第17話 神官皇視点

前話に引き続き神官皇視点となります

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「スライム魔石で出したものをこんなに丁寧に包むなんて、変なの!」

 ミックの言葉にうんと小さく頷く。

「どうも、これをくれた人物は魔石をパンにできないんだよ。身なりはよい物を身に着けていたけれど……食べるものに関しては苦労していたのではないかな。せめて見た目だけでもと、親が工夫を凝らしたのだろう……」

 そういえば、少年が取り出したものはすべて違った絵が描かれていたように思う。

 一つずつ親が用意して丁寧に包んだのではないだろうか。

「へー、祝福を受けてないのか?魔石が手に入らないわけじゃないよな?」

「詳しいことはよくわからないけれど……ミック、これは何に見える?」

 包みを開くと、白い小さな塊が出てくる。

「え……っと」

 ミックが絶句している。

「食べたことはない……みたいだね」

「うん……何これ?白い石?いや、石みたいに堅そうじゃないし……あ、もしかして、壁とかに塗るあれ?」

 ミックが漆喰の塗られた壁を指さした。

 ……確かに、可能性として全くないわけじゃないだろう。

 白い壁を作るときに練って壁にぬるものだ。

 泥団子を食べていたと考えるなら、漆喰も食べていた可能性は十分にある。

 ……いったい、どのような食生活を送っていたのか。

「壁のあれなら毒とかじゃないよね?さっそく食べてみるよ。これ1個しかないなら、半分に切ればいい?」

 ミックがナイフで半分に切って、躊躇せずに口に入れた。

「うわっ」

 周りで様子をうかがっていた神官皇補佐が小さく声を上げて口を手でふさいだ。

「うえっ」

 味を想像してか、別の神官皇補佐がちょっとだけえずいている。

 まぁ、普通の反応だろうとは思う。

 私自身、泥団子を出された時にはとても口に入れる気にはならなかったのだ。……白いだけで幾分か気持ちが前向きになってはいるけれども。漆喰……か。

 泥よりは幾分マシではあるが。土の仲間……。とても食べ物だと思えない。

 ミックの何でも口に入れるバイタリティは本当に見習いたいものだ。

 ミックが、両手で口を押えた。

「毒か?吐き出せっ」

 慌てて立ち上がり、ミックの背中をたたく。

 ミックがぶんぶんと首を大きく横に振った。それから、私の手を逃れて、壁にピタリと背中をつける。

 な、なんだろう、この行動の意味は。

 ミックは両手で口を押えたまま、壁に背を当てたままじっとしている。

 毒で苦しそうな顔をしているわけではないけれど……。

 まずいのを必死に我慢して味を確かめている……?

 顔を見ると、何かを我慢しているようにも見えない。

 様子を見守ること1分ほど。

 ミックが大声を上げた。

「あーーーーっ」

「ど、どうしたんだミック。大丈夫だったのか?」

 ミックがソファに戻ってどっかりと腰を下ろした。

「口からなくなっちゃったぁ~」

「え?」

「始めた食べた。すんごく美味しい。甘くて、はちみつとも砂糖ともちがう、全然違う、とにかく甘くておいしくて、もう、ずっと口の中に入れておきたいのに、なくなっちゃったっ」

 ミックがそれほどまで褒めるなど、いったいこの漆喰もどきとはどんな味がするのだろう?

「毒では、ないんだな?」

 私の問いかけに、ミックがうんと大きく頷いた。

「毒じゃないよ、ピリピリもしないし気持ち悪くもならない、ああ、でも、もし毒だったとしても、おいら、もっとたべたいけど!」

 毒でも食べたい?そこまでミックに言わせるとは……。

 ミックが、テーブルの上に載っている残り半分の漆喰を物欲しげに眺めている。

 いやいや、毒見が済んだのなら残りは私が食べるから上げられないので、そんな凝視しないで……。

 神官皇補佐たちも興味深げに私が漆喰もどきを口に運ぶのを見ている。

 人差し指と親指につまんで、漆喰もどきを口に運ぶ。

 甘いと言っていたからだろうか。甘い香りがする気がする。嗅いだことのない香りだ。

 口に漆喰もどきを入れた瞬間、口の中で漆喰もどきが解けていく。

 甘い。甘くて柔らかい。はちみつのようにどこか尖ったような甘さではなく、まろやかな甘さが広がる。

 滑らかな舌触りの漆喰もどきが徐々に溶けていき、甘さが口いっぱいに広がり……。

 何だ、なんだ、な、ん、だ!

 思わず腰が抜けそうになった。

 おいしすぎる。

 ミックが壁際に移動して両手で口を押えていたのが分かる。

 誰にも邪魔されず味わいたかったのだ。口から少しも出したくなかったのだ。

 ……ああ、溶ける。なくなってしまう。……いつまでも味わっていたい……。

「あーーーっ」

 思わず大きな声が出てしまった。

「ど、どうなさいました、神官皇様!」

「大丈夫ですか?遅効性の毒でも……?」

 首を横に振る。

「いいや、ミックと同じだ。口の中からなくなってしまったことで思わず声が出てしまった……」

 50歳にもなるというのに、10歳の子供と同じことをしてしまうとは。少し恥ずかしくなったが仕方がない。

 それほど、美味しいのだ。もうなんとも言えず、おいしいのだ。

 ……しまった。こんなに漆喰もどきが美味しいとは。

 ということは……。

「泥団子を食べておけばよかった……」

 少年が持っていたあの泥団子はどんな味だったのだろう。

「え?神官皇様?泥団子って……」

 何ともったいないことをしてしまったのか。

 これほど美味しいのであれば、パンなど食べられなくてもさぞ幸せであろう。

「これは……泥団子の少年を探さないと」

「いえ、だから、神官皇様、泥団子って、どういうことですか?」

 副神官皇が私の目の前に立ち訪ねてきた。

 名前すら聞いていない。どこから来てどこへ行くのかも分からない。

「泥団子を持っている少年のことだ」

「えーっと、子供なら泥団子で遊ぶことくらいあるのでは?ミック、適当に子供を連れてきなさい」

 副神官皇の言葉にミックが部屋を出ていこうとする。

「違う、ミック、そうじゃない。子供じゃない。ミックよりも大きな少年だ。10歳はとうに過ぎている。声変わりはしていないが、そろそろ成人……15歳になろうという少年……」

 副神官皇が首を傾げた。

「そんな年にもなって、泥団子で遊ぶ少年ですか?」

「いや、泥団子で遊んでいたわけではない。泥団子のようなものを食べていたのだ」

 副神官皇が目を見開いた。

「泥団子を食べるような酔狂な人間を探してどうするというのですか!冗談を言っていないで、仕事をしてください。何もかも私に任されても困りますっ」

 副神官皇が青筋を立てた。



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それは何かといわれたら、チィロールチョコレートミルク味ですよ!

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