第2話 何故ばれた!
不覚に不覚を重ねる失態。
俺は自己嫌悪しそうになる自分を奮い立たせ、シェイクスピアの言葉「失敗の言い訳をすれば、その失敗がどんどん目立っていくだけです」を思い出す。
リセットだ、俺は有名アスリートの如くスイッチングを行ない、自分を切り替える事が出来る。俺のスイッチングは単純、両の掌で己の頬を強く叩く事だ。
パアン!
よし、気合が入った。
その瞬間、くそビッチの心配そうな声が聞こえた。
「えっ? 急にどうしたの、大丈夫? ほらぁ、ほっぺが真っ赤だよ」
セリフと共にその手がすっと伸び、俺の気合注入した頬を触った。指先が暖かくて柔らかく、繊細なタッチと動きで頬を触り移動してゆく。
俺はその甘美な感触に、思わずゾクリと緊張した。
「私と話すのそんなに嫌かなぁ……、傷つくなぁ」
今度は急にしおらしく、その長いまつ毛を揺らし瞬きすると、伏し目がちに俺を見た。もう、駄目だ。こいつのリアクションに踊らされるのはごめんだ。
俺はくそビッチの魔の手を払いのけ、再び冷気をまとい鋭く一撃を放つ。
「いいから、相談ってなんだ。簡潔に言え、聞いてやるから!」
俺は憮然と腕組みをすると、無造作に廊下の壁に背中を預けた。
するとくそビッチは白々しくもニッコリ微笑んでこう言った。
「その前にね、あのさぁ、阿波って変態だよね!」
ぐはっ!
俺は高校入学以来学年一位の成績をキープし、剣道部では二年生にして主将を務め、品行方正、謹厳実直、質実剛健、ご近所さんから「阿波さんところの琢磨ちゃん、うちのお婿に欲しいわ!」と中高年からも抜群の支持を得る模範的優等生だ。
その俺に向かって変態だと!
何故わかった?
実は俺は変態だ。
キャリア=年齢の変態だ。
俺の性癖はマニアック。実は女性の裸に興味がない。着衣にこそエロスを感じる。
身体のラインがそこはかとなく推し量れる程度の服装。否、最近ではもうコート姿でも十分だ。冬の女性ファッション誌が最高になりつつある。
そんな俺の性癖をこのくそビッチが見抜いたと言うのか!
俺はそこはかとなく探る様に、さりとて慎重に声を発した。
「ば、馬鹿いっちゃうよぉ~、なにを言ってんだい、おかしいぞ、君」
ぎこちなかった。
俺は嘘のつけない男だ。普段は誇りに思うこの習性が、こんな時は足を引っ張ってくれる。
「あのね」
そう言うとくそビッチは内緒話をする様に、俺の耳元にその口を近づけて来た。
普段なら嫌悪すべきくそビッチ的あざとい行動だが、変態発言が気になる俺は甘んじて身を任せてしまう。
「夏のプール授業の時、私の水着姿を見て興奮してたでしよう?」
「うっ!」
あの時の事か、あの時の事だな。
女子は男子の視線を実は完璧に把握してる説が正しかった様だ。
よし、わかった。
「ちょ、ちょっと待て、場所を変えよう」
俺は周囲に目を配り、誰にも見られていない事を確認すると、くそビッチを屋上に誘った。
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