第35話 シャインはドキドキさせたい
「お仕事お疲れさま」
「あぁ、ただいま」
エムルハルト様が大量の書類を持って王宮から帰ってきた。
これから年終わりまでは、また仕事がたくさん入って忙しくなるそうだ。
さすがに国の仕事を私が手伝うことはできないが、せめてごはんを食べてもらって、……ドキドキさせたい。
ここ最近、私はどうやったらエムルハルト様をドキドキさせることができるかに全力を注いでいる。
毎日のようにエムルハルト様が私のことをドキドキさせてくるような発言や行動をしてくるのだ。
いい加減、私も彼のことをドキドキさせたくてたまらない。
「シャインにひとつ頼みたいことがある」
「なぁに?」
「叔父様……つまり国王陛下に会って欲しいんだが」
「んがが!? 国王陛下!?」
ドキドキさせるどころか、私のほうがある意味ドキドキさせられてしまった。
国王陛下と会うことなんて滅多なことではない。
エムルハルト様の叔父が国王であるから、いつかはご挨拶する機会もあるかとは思っていたが、あまりにも急すぎる。
「会うと言っても、この公爵邸に来るだけだ」
「あ……なるほど……」
「シャインの料理を食べてみたいそうだ」
「なんでまた急に……」
色々と説明してくれないと理解ができない。
「噂だ」
「はい?」
「この前公爵邸でお茶会をしただろう。そのときに叔父様と繋がりのあるご令嬢がいたようでな。お茶会に出ていた料理の話を聞いたらしく、食べてみたいとさきほど言われたばかりだ」
「それは光栄な……」
「すでにお茶会に出ていた料理のクオリティの話題が、王宮中で騒ぎになっている」
ただのお茶会だったのに、どこまで噂広まってんだよ……。
こういう話になると、エムルハルト様は無表情のままだ。
どのような感情なのかがわかりづらい。
「ところで、国王陛下はいつ来られるので?」
「明日だ」
「急すぎる……」
「あくまで伯父様の分の食事も追加で用意してくれるだけで構わない」
「え……? 普段の食事で良いの? お茶会みたいに前日から念入りに色々と仕込むものを求めているのかと」
「普段のシャインが作る料理が食べてみたいそうだ」
一人分追加するだけならば、料理に関してならなんとかなる。
いや、実際に国王陛下が来るのであれば、護衛や付添人も必ず同伴するはずだ。
その人たちにとっては任務中なのかもしれないが、おなかは空くだろうし多めに作っておくか。
その場で食べられなかったとしても、持って帰って貰えばどこかで食べることはできるはずだし。
幸い、昨日食材を大量仕入れしたばかりだし、対応はできる。
「その……、俺としては複雑でな。俺だけが独占できていたシャインの手料理がどんどん広まってしまうと思うとだ、な……」
「ちょ……、エムルハルト様?」
エムルハルト様の表情が一変、いきなり困ったような顔を浮かべていた。
そして小声でボソボソと呟くが、余裕で私にも聞こえている。
「シャインの人気はこれからますます上がるだろうな。シャインの相手に相応しくなれるよう一層努力しなければ……」
「そんなにムキにならなくても良いのですよ。私はなにがあってもエムルハルト様のそばに寄り添うつもりなので」
「う……うむ」
私は敬語を使って、エムルハルト様に気持ちをぶつけてみた。
ドキドキしてもらいたくて正直に伝えてみたのだが、やはりというか……、あまり効果はなかったようだ。
うーん……、エムルハルト様に喜んでもらうためにはどうしたらいいのだろうか。
もっと彼のことを知っていく必要がありそうだ。
私はそれに加えて、国王陛下と挨拶しなければならない任務のことでも頭がいっぱいで周りが見れていなかった。
「俺の心臓を壊す気か……」
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