第5話:空戦。そして……


 醜い奴らを始末した後、早期警戒任務に戻る。


「ラーク01。こちらFAC(空域管制)。戦線全域に竜波の乱れ。警戒を厳にせよ」

「……ザザッ。こちらラーク02。奇襲だ。竜騎兵五〇騎以上、上空から突っ込んでくる!」

「ラーク02。ラーク01はどうした?」

「一撃でやられた! 強行偵察中隊半壊。撤退の許可を!」

「許可できない。地上部隊の上空直掩を実施。撤退すれば帝国軍は敵のエサだ!」

「畜生! 傭兵共、逃げやがった。追手がかかった。あいつら無事ではいま……ザザッ」

「どうした。02!」


 ここから見える。

 強行偵察任務部隊は全滅だ。

 俺をのぞいて。


(マックス様、どうします~? 逃げますか? 賞金貰えそうもないですぅ)


 う~ん。

 たった一人、無事で帰還すれば、任務放棄とか軍令違反とか疑われるんだろうなぁ。当たってるけど。


「しかたない。明日の食費を稼いでから帰るか。敵のジャミングしている奴は……あそこか」


 一応、連絡しておこう。

 これ以上軍律違反はヤバイ。


「FAC。こちらラーク13。ジャマー発見。攻撃できるかチャンスを狙う」

「ラーク13。無理をするな。敵の防備は固いぞ。長距離砲撃の弾着観測だったら……るか?」

「通信もままならないか。じゃ適当に攻撃して帰ります」


 俺は鞍にまたがり、フィーアと連携して魔力を操作。急上昇を開始する。


 普通の竜騎兵だったら振り落とされるか失神ものだな。

 だが俺は自分の身体を自分で加速している。

 一時的にならば、魔力を補給するドラゴンから離れての行動すらできるのだ。このくらい当たり前。


(敵竜騎兵、およそ八〇騎。散開して対地攻撃態勢! 地上軍が撃破されています!)


「何とかしないと基地に帰っても敗残兵として、賞金出ないかなぁ」


 敵の編隊よりもはるか上空に出た。


 一個大隊、三六騎が上空警戒。

 二個大隊が対地攻撃か。


 対地攻撃部隊を潰すのが一番の戦功だと思うけど、制空部隊、三六騎が上から襲い掛かってきたら、一騎じゃタコ殴りになるよね。


 ジャミングしているドラゴンは敵の真ん中。

 あそこに突っ込んでいくのは怖い、というより無謀です。


「ほいじゃ、決まりだな。フィーア、狙撃をする。魔力出力操作を頼む」


 俺は精密射撃に集中することにした。

 鞍の後ろに付けてあった対物ライフルを取り出し、構える。


 マガジンを確認。

 12.7×105mm弾が三発装填されているのを確認。

 術式は榴弾。


 俺は赤面しながら、例のチューニ教団が一人礼拝に使うという人前で発してはいけないセリフを唱える。


「我、今乞う。始源の竜よ。帝国の敵を滅ぼす力をこの弾に与えよ!」


 強烈な反動と共に、20mm弾が敵のジャミング兵と、その直掩竜騎兵に襲い掛かる。


「敵騎、直上。スナイプ!」

散開ブレイク!!」


 もう遅い。


 敵のど真ん中で、近接信管術式が作動。

 高温高密度の粘着物質が、周囲一帯に広がる。


 竜の鱗をも溶かすワルプルギスのヘドロ。

 付着したドラゴンが苦悩のうめきを上げ、竜騎兵を振りほどいて身もだえする。


「目標はまだ無傷か」


 ジャミング兵は護衛の兵が身体を張って助けた。

 奇襲はもう通じないな。


 後の二発を撃って通路を作る。

 高度差を生かして、急降下。

 間をさえぎろうとした敵兵の首を、敵の騎兵銃ごとぶった切る!


 くっ。

 後ろにつかれた。

 上と左右に三騎。


 騎兵銃のオート射撃の弾丸が頬をかすめる。

 俺は神経を研ぎ澄まし、後ろの気配をさぐり、敵の気配へ向けて肩越しに銃弾をばら撒く。


 一騎撃破。


 しかし!


 左右からドラゴンを寄せて来て、軌道の邪魔をしてくる。

 ドラゴンは戦えないのを利用した、制圧行動だ。


「フィーア、先に帰っていろ。必ず戻る」


 俺は鞍上で立ち上がり、ジャンプ。

 ひねりを加えて宙がえりした。両手にはナイフ。

 ナイフを魔装として五メートルもの長さにして、二人の首を狩る。


(マックス様。無理だったら引き返してくださいねです! 約束ですよ、です!)


「ああ。帰ったらいつものあれだな」


(そうです。毎日作ってくれる約束です!)


 じゃ、帰りにミンチでも買って帰るか。

 こいつらのミンチじゃない。

 本物のちょっと高級な奴が買えるように『大物喰らい』をする!


 俺はそいつを探す。


 いた。


 逃がさない。

 ロックオン!


 敵竜騎兵は、俺とジャミング兵との間に割って入っている。

 ほとんどがそちらに気が向いている。


 俺は片方のナイフを口にくわえ、腰の大型拳銃を構えてくるりと体をひねる。


 狙うは敵の指揮官。

 元帥の紋章の刺繍が施されたマントを羽織った敵竜騎兵。


 ばばばばば!!!!


 一三発の銃弾が飛ぶ。

 対人高速弾。

 半分は外れ、そのまた半数がドラゴンの羽で阻止される。

 だが残る三発が、元帥と思われる敵の軍服を貫く!

 一〇万マックくらいになるといいな。


 さて、逃げるぞ!


 自由降下から、魔力で推力をつけてのスプリットS。


 地表すれすれを飛ぶ男が一人。

 激戦を繰り広げている戦場を、白銀の流星が飛ぶ。



 さあ、おうちに帰って軽食作ってフィーアに食べさせよう。

 どんな名誉も勲功もいらない。

 あの笑顔が俺の幸せなんだよ……


 でも……やっぱ、金貨、少しでもください。

 ちょっとは頑張ったんだから。


 無理かなぁ。

 元帥やったっていう証拠ないし。


 誰も見ていない。たまには味方が全滅しない作戦を選ばないと。

 いつも誰も信じてくれないんだよな。


 まあいいや。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「先行した味方竜騎兵は一人を除いて全滅……。今回の作戦も、白銀に助けられたな」

「いったいどんな奴なんでしょう。フリ―ランスの竜騎兵だということは分かっているのですが。まさかあの毎回逃げ出す臆病な黒い傭兵ではないでしょう」

「それはない。嘘をつく常習犯だからな。今回も元帥を一人で討ち取ったとかぬかしおる。だいたい騎乗するドラゴンの色は、くすんだ黒だからな」

「本物の白銀だったら勲章だけでも十個は送りたいところだ。報奨金も一〇〇万マックは下るまい」

「しかし名乗り出ないというところを見るとそんなものはいらない潔癖な勇者なのであろう」

「そうですね。ぜひ帝国貴族になってもらい帝国の剣と盾になってもらいたいものですが」



 ◇ ◇ ◇ ◇



「ごめんな。今日もくず肉入りの軽食しか食わせてやれないよ。どうしてこうも仕事運がないんだろ。結構働いたと思うんだけどなぁ。結局、報奨金もらえなかった」


「白銀さんが全軍を助けてくれたとか言っていました。フィーアたちも助けられたですから、お礼言わなくちゃです」


 今日はちょっとだけ贅沢。

 二枚目の軽食用パティを焼く。

 フィーアは頑張ったんだから、少しくらいの贅沢は許されるんじゃないかな。


「そうだな。俺達も白銀の竜騎兵のように大活躍して、毎日腹いっぱいに肉食いたいな」

「はいです!」





 本人たちは帝国貴族よりも、毎回、仕事の報酬金を増やしてもらいたい。自由に気ままに腹いっぱい肉を食いたい。

 そう思うだけの貧乏人だということを誰も知らない。


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🐉稼げ!最強竜騎兵🐉最高の肉はドラゴンに。俺はドラゴンが美味しそうに肉を食っている所を見るだけで幸せなんだよ! 🅰️天のまにまに @pon_zu

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