第72話

「リツ君、本当は生肉やパイナップルの芯を食べるつもりじゃないのかね?ワシが牛乳を飲むように、リツ君の故郷では生肉やパイナップルの芯も食べるのではないかね?」

 ワーシュさんが心持ち期待に胸を膨らました目を向けています。

 ……はい、実は……と、言いたいところですが生肉は本当に危険なんです。食べられるように細心の注意を払って加工されたものでないとダメですし、パイナップルの芯を食べるレシピを見たことがないのでどうすれば食べられるのか知りません……。

「いいえ、故郷でも食べませんが生肉もパイナップルの芯も料理して食べます」

 ワーシュさんが声を潜めて尋ねてきました。

「料理?リツ君は料理ができるのかい?そりゃぁすごい!」

「そうですか?あの、ワーシュさんの国でも料理をする人は少なかったのですか?」

「そうじゃな。祝福用のパンと肉を焼く者たち以外で料理をすると言えば、一獲千金を目指して新しい物を作り出そうとする一部の者がわずかにおるが……毒を口にして命を落とす者も多かったからのぉ。鑑定が使える者に鑑定してもらえない人間は料理は禁止になっておる」

 え?

「料理が禁止?」

「そうじゃ。この牛乳ならばお腹を壊すくらいじゃが、命を落とすような危険な食べ物を周りの者に食べさせたらどうなる?」

「えーっと……作った本人だけじゃなくて、周りの人たちも毒で命を落とすかもしれません……」

 そういえば、山で取ったきのこを鍋にして食べた人が集団で食中毒になったみたいな話を聞きますよね……。

「毒だと知らなかったんだと言って罪を逃れられたらどうなる?」

 はっ。

「毒殺……し放題……でしょうか……」

 そうか。確かに……。自分で毒かどうか確かめるのは自己責任……いえ、医療を逼迫させてしまうならそれすら迷惑行為なのですが……。

 誰かに食べさせてしまえば殺意がなくとも殺人事件ですね……。青酸カリが毒だなんて知らなかったんです。アーモンドの香りがするから、アーモンドの香りづけのものだと……とか言われたら怖いです。怖すぎます。

 だから、禁止ですか。鑑定魔法が使える者、使ってもらえる環境にある者以外は……。

 だから料理する人は本当に少ないのですね……。この国では禁止にはなっていないようですけど……。それとももしかして禁止?いえ、グレイルさんもミック君も何も言ってませんでしたから、禁止ではないんですよね。

 これは気をつけなければいけません。この国以外に移動して同じように料理していたら牢屋に入れられるかもしれないってことですよね。

 ワーシュさんに聞いていてよかったです。

「で、何を作るんじゃ?料理……ワシにも食べさせてくれんか?金なら払うぞ」

「あの、お金はいらないので……その、もしよければ牛乳を出してもらってもいいですか?」

「おお、お安い御用じゃ。今出すかの?」

「いえ、えーっと、明日の朝……えっと、明日の朝にこのパイナップルと肉の料理も出来上がっていると思うので……交換ということで」

 ワーシュさんが快諾してくれました。

 やりました。これで、牛乳ゲットです。

 パイナップルも肉もこの世界で普通に手に入りますし、もし成功したらワーシュさんの役に立てると思います。

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