第43話 剣持への説明




 ベッドで並んで座ろうとしたが、また剣持が固まってしまいそうだったので、話をするために俺がベッド、剣持が椅子を近くに持ってきた。そして、向かい合って話が出来る場を作った。

 まだ衝撃から抜けきれていないのか、ベッドを視界に入れるのを極力避けようとしている。

 逆にそんな態度をとる方が、気になってしまうだろう。俺は何も言わないでおく。ここは放っておいてほしいはずだ。


「……それで、さっきは中断してしまった話だけど」


 恥ずかしがっている場合ではないと悟ったのか、剣持の背筋が伸びた。きちんと聞いてほしかったから、注意せずに済んで助かった。


「光の力について、剣持はどれぐらい知っている?」


 まずはそこからだ。どこまで知っているのか把握しておかなければ、どこまで話していいのか判断できない。意味の無い心配をしている可能性もあった。

 向こうは試されていると考えたらしく、表情が暗くなった。


「国を発展させるぐらい素晴らしいという、あいまいな答えしか知りません」


 つまり詳細は知らない。ほとんどと俺と変わりないわけだ。他の人達も同じぐらいの情報量だと考えて、問題ないだろう。

 それなら、あまり話しすぎるのも良くないか。


「剣持の代償が短時間で済んだ。その理由について話そうと思う」


 ゴクリと剣持の喉が鳴った。これから話す内容が重大だと分かり、さらに緊張している。

 でもこの話に関しては、それぐらいの緊張感を持って話をしてもらいたい。


「……あれは、俺の力だ」


「聖様のお力ですか。……通りで」


 俺の力だと知り、剣持は腑に落ちたらしい。軽く頷いて、簡単に受け入れた。


「信じるのか?」


 そう聞けば、どうしてこんな質問をしてくるのだという表情を浮かべた。


「当たり前じゃないですか。聖様を信じないで、他に何を信じると言うのですか?」


 これを本気で言っているのだから、俺はどんな顔をすればいいのか分からない。否定するのもあれだと、とりあえず笑っておいた。


「まあ、それは良いとして……俺には、代償を無効化する力がある」


「……俺に話してもよろしいのですか? 秘密にするべきだから、今まで話さなかったのではありませんか?」


 秘密にしていたわけではなく、俺も自覚がなかったからとは言えない。まだ。もしかしたら、これからもずっと。


「……専属騎士として、俺のために尽力してくれている剣持に、隠し事をするべきでは無いと考えた。俺の力を把握していれば、剣持も動きやすくなるだろう」


「おっしゃる通りです。代償の無効化なんて……知られれば、大きな混乱を招くでしょう。聖様を手に入れようと、たくさんの刺客が仕向けられるのが容易に想像できます」


「そうだな。無効化なんてチートスキル……力が強ければ強いほど、喉から手が出るほど欲しくなる」


 神路は光の能力について知っていたが、他は誰までが把握していたのだろう。神威嶽や神々廻が知らないわけがないか。

 でも、俺が持っているとは思っていなかっただろう。特に神々廻は俺が偽者だと知っているから、余計にだ。


「聖様、一つ質問してもよろしいですか?」


 バレないでおこう。変に価値があると判断されたくない。丸め込まれる自分を想像して、顔をしかめていると、おずおずと剣持が許可を求めてくる。

 駄目だと言う理由も無いから頷いた。


「俺の思い違いかもしれませんが、あの時力を使ったのは偶然だったように見えたのですが……まさか、そんなわけありませんよね」


 質問をしていて、勝手に結論を出したのか首を振って否定する。俺はどう答えたものか、そのまま何も言わずにおくか迷った。


「もし……もし、そうだと言ったら……どうする?」


 剣持の視線が突き刺さる。俺の顔を見て、冗談かどうか判断しようとしている。でも、俺の顔はとても冗談を言っているものではなかっただろう。


「そうですね。……聖様のおかげで助かったことに変わりはないので、俺はお礼を言うだけです」


「他に言うことは無いのか?」


「他にですか。……ああ、あんなに体が軽かったのは初めてで、とても気分が良かったです」


 俺に気を遣ったのだとしたら、どれだけ人間が出来ているのかと、一回頭の中を覗きたいぐらいだ。天然でやっているのだとすれば、タチが悪い。俺を喜ばせて、どうするつもりだ。


「……俺は、剣持が思っているほど、凄い人間じゃない」


 神聖視しすぎているから、少しは目を覚まさせようと、俺は懺悔するかのごとく言葉を吐き出す。


「あの時、偶然助かったから良かったけど、自分の力も上手くコントロール出来ないなんて……そんなの駄目だ。もっと早く出来ていれば、ピンチにもならなかったのに。もっと、もっと」


「聖様」


 そっと手が握られた。でも俺は止まらなかった。


「俺が悪い。剣持も俺なんかじゃなくて、もっと別の人間が光だったら」


「聖様」


 その声色に、思わず口を閉じる。

 怒っている。その怒りは、今までにないぐらい凄まじいものだった。


「きちんと、話し合う必要がありそうですね……じっくりと」


 あまりの恐ろしさに、俺は勢いよく何度も首を縦に振った。




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