合流へ

「ただいまですにゃ! ふにゃ~、いっぱい治療したらちょっと疲れちゃったにゃ」

「おかえりなさい、カノンさん……って、その紙袋は?」

 ガルテアの不思議そうな視線の先で、カノンは巨大な紙袋を抱えて歩いてきた。彼女は軽くターンしつつガルテアたちに歩み寄り、ご満悦で袋を抱え直す。

「怪我人さんを治療したり建物を補修したりしたら、街の方が『お礼』って言っていろいろくれたにゃ! 回復ポーションと、アビス銘菓『阿琵簾あびす餅』と、齧ると魔力回復する魔法石と、使うと武器の切れ味を上げる砥石と……とにかくいっぱいもらったにゃん!」

「本当に多いな……魔法の石が多めなのは、ここで採れたものを分けてくれているからか……?」

「わぁ、このお菓子美味しそうですね! ……でも似たようなお菓子の名前を聞いたことがあるような……?」

「にしてもマジでエグい量あるじゃん……貰いすぎじゃない?」

「常務にゃんは遠慮したにゃんけど、でも好意を無下にするわけにもいかなかったにゃん。まぁ、こんな街中で広げるわけにもいかないにゃんし、ホテルに戻ってから皆で検分しようにゃ!」

「そうだな、そうしよう」

 フェニックスの言葉を受け、にっこにこで紙袋を抱え直すカノン。


 ◇◇◇


「ところでカノン。君っていろんな力使えるけど、それってどういう仕組みなの?」


 ガルテアの背に乗り、地下を通ってアクエリアスへ向かう道中。不意にトゥルーヤが質問を投げ掛けた。

「あー、これにゃん? これは『アディショナルゲノム』っていう、天賦ギフトとはまた別の能力にゃ。仲間たちの遺伝子をちょっぴり分けてもらって、その遺伝子に宿る能力を貸してもらってるのにゃ」

「へー。じゃあ、『結界』とか『命綱』とかもお仲間の力なんだ」

「そうにゃん! 『武器庫』はお友達に頼んで貸してもらったにゃんけど、それ以外はうちの社員の力にゃん。皆すっごくいい力を持っててすごいのにゃん!」

 満面の笑みで語るカノン。

「それでにゃ、この腕輪……ゲノムドーサーっていうにゃんけど、これに皆の遺伝子のうち天賦ギフトが宿ってる範囲が入ってるのにゃ。コマンドを入力して該当遺伝子を皮膚に付着させて天賦ギフトを使うって仕組みにゃん」

「それなら、遺伝子由来の能力デシたら天賦ギフトに限らず使えそうデスね」

「んー……試したことないにゃんけど、やってみる価値はあるかもにゃんね。でも遺伝子に刻まれてる、つまり生まれつき持ってる能力でも、真冬にゃんみたいに人の領域に収まらない遺伝子は常務にゃんの身体が処理できないから、能力を借りることはできないのにゃ」

「そうなるとだいぶ借りられる能力の範囲が狭まってくるな……」

 アナザーアースでなら人間以外の知的生命体が存在しなかったから大した問題にならなかったが、フロンティアのような多くの種族がひしめく世界では中々に厳しい制約だ。エルフや翼人のような人に近い種族ならともかく、竜をはじめとする人外の力は借りられない。

「それに問題はもう1個あるにゃ。遺伝子を採取してゲノムドーサー用にチューニングする機械があるにゃんけど、あれはちょっと大きすぎてこっちに持ってこれなかったのにゃ。設計図は持ってきたにゃんから、ここに腕の立つ技術者がいればいいにゃあ」

「いなかったらどうすんの?」

「その時は今ある天賦ギフトだけで頑張るにゃ! ……どうしてもこの世界の人の能力が必要な局面になったらディープキスとかで直接細胞を体内に入れることもできるにゃんけど、あんまりやりたくないにゃ」

「……お、おう」

「思ったよりめんどくさい能力だね……」

「ぎ……技術者さん、いればいいですね……」

 複雑そうな表情でぼやくカノンと、コメントに困る一同。と、そんな微妙な空気を振り切るようにガルテアが声を上げた。

「皆さん! もうすぐホテル阿房宮に到着します! 地上に出ますので捕まっててくださいっ!」

「っ、ハイ!」

 ガルテアが頭を持ち上げ、地上に出る態勢に入る。とっさにブッコロリンがカノンの紙袋をインベントリにぶち込み、一同はガルテアの背にしがみついた。巨体が急加速し、旋回する勢いを乗せて掘削殻が地上を突き破り──海に沈む夕日を背に、ガルテアの巨体が地上に躍り出た。


 ◇◇◇


「震蛇竜の鱗、確かに受け取った。……それにしても凄まじい量じゃのう。本当によいのか?」

「勿論です。俺たちが独占しても持て余すだけでしょうし、どうかお役立てください」

 うずたかく積み上げられた鱗を見上げて感嘆する米津閣下に、フェニックスは笑顔でそう語る。

 アクエリアス到着後、一同はホテル……ではなく軍事拠点ヘキサゴンの地下にいた。アルミリアの紹介で米津閣下と対面し自己紹介を済ませ、手土産たる震蛇竜の鱗を譲渡する段になったのだが、流石に多いためヘキサゴンの地下にて譲渡と格納を行う運びとなった。

「そういうことであれば有難く役立てよう。改めて素材の譲渡、感謝するぞ。その力、今後も黒抗兵軍のもとで存分に振るってもらいたい」

「ああ。私たちにできることなら、喜んで」

 頷くアルミリア。一同を振り返ると、皆が同様に強い光の宿った瞳で頷いた。


「さて、おぬしらは共に戦う仲間であると同時に、このホテルの客人でもある。部屋に食事を運ばせるゆえ、存分に食べて寛いで英気を養っていくとよい」

「……い、いいんですか?」

「勿論じゃよ。鱗の対価といっては到底足りぬがの。なによりアルミリアくんが、仲間が疲れて帰ってくるだろうから美味い食事を、と頼み込んできたんじゃよ。食事の好みも彼女に聞いておる」

「か、閣下……!」

 それは言わないでくれ、と言いたげに米津閣下を見るアルミリアだが、当の米津はからからと笑うばかりだ。つられてまずカノンが笑い出し、アルミリア以外の全員が和やかな空気に包まれる。

「あっはは、アルミリアもそういうとこあるよねー! もっと素直になってもいいのにさー!」

「……やかましいぞ」

「にゃはは、なんにせよありがとにゃん! ご飯何かにゃ……おさかにゃかにゃ……じゅるり」

「れ、礼は私ではなく閣下に言え。料理人の方にもだ」

 すっかり和んだ一同は、アルミリアに案内されて和気藹々と部屋に向かう。

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