第6話

 4月18日 晴れ

 渡された毛布にくるまって柔らかい草の上で寝たら意外と快適でした。満点の星を眺めながら眠りにつくなんて日本ではかなり贅沢なことなのではないでしょうか。

 2日くらい森の中を歩くと町につくと言われていましたが、まだつきません。

 兵士さんの歩くスピード換算だったので、私の足はそれよりも短いからつかないのでしょうか。

 それとも、米粒魔石拾いをしながらゆっくり歩いているせいでしょうか。

 でも、米粒魔石拾いは死活問題なんです。仕方がありません。だって、食料なのです。大切な食糧なのです。

「ううう、でも、違うものが食べたいです」

 いくらうまいんだ棒は色々な味の種類があるといっても、うまいんだ棒ばかりだと流石に辛いです。

 10円……何があとは買えたでしょうか。

 そういえば、兵士さんが木の実なら小さな魔石でも出せると言っていました!

「ブルーベリー」

 ……出ません。

 食べたことあるのに。1つぶ10円もしないですよね?たくさん粒がはいって200円とかですし。

 って、まさか、ばら売りはしてないんですか?

 ……!!

 まぁ、そうかもしれません。ばら売りしているのなら、ベビーハートラーメンだって、キャベツ五郎だって、10円分だけ出てくることもあったはずです。

 木の実……うう、食べられない。これは本気で10円のものじゃないと駄目そうです。

 あ、でも、木の実なら、ここは森ですし、何か手に入るのでは?

 キョロキョロとあたりを見回します。

「あ、きのこ見つけました」

 木の根元にきのこが生えているのを見つけました。

 赤いカサに、ぶつぶつと白い斑点が付いているきのこです。

「絶対、毒きのこですね……」

 見なかったことにして視線をそらしました。

 うん。一番初めに見つけた物が、毒きのこ(仮)で良かったかもしれません。

 ここは異世界なのです。地球と似た食べ物があって、リンゴに見えてもリンゴとは限らないのです。

 もしかしたら、白雪姫に出てくる毒リンゴが木になっている世界なのかもしれないです。そうすると、一口食べたら私はころりです。

 小人さんも王子様もいないので、私はその辺でかじったあとのあるリンゴを手に持って倒れたまま朽ち果ててしまいます。

 ……それはちょっと悲しいです。いえ、まだころりならいいです。3日も4日も苦痛に苦しむような毒だったら大変です。

「……やめておきましょう。その辺に生えてる食べものは、ちゃんとこの世界の人に食べても大丈夫か尋ねてからにしましょう……」

 全く食べるものが手に入らなくて死にそうになっているわけではないですからね。

 単に……もう食べ飽きたというだけですから。贅沢な話です。突然異世界の森に放り出されて、飢え死にしないのですから。

 地面を注意深く見ながら歩く。米粒魔石は1日で50個は欲しいところです。

 お水を出すときにも必要ですし、お腹が膨れるくらいうまいんだ棒を食べると結構な数が食べられます。

 自然と歩みはゆっくりになります。

 ええ、そうです。仕方がないのです。ゆっくりなのは……。別に、町に行くのがちょっと怖いとかそんなのでは……。

 嘘です。ちょっと怖いです。どんな人がいるのかも分かりません。

 兵士さんのようにいい人がいればいいですが、陛下や神官や騎士のように意地悪そうな人がいたら怖いです。

 ……でも、あの親切だった兵士さんが町へ行けと言っていたので、悪い人がいっぱいいて怖いところではないはずです。

「あ、あった」

 米粒……よりも少し大きな魔石が落ちていました。炊いたご飯粒くらいの大きさです。

「キャベツ五郎」

 もしかしたら20円サイズ?と思ったので呪文を唱えてみますがやはり反応しません。

 うん。米粒サイズしかやっぱり私には無理なようです。ご飯粒はまだ早いみたい。いつか、私、キャベツ五郎を食べるんだ……。じゃないよ!夢はおにぎりです!おにぎりは私の記憶の中では、コンビニでは100円とか130円とかしてました。けれど、私が買っていたスーパーでは、1個70円くらいでした。……時折割引シールが貼られていて30%引きでした。つまり、えーっと、50円くらいだったんです。

 魔石って、値段で価値を判断するんでしょうか?だとしたら、割引シールは有効ですか?無効ですか?

 まぁ、今の私には50円も遠いのですが……。


 米粒魔石を拾いながら歩いていると、太陽が真上あたりに来ました。そろそろお昼ご飯にしようと思います。

 ……休憩も兼ねてなのですが、ご飯といっても、うまいんだ棒なので。

「他に、10円で買えるもの……あ!もし、特売日の値段も反映されているなら、モヤシ!」

 と思ったのですが、生のモヤシを食べていないとモヤシは出てこないんですよね?

「ふわぁっ!」

 手に載せた米粒魔石が緑豆モヤシ一袋に変わっています。

 特売日に10円で買ったモヤシ……。出てきました!生で食べた記憶はないけれど、火がまだ通ってなくてほぼ生だったことがあったのかもしれません……。うん。湯通ししただけのシャキシャキの生っぽいの食べた記憶があります。ラーメンの上に載せて食べました。あれ、まだ生だったってことですね……。

 でも、おかげでこうしてモヤシが手に入りました。

 あ、ちなみにモヤシって除菌さえしっかりすれば生でも食べられるそうです。ですが、加熱前提で販売されているので食中毒の危険があるので加熱して食べないと駄目だと見ました。

 ……つまり……。

「加熱が必要なんですよね……浄化魔法みたいな便利なものがあれば生でも食べられるけど……ということですよね」

 あ、でも、日陰で栽培するので菌が繁殖しやすいってありました。じゃぁ天日干しすれば太陽光で殺菌されて生でも安全に食べられるのでしょうか?

 ブルブルと頭を振ります。

 駄目です。お医者様もいないのに、

 もし、O157にでもなってしまったら……致死率千人に一人なんですよ?死んじゃうんですよ?お医者様がいないときの致死率ってもっと高いんじゃないでしょうか?

 怖くなって身震いをします。

 絶対、加熱しなくちゃいけません。

 火、火です。

 幸いフライパンは親切な兵士さんが持たせてくれました。火は……森の中なのですし、薪になるものは落ちてます。

 カラカラに乾燥した小枝、木、火起こしに必要そうな木の皮、木の葉を拾い集めます。


 火おこしは……思った以上に大変でした。

 はぁ……はぁ……。

 でも、大丈夫です。回しやすい棒を見つけたのと、一旦火を消した後の炭があれば、次回からはもっと短時間で火を起こせるはずです。

 目の前でパチパチと音を立てて燃えている木を前に、地面に座り込んで震える手を見ます。

 なんとか、社員証のはいっていた首から下げるカードの紐といい具合に曲がった木と回しやすい木とちょっとか組み合わせて弓きり式火起こし器を自作しました。……うん、小学校の時に理科の授業でやったことが役にたちました。先生ありがとうございます。ちゃんと、火種が出来てから火種を育てるところまできっちり教えてくださったおかげで……たぶん2時間くらいかかりましたが何とか火を……。

 うううう。

 腕のプルプルが止まりません。

 疲れました。

 でも、せっかくのモヤシです。もう、これ以上うまいんだ棒だけの生活は辛いんです……。

 フライパンを火にかけ、モヤシを投入です。慌てて、その辺に落ちていた木を菜箸替わりにします。

「味つけはどうしましょう……」

 よく考えたら調味料が何もありません。塩すらありません。

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