拒否するみたいな感じなのでしょうか。ますます魔法っぽいですね。
「だ、だから、その……リツが指にはめられたということは、リツは、その、俺、俺のことを、悪く思ってはいないと……」
ちらっとグレイルさんが私の顔を見たり視線を外したりしながら言葉を発します。
「悪く思うわけないじゃないですか。グレイルさんとてもいい人です。グレイルさんみたいにいい人を悪く思う人なんているんですか?」
首を傾げると、グレイルさんがあーっと、顔を手で覆ってしまった。
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