第63話

 えーっと。

 泣き止んだかと思うと、ミック君が変なことを言い出しました。

 大人の私がミック君を守るべき立場ではないでしょうか?ミック君が私を守る?

 というか、何から?魔物から?

 まあ、私は弱そうですけど。でも、ミック君だって、強そうには見えませんよ?

「神官皇様がなんか言ってきたって、おいらはリツ兄ちゃんに味方するって決めたっ」

 え?

 神官のコウ様から私を守る?いえ、あの、私、コウ様と敵対するつもりとかないですけど……?

 だいたい、全然知らない人ですし、えーっと……。

 あ、でももしかして、知らない人について行っちゃだめだよとかコウ様が心配して私のことを怪しんでいる……?コウ様の方は私に敵対心を持っている……?そ、その可能性はありますね。

 えーっと、ちゃんと会って怪しくないですと信頼してもらう行動をとったほうがいいでしょうか……。ミック君の教会での立場が悪くなるのは困りますし……。

「あっ、そうだ。これ。肉を売ったお金」

 ミック君が金貨を1枚取り出しました

「え?金貨?」

 待ってください、金貨って、かなりの価値がある貨幣じゃありませんでしたか?

「本物じゃないから、これだけにしかならなかった。ごめん」

 ちょっと、待って、待ってください。

「ミック君、たかが肉ですよ?えーっと、これくらいのパンを出す魔石より一回り大きい魔石で出す肉が2枚分ですよ?」

 確か、パン魔石が銅貨1枚、およそ100円とすると、銀貨が1000円、金貨は銀貨100枚で10万円ほどの価値だったと思うんです。それとも私の認識がおかしいのでしょうか。ズボンが金貨3枚で、ハーブ鶏が金貨10枚ということでしたし……。パン魔石の銅貨1枚が10円?……いえ、でもそうすると米粒魔石……スライムから取れるものが1円じゃぁ、10円の駄菓子が出せるのがおかしくなっちゃいますし……。

 貨幣価値に悩んで首を傾げていると、ミック君が慌てて言葉をつづけた。

「食べたことのない味だったから、皆競い合って買ったんだよ……本物だったら、一切れ金貨1枚どころか10枚はする味だってみんな褒めてたから……今度は本物が食べたいって」

 は?

 本物ならば金貨10枚じゃなくて、一切れ金貨10枚?

 2枚分の肉を薄切りにして……何切れあったのか……。

 頭がくらくらとします。

 いえ、これは私が物価を知らなさ過ぎて驚いているだけでそれほど高価ではないのでしょうか。それとも、ミック君の言葉が大げさなのかもしれません。いえ、ミック君が話を盛ったとかではなく、ミック君に賛辞を述べた買った人たちが調子いいことを言っただけかもしれません。ええ、きっとそれでしょう。

 よく言いますもんね。「うまいぞ。これがありゃご飯が何杯でも食べられる」みたいな言葉。実際は、おなかが膨れてしまうので、何杯でもというのは大げさな表現です。いくら大食いの人でも限界はありますし。

 つまりはこの世界では美味しいものには「本物だったら金貨10枚はする」ってそのたぐいの言葉なのかもしれません。言葉通りに解釈して勘違いしてはいけませんね。

 そもそも、チィロールチョコレートとかとはちがって、燻製肉はこの世界にあるもので作ったのですし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る