第11話 神霊契約

「———終わったぞ」

『おお! お疲れ様じゃ!』


 ダンジョンから出て家へと戻ると、珍しくテンションの上がった爺さんが出迎えてくれた。

 どうやら既に俺が邪神を倒した事を知っている様だ。 

 

「それで……ちゃんと契約はしてくれるんだろうな?」

『勿論じゃ! じゃが、今は一先ず休むといい。明日契約すればよいからのう』

「ああ……そうさせて貰う」


 俺は取り敢えず爺さんの言う通り、身体を休める事にした。






『まさか……僅か1日で討伐してくるとはのう……将来が楽しみじゃな』


 






 

 ———5日。


 俺はこの5日間の間、全身を猛烈な筋肉痛に襲われていた。

 原因は勿論分かっている。


 ———《雷人》に《雷切》に《建御雷神》を使ったせいだ。


 幾ら身体を魔力化した所で、俺は所詮人間なので、肉体に戻る。

 ただでさえ《雷人》状態で肉体を酷使していると言うのに、《建御雷神》なんか使うから余計身体に負担をかけてしまった。


 しかしどうやら入学試験まで後10日程あるようなので、それまでに直れば問題ない。

 ただ、流石に今日はもう魔法を使うことは出来なさそうだ。


 なので勿論———契約もこの5日間は延期となっていた。


 まぁそもそも契約は、お互いの魔力を分け合い、完全にリンクさせて魔法で結ぶモノであって、魔法を使えないんじゃ話にならないからな。


 しかしやっと5日経った今日、爺さんからOKを貰えた。

 身体の筋肉痛も殆ど完治したため、もう大丈夫だろうと言う爺さんの判断である。


「それで———一体何処まで進むんだ?」


 俺は前方を歩く爺さんに問い掛ける。


 現在俺は爺さんに連れられて何処かに向かっていた。

 残念ながら俺は目的地を知らないので、爺さんに聞くしかないのだが……


『もう少しじゃ』


 としか言われぬまま、かれこれ数時間歩き続けていた。

 流石の俺も我慢の限界である。


「おい爺さ———」

『着いたぞ』


 俺が爺さんに文句を言おうとした瞬間、爺さんが到着を知らせる。

 

 チッ……何とタイミングのいい……後少し遅ければ鬱憤を晴らそうと思ったのに。

 

「……で、此処は何処だ?」


 目の前には先程まで森の中を歩いていた筈なのに、突然俺は雲の上に来ていた。

 しかも地面が雲なのに、上を見上げても雲がある。

 更に上空の雲は雷雲で、俺の雷魔法と同等かそれ以上の魔力の篭った稲妻が降り注いでおり、一撃でも当たれば死んでしまいそうだ。

 

「……見た感じ、どう考えても普通の場所じゃないけど」


 俺はゲームで見たことのない場所に突然連れて来られ、若干驚く。

 

 まさかゲームを周回しまくった俺が知らない場所があったなんて……ん?

 そういえばこの前の邪神の件と言い、この件と言い、俺、意外と知らないこと多いな。


『まぁ知らんじゃろうて。此処は儂と契約者だけが入れる世界じゃからなのう』

「ああ……固有精霊界ってやつか」

『さすがこの世界の未来を知っている男じゃな。その通り、儂の固有精霊界じゃよ』


 ———固有精霊界。

 それは簡単にいえば、精霊の住んでいる世界の総称だ。


 しかしこの固有精霊界を持っている精霊はほんの一握りで、主に王級精霊以上の精霊が持っている。

 その他は『共有精霊界』と呼ばれ、同じ属性の精霊達が共同で暮らしている。

 

 この2つの世界の大きく違う所は、固有精霊界には本人の許可なしに入らないが、共有精霊界には王級以上の精霊は自由に出入りができると言う点だ。

 だから雷の精霊の共有精霊界は俺も見たことがあるが、固有精霊界に行ったことがない理由でもあるな。


「……随分と物騒な所だな」

『ほっほっほっ……まぁそうじゃな。じゃが、お主が儂と契約すれば、此処の全ての魔力を使用することが出来るし、固有精霊界の入退場の権能も手に入るぞ』

「じゃあさっさと始めよう。マジで時間が足りないんだ」


 契約すれば最初の2日か3日は昏睡状態に陥るのは確定演出だからな。

 マジで入学試験に間に合わないとかシャレにならない。


『ほっほっほっ、分かっておるわい。それじゃあそこに座って目を瞑ってくれ』


 そう言って爺さんが雲で出来た1人用のソファーを指差す。

 俺はそこに座ると、目を瞑って爺さんの言葉に耳を傾けた。

 

『まずは儂の魔力を少しお主の身体に流す。その際に拒絶反応が起きて痛いじゃろうが、我慢して儂の魔力を受け入れるのじゃ』

「分かった」


 俺が返事をした数秒後、全身を激痛が走る。


『———我慢。儂の魔力を受け入れろ』

「ぐ……!」


 口調が変わり、真剣な声色で諭す爺さんの言葉に従い、体内に入ってきた魔力を俺の魔力で包んでゆっくりと俺の魔力を爺さんの魔力の性質に変化させていく。

 すると徐々に全身を走る激痛は収まり始め、俺の魔力を爺さんの魔力と同じにした時には完全に痛みは消えていた。


『よし、次に移るぞ。シンは目を開けろ』


 爺さんの言う通り、俺はゆっくりと目を開ける。

 すると俺の瞳には、爺さんの心臓部分と俺の心臓部分を繋ぐ魔力の流れが見える様になっていた。


「これは……」

『それが儂らの契約の元———パスだ。契約をすればこれからこのパスは死ぬまで繋がったままだ。本当にいいのか?』

「ああ。続けてくれ」

『あい分かった。それじゃあ続けるが……今は儂の魔力が一方的に移動している。今度はお主が魔力を儂に流せ』

「……分かった」


 俺は魔力の流れに沿ってゆっくりと魔力を流していく。

 すると、先程よりも強く爺さんのことを感じる様になった。


『よしいいぞ。後は———』


 爺さんが、心臓が痛むが絶対に取り乱すな。と忠告をしてきたので、俺は頷く。



『———雷神ゼウスの名の下に、シンを契約者として指名する———《契約》』



 ———ドクンッ。


 俺の心臓が大きく高鳴り、その直後、心臓を鷲掴みにされた様な痛みに思わず顔を顰める。

 しかし俺が痛みに耐えていると……世界から大量の魔力が俺の体内に入ってきた。


 俺の全身から雷電に変換された魔力が噴き出してこの世界に降り注ぐ稲妻へと繋がる。

 その瞬間、身体中を雷が走った。

 まるで身体が再構築される感覚に陥る。

 

「ぐ……がぁああああああああああああああああああ!!」

『もう少しじゃ! 耐えろシン!!』


 俺は爺さんの叫び声で辛うじて意識を取り戻すと、歯を食いしばり、拳を血が出るほどに握って耐える。

 意識はもう殆どない。

 しかし俺は———


「———ヘラを護るために此処で失敗するわけにはいかない……!!」


 ———意地で耐え抜いた。


「ぜぇ……ぜぇ……」

『よく耐えた。これで契約は終わりじゃ』

「そう……か……」


 俺は爺さんの言葉を最後に意識を失った。


 

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 第15話まで1日2話投稿!


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