第78話
ひええ。何?抱っこはまずかったのかしら?
慌てて幼女の脇に手を入れて地面におろします。
「み……耳っ」
幼女の頭には2本の耳が……。
猫耳とか、熊耳とか、兎耳じゃなくて、これって……。
「う、馬耳?」
馬耳の幼女。ど、どうなってんの?!
「キュイッ」
へ?
「キュイキュイ」
頭の中に直接響くようなこの声……。そして、馬耳……。と、白いワンピースにはあまり似つかわしくない首からぶら下げた皮の巾着……。
「えーっと、その巾着の中身って、もしかして……金平糖?」
幼女がこくんと思い切り頷いて、巾着の口を開いて見せてくれました。
そして、ぷにぷにっとした小さくて柔らかそうな手を巾着に入れて、金平糖を一つつまんで口に運びます。
「あ……あの時助けてくれたミニ馬さん……」
間違いないと思うのですが。馬が、人の姿に……?
えーっと、魔法のある世界ですし、そういうこともあるのかな?
「リツ」
にこっと笑う幼女。くっ。可愛いですよ。
「金平糖、ちゃんと食べすぎないようにしてるのね、偉いね」
どう接していいのか分からずとりあえず褒めてみる。
「キュイー」
嬉しそうに笑う幼女。
「おーーーい!」
ミック君の声が遠くから聞こえてきました。
幼女が慌てて頭の耳を小さなお手々で押さえます。幼女が手を離すと、馬耳は消えていました。
あ……。あれですね。人間に変身しちゃえるお狐様とか耳としっぽだけが油断すると出ちゃう系の……。
もしかしたら、私には昨日のミニ馬だと教えてくれたけれど、他の人には馬だというのはばれたくないということでしょうか。
わかりました。全力でミニ馬さんの正体は隠します。任せてくださいっ!
ミック君が近づいてくると、幼女……ミニ馬さん……えーっと、名前は何でしょう……が、私の背中に身を隠しました。
「リツ兄ちゃん、フライパンは作ってもらわないとないから、まずは瓶買ってきた」
ミック君が自慢げに両手にガラス瓶を振ってきました。
「んん?」
そして、すぐに私の体の後ろに回ります。
「リツ兄ちゃん、なんだ、この子?」
ミック君にさっそくミニ馬さんが見つかりました。
「えーっと、あーっと、……」
ミニ馬さんの正体がばれない上手な言い訳、言い訳、えーっと……。
「ま、迷子……?」
私の答えに、ミック君が呆れた声を出します。
「リツ兄ちゃん、流石にこんな森の中で迷子になるなんてないだろ……」
うぐっ。確かに、3歳くらいの幼女が街から結構離れたこの場所で迷子になるとは考えにくいかもしれませんが……。
で、でも、ほら、子供は大人が考える以上に遠くまであっと言う間に移動しちゃうって言いますし?
「お前、どうしたんだ?」
ミック君が思いっきりミニ馬さんに顔を近づけて話かけました。
その勢いが良すぎて、ミニ馬さんはびくりと驚いています。……
ああああああっ!
驚いた拍子に、美幼女の頭に馬耳出現!
ごまかさなきゃ、隠さなきゃ、ミック君に見られる前に!と、思ったら、ミック君の視線が馬耳に向けられました。
それから、ミック君は、あろうことか美幼女を抱っこしました。片腕で支える感じの抱っこです。
あああ、10歳の男の子が3歳の女の子を抱っこしている姿、尊いですよ。スケッチしたくなります。かわいすぎます。悶絶。
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