第24話 竜王の血



 今俺は、自室にいる。


 ノアリのお気に入りの本の存在を思い出した俺は、ちょっと休んでくると部屋を飛び出していた。直前に、休んだらどうかという気遣いにいいえと答えていた分変に思われたかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。


 もちろん目的は、休むことにはない。ノアリから貸してもらっていた本……それを探すためだ。ちょうど、借りていたのはタイミングがよかった。



「……あった!」



 探していたものは、すぐに見つかった。元々本はあまり多くない部屋だ、目的のものを探すのに苦労はない。


 大きさは、成人男性の手のひらより少し大きい程度。子供の手にはなかなか大きな代物だ。おまけに、子供に読みやすい絵本ではなく、基本的に文章ばかりがページを占めている。


 子供が読むにはなかなか堅苦しい本。ノアリがどうしてこの本を……いや、元々本が好きな子なんだ。たくさんの本を読み、読みにくそうなこの本がお気に入りになったってことだろう。



「……」



 さすがに、すべてを読んでいる暇はない。だが、何度も何度も読み返したのだろう……所々、しわとなったページや折れ目なんかがある。ノアリの、特にお気に入りの部分。


 それは、実際読むまでもなくノアリに語り聞かされた部分。お姫様が病にかかり、それを治すために旅に出る決意をする王子様……治療不可能の病、『呪病』と同じだ。言ってしまえば、それだけの共通点しかない。


 そこに出てくるのが、『竜王』の血。どんな病も怪我も治すことができるとされ、それを求めて北へと旅に出る。北の北……その最果てともいえる地に、『竜王』はいる。


 事情を話し、不憫に思ってくれた『竜王』は自らの血を分けてくれて、それを持ち帰り、お姫様の病は無事完治する……と。文書だけなので姿は書いてないが、『竜王』って言うからにはまあ竜なんだろう。


 その存在は物語の中では人間の言葉をしゃべっているが……まあ、そういうものなんだろう。



「……『竜王』か」



 物語の中の存在……だが、実際に語り継がれている存在でもある。


 実際にあった逸話を本にする、というのは聞いたことのある話だ。だから、『竜王』の存在ももしかしたら……と、思わないわけでもない。始めこそ馬鹿馬鹿しいと思っていたが、藁にでもすがりたい今となっては……可能性を、感じてしまう。


 だが、問題もある。もしもこの本の話をしたとして、それを大人たちがまともに取り合ってくれるだろうか? ……無理だろうな。俺だって、馬鹿げた話だと思ってるんだ。



「けど、可能性があるなら……」



 実際にいるかもわからない、『竜王』という存在の血……それに、僅かな可能性でもあるのなら。馬鹿げた話だとしても……


 ……いや、考え方を変えよう。治療だの回復魔法だの『癒しの力』だの、そういったことは俺には力になれない……それを考えても、時間の無駄だ。


 ならば、俺は俺でできることを、俺にしかできないようなことを考えよう。この、物語の中の存在……どうせ子供しか信じないようなことなら、ガキガキなりに、バカみたいな可能性に賭けてみてもいいんじゃないか。


 なにより……この胸の中で、この物語を読んでから違和感がもやもやしている……まるで、この物語の中のものは正解だと、言っているかのように。

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