第59話

 街に入ってすぐの場所にちょっとした広場があります。街に入ってきたばかりの人が休憩できるように座る場所も用意されています。

「じゃぁ、ここでリツ兄ちゃん待っててくれよ。すぐに売ってくるから!」

 ミック君に燻製肉入りのフライパンを渡しました。

「絶対ここで待っててくれよ!」

 ミック君が手を振ってフライパンを持って立ち去りました。

 ……あれ?売ってきてやる?

 よく考えたらこのちょっとした広場にもそこそこの人がいます。ここで、肉を売ったらよかったのでは?

 露天商もいくつか見えますし。立ち食いしている人もいます。


======(復習↑ミックくんがくっせー肉を売ってくると言ったよ ↓視点もどります)



 と、きょろきょろとあたりを見回していると、一人の恰幅のいい女性が近づいてきました。

「あんた、あの子供に騙されたんじゃないのかい?」

「え?」

「売ってくるって聞こえたけど、そのまま持ち逃げされたのかもしれないよ」

 まさか?

「あの子は、ミック君はそんな子じゃありません」

 思わずかっとなって声を荒げます。

「そうかい?ならいいけれど……気をつけなよ」

 40歳前後の女性は私の声にぎょっとしつつもちょっと首をすくめてそれだけ口にした。

「あ、ありがとうございます。あの、心配して声をかけてくださって……大きな声を出してごめんなさい」

 この女性はミック君の悪口を言いに来たわけじゃない。私のことを心配してくれたんです。いい人です。

「いや、おせっかいだったみたいだね。見ない顔だったからね。この広場には時々旅人をかもに、悪さを働く輩も出るから、ついね」

 思わず首を傾げました。

「えーっと見ない顔だって街の人の顔をほとんど覚えているんですか?」

 女性がぷっと噴出した。

「まさか。さすがにご近所さんや有名な人の顔は分かるけれどね、あんた自覚がないのかい?黒い髪に黒い瞳なんてそうそういやしないし、そんだけかわいい顔してるんだから街に住んでりゃすぐに噂になるさね」

 黒目黒髪は珍しい!そういわれれば、確かにそうです。

 黒っぽい髪や黒っぽい目の人はそれなりに居ますが確かにしっかりした黒目黒髪はほとんどいません。

 きょろきょろと周りを見回して改めて確認します。

「あーあー、そんなにきょろきょろしてたら、世間知らずだってアピールしてるようなもんだよ。もっとシャンとしな。保護者はどこだい?」

 あれ?

 そういえば、かわいいなんて単語も飛び出しましたけど……保護者?

 これは、子供だと思われているってことですか?いや、流石に子供だと思われていたとしても、10歳のミック君ですら一人で行動していたって何も言われないと思うんですが、私って、そんなに頼りないように見えるんですかね?

「一人でこの街には来ました」

「そうなのかい?何か事情があるのかい?いや、詮索する気はないけど……私はそこで宿屋をやってるマーリーだ。何か困ったことがあったら相談に乗るよ。この街に嫌な思い出は作って欲しくないからね!」

 広場の西側の店の一つをマーリーさんが指さしました。

「宿屋……さん?」

「ああ、そうさ。小っちゃなスライム亭って宿。昼間は食事も提供してるから気軽に寄っておくれ。この街の名物、特別な料理もいくつか出せるからね」

 マーリーさんは、私の頭をなでると、宿に向かって帰っていった。大きな籐カゴを手にしているので買い物にでも行った帰りなんだろうか。

 椅子に座って、きょろきょろしないようにおとなしく待つことにします。

 ちょうど、街へ入ってくる街道とつながっているので、出入りする人の姿が見えるのです。……とはいえ、森の中を歩いていた時もあまり頻繁に人や馬車とすれ違うことはなかったので出入りする人はあまり多くはありません。

 王都につながる道だからあまり出入りがないんでしょうか。すべての道も出入りがないのでしょうか。

 ちょっと考えます。




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