第5話 物真似少女は依頼を受ける

「お、綾那!昨日の受験どうだっ――ってなんか凄い怒ってねぇか?怖っ!」

「……父さんいる?」


昨日は結局、スーパーでお惣菜やらを買ってご飯だけは炊いて食べた。

そして父さんに文句を言うためにギルドへと来た。


「会長なら多分会長室に居ると思うけど……」

「そう、ありがと」


ふ、ふ、ふ、食べ物の恨みは恐ろしいんだから……


「なんだなんだ、また会長が綾那に何かしたのか?」

「綾那ちゃんが怒ると怖いからねぇ」

「あの状態の綾那は放っておいた方がいい」

「会長も懲りねぇなぁ」


ギルドの人達が何か言っているが私の悪口じゃないので無視しよう。それよりも父さんにお仕置きしないとね!


ズカズカと父さんがいる会長室へと向かう。そして扉を思いっきり蹴って開けた。


「なんだなんだ?!って綾那?!」


いきなり勢いよく扉が開いて驚く父さんに私は近づきドンと机に手を叩く。


「父さん!私の大切なカップ麺を食べたね?」

「おう!美味かっ――すいません、焼肉奢るので今すぐその俺の首元に向けられている短剣をしまってください」


美味かったとかほざこうとしていたので短剣を取り出して脅してみた。

本気を出した父さんには私も勝てないけど不意打ちならどうとでもなる。


この短剣は安物だから父さんには刺さらないだろうけど麻痺毒が塗ってあるしそれに父さんも気づいているからああ言っているんだろう。


「モンスター肉専門の焼肉なら良いよ」

「うぐ……仕方ない」


やった!1000円の高いカップ麺が超高級なモンスター肉のみを使った焼肉に変わった!ラッキー


父さんくらいお金持ちでもあの店に入るのは躊躇うレベルで高いからね。昨日あげたミスリルの剣とは比べ物にならないから。

私は普通に金欠。理由は食べ物。


「しかしあの店は一週間前に予約しないと入れないぞ?」

「そこはまあ、父さんのコネでなんとかならない?」

「父さんのコネは使わないんじゃなかったの?!」

「それとこれとは違うというか何というか……とにかくよろしく!行ける時間が分かったら連絡ちょうだい」


私はご機嫌に会長室から出ていった。


焼肉楽しみだなぁ。ドラゴンの肉食べちゃおうかな?滅多に食べられるものじゃないし。


「さて、暇になった」


今日の予定はこれで終わり。受験の合否は明日のお昼以降にメールで送られてくるらしいしやる事無くなった。


カップ麺の補充でもするか。


そう思ってスーパーに向かう途中で電子掲示板を見かけた。


「ほう、Eランクダンジョンによる初心者の護衛募集……ね」


Cランク以上で日替わり50万……50万?!いや、たっか!


なんか怪しい気がするようなそれともただ単にお偉いさんの護衛でもするのか……

Eランク冒険者って事は初心者としては終わりかけの方だし護衛すること無くない?


しかしまあ、私としては美味しい依頼だから受けちゃおうかな?

期限は今日の12時までとかちょうど良いしね。


ということで依頼者にメールを送る……


「うわ、すぐに返信して来た」


『ご連絡ありがとうございます!詳細をお教えしますので冒険者組合で待ち合わせしましょう』


依頼者は岡本明さんね。なんか即決されたんだけど本当に大丈夫なのだろうか。

まだ私が何ランク冒険者とかも教えてないのにやっぱり怪しい方の依頼だったか?


「ま、何とかなるでしょ」


ここで考え込んでも何も変わらないので冒険者組合に向かうことにした。

カップ麺はまた今度という事で。


「そういえば岡本さんが誰か分からな――いや、あれだ」


冒険者組合に入ると入り口付近でやけにソワソワしている大剣を背負った男の人がいた。防具とかも傷とかほとんどないし初心者なのは分かる。


背丈的に年上……成人してはなさそう?


「あの、岡本さんですか?」

「はい?僕は岡本ですが……もしかして先程メールをくれた白百合さんですか?」

「はい、そうです。白百合です」


私が声をかけるとすぐに反応してくれた。驚いていたのは私が小さいからだろう、悪戯と思われたかもしれない。


なんか自分で小さいとか思うと悲しくなってくる……めっちゃ食べ物食べてるはずなんだけどね。身長は諦めてるからせめて胸を……


「すいません、冒険者カード見せてもらって良いですか?」

「どうぞ」


ポケットに手を突っ込んでから異空間収納を使い冒険者カードを取り出す。

あんまり見られるのもいけないからね。受験の時は評価のために見せたし可奈には模擬戦で見られてたからそのまま見せたけど。


「え、Aランク……失礼しました!」


私の冒険者カードを確認してすぐに返される。やっぱり私の事をCランク以上だと思ってなかったね。


「いえ、この見た目ですし勘違いするのも無理はないですよ」


普段、ガチでダンジョンに行く時は高ランク冒険者風の装備してるけど今は普通の私服だし。


「まさかAランクの方が来てくれるとは思いませんでした!」

「あーまあ、確かにAランクを雇うならあの金額じゃ足りないよね。普通は」


私は金欠だから10万でも行くけどAランクを指名してダンジョンに行くとなると50万以上はするね。そもそもフリーのAランク冒険者がほとんどいないのもあるけど。


「僕なんかに敬語なんていりませんよ!」

「そう?なら岡本さんも敬語とか良いよ?」

「いえ、そういう訳にはいきません!高ランク冒険者には敬意を表していますので!」


怪しい依頼と思っていたのにこの人を見ると詐欺とかじゃなさそうに思えてきた。凄い素直な人だね。


「それで依頼の詳細を聞いて良い?」

「あ、すいません。すぐに話します!」


私は詳しく依頼内容を岡本さんから聞いた。

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