第15話

 それにしても、銀貨1枚はおよそ1000円。銀貨100枚、つまり10万円が金貨1枚で……私のズボンと同じようなものは金貨3枚……30万っ!高い~~~~!です!

 え、それより……ハーブ鶏……金貨10枚とか言ってませんでしたか?ひゃ、ひゃ

「百万円……」

 めまいが……。怖い世界です。

 怖い世界です。

 こ……怖い……。銀貨10枚で売れば100人でという話もしていましたが、銀貨10枚って1万円ですよね……。1万円、そりゃぁ、日本でもなくはない料理の値段ではありますが……。ハーブチキンって……コンビニで200円も出せばパックになったやつ売ってましたし……いえ、もちろんレストランで食べればもっと高いんですが……。

 わ、私……この世界でちゃんとした食事できるんでしょうか?

 魔石をパンにすら変えられず、お金も稼げなかったら……。

 7年はうまいんだ棒生活?

「ん?なんだ、百万円って?」

「あ、すいません、また声に出てしまっていましたでしょうか……あの……」

 兵士さんにもらった魔石はまだあります。魔石の状態で持っていてもパンにできることが少ないので10個取り出しておじさんに差し出します。

「この短剣ください。魔石10個です」

「おう、まいどあり。別の武器を買うときには、どんなに壊れててもこいつ持ってこいよ。下取りしてやる。銀貨1枚でな」

「え?銀貨1枚で売っていた物をさらに使い込んだ後にも銀貨1枚で下取りするんですか?」

 それって、実質無料で貸してくれると言うのでは……?

 もうけがないどころか損になるような……?

「ははは、気が付いたか?そんな顔しなくてもしっかり儲かってるから大丈夫さ」

 ガシガシとやや乱暴に頭をなでられました。

 ううう、なんかすごくいい人です。おじさん。

 金がないやつは客じゃないなんて追い払ったりせずに、金ができたら客になってくれりゃいいって……ちゃんと相手をしてくれるなんて……。

「あの……っ」

 ポケットから米粒魔石を取り出します。

「うまいんだ棒」

 サラダ味のうまいんだ棒が出てきました。

「ほんの気持ちです。本当に気持ちにしかなりませんが……。袋を破って中のこれを食べてください」

 お兄さんが包み紙を見て首をかしげていたのを思い出し、食べ方を説明するために、袋をやぶいて中身を見せた上に、食べて見せました。さすがに泥団子だとか言われるようなことはないと思うのですが、念のため。

「始めて見る食べ物だな」

 おじ様の言葉にほっとする。ちゃんと食べ物認定されたみたいです。

「うまいんだ棒×3」

 見本で食べたあとに3つうまいんだ棒に変えておじ様に手渡しました。

 ううう、イケオジがうまいんだ棒を食べる姿……ちょっと想像してしまいました。ありなのかなしなのか微妙なラインです。

 チィロールチョコを弾くように口の中に放り込んで食べるのはカッコいい気がします。でも、泥団子って言われたらめんどくさいので……。

「じゃぁ、ありがとうございました!」

 ぺこりとお辞儀をして店を後にします。

「おう、こっちこそ珍しいもんありがとうな!気をつけろよ!」

 背中からおじ様の声が聞こえます。振り返って手をふりました。

「あー、ギルド長、またこんなところで仕事をさぼって。はぁ?新人育成の一環?そんなのは職員に任せておけばいいんです!さぁ、戻りますよ!」

 お店の中から甲高い女性の声が聞こえてきました。何を言っているのかよく聞き取れませんが、何かトラブルでしょうか?

 振り返ってみると、すごい美人さんがおじ様に何か詰め寄っています。……うーん、女性問題勃発でしょうか?イケオジも大変そうです。

 ああ、でも……心の中がポカポカしています。

 女性関係は別にしても、おじ様は店にいる他の子供たちにも同じように親切にしているのでしょう。

 武器を買うお金がなくても入ってこいなんて……素敵でした。

 お金がたまったら今度はちゃんとした短剣かナイフを買いに行きたいです。

 ……でも、お金が貯まるなんてことはあるんでしょうか?

 とりあえず、物価はなんとなくわかりました。

 パンを100円だと仮定してですが。

 ぎゅーくるるる。

「はうっ」

 お腹が空きました。

 そうです、ちゃんとしたものを食べていないのです。

 せっかくパンが手に入ったのです。まぁ、ナンみたいな感じなのですが、パンです。

 パンっぽいパンではないので、ナンであれば温めて食べたいです。火を……。

 町の中で火を起こせそうな場所はなさそうです。というか、燃やすものもありそうにないです。

 また森にもどって木を拾って火を起こせばいいでしょうか。

 と、いうわけで、町から外に出ることにします。

 ……えーっと、どっちに進めばよかったですかね?教会があっちで、大通りをこう進んで……。

 はい。迷子です。

 そう言えば私、ショッピングモールとかに行くと、店内配置図が必要な人間でした。もちろん、行きなれたところは平気ですが、あまり行かないところだと、来た道が分からなくなります。

「あの、すいません、町の外に出たいのですが、道が分からなくて……」

 素直に人に尋ねることにしました。

「どこに行きたいの?畑?森?」

 畑?畑があるんですね。そりゃそうですが、畑……ってことは、何か食べ物があるってことでは?

 魔石と物々交換してもらえないでしょうか……。

 ぎゅーくるるぅん。

 ちょっと畑を見て、魔石との交換をお願いしてみようと思います。

 兵士さんからもらった魔石が、パン1個分、およそ100円というのならば野菜の1つくらいは交換してもらえるのではないでしょうか。玉葱でも人参でもピーマンでもなんでもいいです。上手くいけばダッチオーブンみたいな蓋つきフライパンで蒸し野菜とかも作れるかもしれません。だめでもフライパンですし野菜炒めが作れます。ふへへへ。

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