危機編 ~神託ヲ壊セ、人の在り方を示せ~

迎え撃つために 1

 ──その後、なんやかんやあり。


※なんやかんやの詳細(ソルト様作):

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885714804/episodes/16817330656235024939


「この世界さ、思った以上にヤバくない?」

 会議を終えたアルミリア部屋に戻ると、トゥルーヤが暗器クナイをお手玉代わりにして遊んでいた。ガルテアの興味津々な視線が突き刺さったり、「何度も言ってるだろ、武器で遊ぶな」とフェニックスのお咎めが飛んできたりしているが、当然のごとく無視している。それどころか帰ってきたアルミリアの存在もスルーしている。あまりに傍若無人な振る舞いに呆れつつ、アルミリアはとりあえず彼の言に耳を傾ける。

「さっきの竜王は言うまでもないじゃん。もうさ、そこに居るだけで明らかにヤバいのが伝わってくるっていうの? うちの世界にもオーラの時点でやべーって思う人はいたけどさ。北の〝黒晶帝〟とか西の〝聖光の姫君〟とか南の〝劫炎の覇王〟とかね。……でも、アレは別格だわ」

 深々とため息をつき、トゥルーヤはお手玉していた暗器を空中に放り投げた。ぱしっと音を立てて一度にすべて掴み取り、視線を伏せる。

「あんなバケモノ、元の世界にいるすべての猛者が束になってようやく敵うかどうかじゃん。それだって甘々な観測だけどさ。バケツプリンにものすごい量のホイップクリーム乗せて蜂蜜ドバドバかけて粉砂糖どっさり振りかけてもまだ足りないくらい甘々だけどさ。あ、日和ってるとかそういうのじゃなくてね? あくまで冷静な分析」

「分かっている。お前はここで怖気づくほど常識人ではない」

「うわぁ負の信頼。てかおかえり」

 アルミリアの言葉に引き攣った笑顔を浮かべるトゥルーヤ。頷き、アルミリアは部屋のソファに腰を下ろす。

「どうデシたか? 会議の方は」

「あらゆる願いを叶える爆弾が竜王に奪われた。天使どもの侵攻や、悪竜王への対策も並行してしなければならない。どう考えてもタスクが多すぎるが、一つ一つやるしかあるまい」

「思ったより脅威多すぎて引くんですけど……」

 さらに笑みを引きつらせるトゥルーヤ。不意にガルテアがフードを揺らして振り返り、おずおずと問いかけた。

「えっと……天使の目的って何なんでしょう?」

「……っ」

 ピクリ、とアルミリアが反応を示す。その険しい表情に、元々の傭兵団のメンバーは少し眉を曇らせた。何も知らないガルテアも重苦しい雰囲気を感じとったのか、慌てて口を開こうとして──アルミリアに阻まれた。

「女神リアと世界運営への介入ないし妨害が目的らしい。この世界の害になるのなら、滅ぼさない理由がない。竜王もそうだ。この世界の害になるのなら滅ぼす」

「さらっと言い切るなぁ……」

「ああ。そういう依頼だからな。傭兵として雇い主の指示を全うする。私たちにできることはそれだけだ」

「やっぱお前、理にかなってるくせに無茶苦茶だよな。……でもまぁ、それがアルミリアだよな」

 苦笑しながら零すフェニックス。アルミリアは依頼達成のためなら、常人ならまず諦めるところでも淡々と遂行しようとする。傭兵としては理にかなっていて、人間にしては無茶苦茶な彼女こそ、〈神託の破壊者〉の団長だ。

「爆弾処理は日向日和という方が、悪竜王と天使への対処は元帥閣下が、それと『神竜の卵』回収はFFXXが担うようだ。私は勝手に天使を討ちに行く。お前たちもどうするか決めておけ」

「……やっぱりか」

「私が決めたことだ。一度決めたら揺るがないと最もよく知っているのは貴様だろう、フェニックス」

 毅然とした声で言い放たれ、フェニックスは思わず口を閉ざす。……それが最適解だとはわかっている。悪竜への対処は以ての外だし、竜王への対処はより竜との交戦経験のある者たちに任せる方がよい。アルミリアが何を言っても聞かないのを差し引いても、トゥルーヤもブッコロリンも何も言わないのには十分すぎる理由だった。


「なんにせよ、戦うなら常務にゃんたちも準備しようにゃ!」

 ぱんっと手を打ち、カノンが満面の笑みでそう切り出した。

「とりあえず……常務にゃんはもう少し戦う力が欲しいにゃんから、この世界のにゃんこたちの能力を借りられないか交渉したいにゃ。その前に遺伝子を採取・培養する機械を作ってもらいたいにゃんけど、この辺に機械に強いにゃんこがいるって聞いたからまずはその人に接触を図りますにゃ」

「あー。なんか誰かが言ってたね。シャザラックって人だっけ?」

「ですにゃ。それから『武器庫』で扱える武器のレパートリーを増やしたいにゃ。場合によってはトゥルーヤくんやブッコロリンちゃん……ガルテアちゃんもかにゃ? にも適時適切な武器を渡せるようになるにゃん」

「あぁ、私も一応剣術は齧ったことがある。決して達人の域ではないが、必要なら私にも寄越せ」

「了解にゃ! ……それで、武器のレパートリーを増やすにはやっぱり皆に武器を見せてもらうのが最適解だと思いますにゃ。その時はブッコロリンちゃんも一緒に来てほしいにゃ」

「承知しマシタ! 武器の解析担当ということデスね」

「にゃん!」

 ブッコロリンの言葉に首肯するカノン。その様子に触発されたようにフェニックスも一同を見回し、口を開く。

「そうだな。どうするにせよ時間的猶予はあまりない。他の兵団員もそれぞれの戦場に打って出る頃合いだろうし、力を借りるなら急げよ、八坂。……とりあえず、俺は工房の方に行く。そろそろ発注していた竜特攻武器が出来上がってる頃だろうしな」

「お、じゃあ僕も行くよ。ついでに使い心地試したいし。誰か打ち合えそうな人いないかなぁ」

「あんま手荒にしてやんなよ……」

「わ、私も……打ち合うなら私も行っていいですか!? 人化状態でも、もうちょっと戦えるようになりたいので……!」

「お、いいじゃん。それなら決まりだね」

「私は単身で偵察に出る。先方、特に女神陣営についての情報はあるに越したことはないからな。ブッコロリン、偵察が終わり次第撮影した映像の解析を頼む」

「了解デス!」

 一同はそれぞれやることを定め。和気藹々と、しかし着々と準備を始めていく。

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