スズナのオモチャ

始まりの前

 放課後。

 教室の掃除をしている時だった。


「ハ~ルくんっ♪」


 やけに笑顔な長門さんが声を掛けてきた。


「……なに?」

「んーとね。今日、これから暇でしょ?」

「いや、風紀委員の仕事が」

「あっは。嘘吐くな、ボケ。風紀委員の仕事ってぇ。ローテーションで回ってるじゃん。最近、見回りしたってことはぁ、明後日か、その次の日じゃない?」


 どうして、ローテーションの事を知っているんだろう。

 いや、交替するって点は、少し調べれば分かるか。

 でも、それを持ち出す意味が分からなかった。


「ちょっとさぁ。これから、付き合ってほしいんだぁ」


 後ろ手を組んで、にこにことする長門さん。

 嫌な予感がしたので、ボクはきっぱりと断る。


「ごめん。それはできないよ」

「なんでぇ?」

「勉強があるし、エマ先生のお手伝いしたいから」


 ニコニコしながら周りを見渡す。

 教室には、他に生徒が二人残っている。


「ね、ごめん。この子借りていい?」


 と、勝手に許可を取り始める。


「いいけど。……何か用事?」

「だ~いじな、用事」

「えー、怪しい」

「じゃあ、借りるね」


 そう言って、ボクの手を掴み、教室から連れ出していく。

 握った手は、ギリギリとトラバサミのように食い込んで、離さなかった。

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