第16話 神官皇視点
神官皇視点となります
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■☆☆神官皇視点☆☆
「神官皇様みぃーっけぇ」
腰をしっかりホールドされた。
「見つかりましたね……」
青いズボンにフード付きの膝上丈の短い白装束を身に着けた神官見習いだ。
10歳にしては小柄なそばかす顔の少年だ。
「おお、ミック、神官皇様を見つけたか。だが、何たる不敬。だ、だ、抱き着くなどと……!神官皇様から離れなさいっ」
「えー、逃げないように捕まえてただけだよぉ」
ミックはぷぅっとほほを膨らませた。
後から来た神官がミックをしかりつけるが、ミックは気にした様子もなく私の顔を見た。
「ねぇ、神官皇様、何か面白い物見つけた?」
「ああ。そうだな。ちょっと変わった者がいた」
「えー?どんな人?ねぇ、手に持ってるのは何?」
私の立場は神官皇だ。
神官の中で一番上。国内では、陛下に次いで高い地位……ということになっている。
まったく。望んで神官皇になったわけではない。
ほんの少しエルフの血が流れていたために。
ほんの少し人より植物を育てるのがうまかったがために。
ほんの少しいろいろなことに興味があり、新しい料理を作り出すことができたために。
気がつけば神官皇の地位にまで上り詰めていた。
……一度食べた食べ物であれば、魔石があればいつでも出すことができるこの世界。
料理をする必要などどこにもない。
過去には、干ばつや洪水などの飢饉で多くの人がなくなることがあったと言う。
魔石から食べ物を得られるようになってからは、食べる者の心配をしなくてもよくなり、食べ物や豊かな土地をめぐっての争いはなくなった。……それが三千年ほど前のこと。
それから、100年もたたないうちに畑は姿を消し、動物を狩ることもなくなった。魔物を狩り魔石を手に入れる。
いつしか、人々は食べられるものの知識も料理の方法も忘れていった。
唯一、教会だけがその敷地で麦を育て、牛を飼い、本物のパンと肉を人々に食べさせるようになった。
それが祝福と呼ばれるようになったのは今から1500年ほど前だ。
エルフは長命種ゆえに、口伝でなんとか伝わっている歴史。
歴史書として残されている書物にはすでに教会のみが神に与えられた麦だとか神から選ばれた神官にしか本物は作れないだとか怪しいことが書かれている。
……私は、昔は魔石ではなく誰もが畑で作物を育て、狩りをして料理を作っていたということを知ってから取りつかれている。
今、教会で作っている作物以外にも食べられるものがあるのではないか。
もっと世の中にはたくさんの知らない食べ物があるのではないか……と。
残念ながら、何の知識もなく、森に生えているようなものを口にして命を落とす者たちも多い。それゆえにやはり教会で祝福を受けなければならないと言う信仰はなくならないし、教会側はあえて権威を保つために秘密にしていることも多い。
この世に生を受けて50年。残りの命は何年あるかは分からないが、もういい加減、同じ味のパンも肉も食べ飽きている。
だからこそ、他の教会で育てられている作物を取り寄せていろいろと組み合わせ新しい料理を作りだしたりしている。北の方では麦が育ちにくくトウモロコシという植物が祝福に使われている。それを取り寄せて、パンに練りこんで焼いた。
それが瞬く間に王都で話題になった。
南の教会ではパイナップルという黄色い植物が育てられていた。そのまま食べるには酸っぱいし、口が痛くなるが肉と一緒にしておくと肉がとても柔らかくなる。南の教会では当たり前に食べていたようだが、ここでは衝撃的だった。それが8年前だ。
こうして数年で新しい料理を王都に伝えたため……。気がついたら神官皇になっていた。
「神官皇様困りますよ。勝手に教会から出ていかれては……」
神官がため息をついて私の顔を見る。
ため息をつきたいのはこちらの方である。
もっと新しい料理を作りたいのに。
もっと新しい食べ物と出会いたいのに。
神官皇になってからというもの、著しく自由がなくなってしまった。
神官のなかで一番上の立場だというのに。
「神官皇様、面白いのって、この手に持ってるもの?見せて、見たい、見たい!」
ミックだけが、私の行動をとがめもせずに一緒に楽しんでくれる。
「ミック!神官皇様はお忙しい身。お前の相手をしてはいられないのだ。さっさと教会に神官皇様が見つかったと伝えてこい!」
はぁとため息が出る。
「ミックには毒見をしてもらいたいものがあります。君が教会に伝えてきなさい。私の部屋にお茶の用意を。それから私の仕事の大半は副神官皇に割り振っていたはずです。私にいったい何をさせたいのですか?」
何もわかっていないとでも思っているのか。
神官たちは、副神官皇が力を持つことを嫌っている者も多い。だから神官皇である私に顔を出してもらい、副神官皇が大きな顔をしないようにしたいだけなのだ。……ばかばかしい。パンを作って肉を焼いて……そんな教会で権力を持って楽しいのだろうか?
私はもっと美味しい物をいろいろ食べて楽しみたい。お金がいくらあろうとも、高い宝石を身に着けたとてそれが何になるのか。
「毒見?じゃぁ、何か食べ物を見つけたんだね!すごいや神官皇様!」
「……すまないねミック。毒見など損な役割をしてもらって……」
ゆっくりと歩いて教会に戻り、執務室へと足を運ぶ。
執務室には大きな私の机が奥に鎮座している。
そして、その前には4つの机。
副神官皇と、神官皇補佐3人の机だ。その手前には休憩用の丸テーブルとソファが設置してある。簡単な来客の対応もここでする。
ソファに腰掛けると、ミックも向かい側に腰掛けた。
神官見習いでしかない少年を神官皇の部屋に連れてくると、皆が顔をしかめる。
……本当にばかばかしい。私が誰と親しくしようと勝手ではないだろうか。
「平気平気!知ってるよね!神官皇様も。おいら、毒には強いんだっ!」
そうなのだ。このミックは、幼少時に親に捨てられ生きるために何でも口にしてきたため、何度も食べ物の毒にあたり死にそうな目にあってきた。そのせいなのか毒には強くなったようなのだ。それに、毒じゃなかった食べ物を知っている希少な人材だ。
「ほら、これを貰ったのだ……本人が目の前で食べていたから毒ではないと思うのだけどね……」
テーブルの上に、少年からもらった小さな包みを置く。
白と黒の模様が描かれた紙にくるまれている。
「うわー、なんか綺麗な紙に包まれてるんですね。高級品ですか?」
「いや……スライム魔石で出していた」
ミックが驚いた顔をしている。
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