真夜中の長門さん

 コンコン。

 ノックの音がしたのは、時計の針が11時を回った時の事だった。


 ボクの代わりに、ヒナ姉ちゃんが出る。

 上を向いて、扉の隙間から玄関の様子を窺うと、誰かと話していた。


「自分の部屋で寝たら?」


 険悪な声色でヒナ姉ちゃんが言った。


「そりゃ、アンタでしょ」


 相手は長門さんだった。


「ワタシは、ハルくんの看病があるの。邪魔しないで」


 扉を閉じようとしたが、何かにつっかえて、すぐに開く。


「そうはいかないでしょ。ハルくん突き落としておいて。で、看病って。アンタこそ何考えてんの?」


 ヒナ姉ちゃんは何も答えなかった。


「やー、ビックリしたわ。ハルくんの舌、味わおうと思ったら、アンタ背中を押してんだもん」

「証拠はあるの?」

「ない。落とした直後の映像ならあるけどね。……ほら」


 スマホで映像を見せていた。

 音声がこっちにまで届くが、小さなノイズしか聞こえない。


「先輩さ。ハルくんは、オモチャじゃないって」


 少し前までボクをオモチャにしていた人のセリフである。


「ダメよ。こういうのは……」

「……さい」

「はい?」

「うるさいって言ってんの! あなた、ハルくんの何なの? もう二度と、ワタシの弟に関わらないで!」


 それだけ言うと、ヒナ姉ちゃんは扉を閉じてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る