第21話 死に至る病
「じゅ、びょう……」
口の中が、渇いていく感じがした。母上が言った言葉が、素直に受け止められない。だが、その言葉だけはしっかりと自分の中で繰り返される。
その奇病は、呪いのようなものだと。原因も治療方法もわからない、未知の病。今のノアリのように、苦しませ、痛みを与え、やがて……死に至らしめるという。
……死に至る、病。
「……死、ですか」
『えぇ。この頃王都で見られるようになった症状と、それは一致している。詳しくは実際に見てみないとわからないけど、私がこれまで見てきた呪病の特徴と同じなの。そして、呪病にかかった者は……みんな、命を落としている』
「!」
命を、落とす……この病の、せいで。
これまで、母上はこの奇病……いや呪病のせいで、家を空けることが多くなった。王都で少なくない数が出始めたそれを、『癒しの力』で治療するために。効果はないが、それでも母上は足を運んでいる。
関係ないと、思っていた。いくら王都が大変になろうと、自分には……自分たちには関係ないと、そう思っていた。なのに……
「どうして……ノアリが……!」
出会ったとき、彼女はおとなしい性格だった。今でこそ少しは明るくなったとはいえ、まだまだこれからなのだ。それが、命を落とすだと……?
そんなこと、あっていいはずがない。
「母上! ノアリ、どうにか治りませんか!」
『ヤーク、そこにいるの? キャーシュは?』
「アンジーが、部屋の外に連れていきました」
『そう……良かったわ』
キャーシュには、こんなノアリの姿を見せられない。苦しみもがき、俺でも直視できない姿にキャーシュは耐えられないだろう。
『まずは、ノアリちゃんの手足を……手だけでも拘束して。浮き出た血管が切れたら、大変なことになるから、暴れて触らないように。それと、ノアリちゃんの両親に連絡を……』
「連絡はアンジーに任せて、俺は紐探してきます!」
「あぁ、頼んだ」
俺は、すぐさま部屋を飛び出していた。キャーシュと共にいたアンジーに、ノアリの両親にこの事を伝えてと伝え、紐を探しにいく。場所は、アンジーに教えられた場所にあった。
部屋に戻ると、先生がノアリの手首を押さえつつ、母上と話をしていた。ノアリの手はシーツを握りしめているが、暴れださないよう押さえている状態だ。
「持ってきました!」
「よし……」
先生が、紐で手早くノアリの手首とベッドの端とを縛る。あまり強すぎると痕になってしまうと心配する先生だったが、あまり緩いと引きちぎってしまう可能性があると指摘され強めに縛っていく。
今はまだそれほどだと言うが、時間が経てば暴れだす者もいるという。そうならないために、こうして拘束しておくのは必要なことなのだとか。
……実際に、目を離した隙に暴れて自分の体を傷つけ、死に至ったケースもあるのだとか。
『とにかく、私もすぐに戻るわ。まだ症状は出たばかり……よね。死に至ると言っても、すぐに死ぬことは、ないはずよ』
「はず、ですか」
『……確証はないんだけど、呪病の症状は幼い子供にばかり見られるの。私が今まで見てきた子も、聞いたことのある子もそうだったわ』
「子供に? なんで……」
『わからない。でも、その誰もが……7つの歳になったタイミングで、命を落としているの』
なにもわからない病……しかし、子供にばかりに起こる症状。そして、その子が7歳になると……死ぬ。
言葉が、出ない。
「もちろん、ただの偶然かもしれないけど……思い返せば、みんな夜のうちに命を落としていたと、連絡があったわ」
母上は、いくら呪病看病のために出向いているとはいえ、1日中見ているわけではない。命を落とす瞬間が日付の変わるタイミングだとしたら、そんな夜中まで外出していることはないため直接見てはいないのだろう。
だから、聞いた話。それに、呪病の患者すべてを母上が看ているわけでもない。
だと、しても……7歳になったら、死ぬ? その危険がある以上、偶然だなんだと言われても決して安心はできない。
「7歳……って……」
そういえば、ノアリはもうすぐ7歳になる。それを思い出す。ノアリの誕生日はいつだったかを必死に思い返す…………あと、ひと月とちょっとだ。
「ひと、月後……」
「……!」
俺の言葉が聞こえたのだろう、先生が息を呑むのがわかった。
あとひと月で、ノアリが死ぬ……可能性がある。それを思い知らされ、俺は膝から崩れ落ちていた。部屋にはただ、ノアリの呻き声だけが響いていて。
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