第10話 雷人

「ば、馬鹿な……!? 何故契約もしていないのにその技が———《雷神》が使える!?」

「そんなの見よう見まねに決まってるだろ。まぁ本家の100パーセント再現は出来なかったけどな」


 実を言えば、この形態はゼウスの完成版の僅か2、30パーセント程の出力しか出ない。

 まぁ見よう見まねでこの技が再現出来る時点でシンの才能が相当なことが分かるが。


 と言うか、この技って《雷神》って言う名前だったんだな。

 まぁだがこれは不完全な魔法だから———


「———《雷人》の方があっているかもな」


 流石にこんな出来損ないをゼウスの技と同じ名前にする訳にはいかない。

 だが———


「お前くらいならこの姿でも倒せそうだな」

「こ、小癪な……!! 必ず私が貴様を殺すッッ!!」


 邪神が魔力を全身に纏わせて先程よりも速く接近してくるが……今の俺には止まって見える。


「相変わらずこの光景には慣れないな……何処かのアメコミみたいだ」


 俺は限り無くゆっくりと流れる世界の中で、移動する邪神を穿つ。


「———ガハッ……!?」


 身体をくの字に曲げて吹き飛ぶ邪神に俺は一瞬で追い付くと、頭を掴んで地面へと叩き付ける。

 すると爆発と見紛う強烈な音が響き渡ると共に、先程邪神がつけたクレーターよりも遥かに大きなクレーターが出来た。

 

「グハッ……くそッ……ゴホッガハッ!! な、何なんだこの強さは……!」


 フラフラと立ち上がった邪神が全身に脂汗をかきながら叫ぶ。

 そんな邪神に冷たい視線を向けながら溜め息を吐く。


「そんなのも分からないのか? 俺がお前より強かった、それだけだ」

「ぐ……そんな訳ない……たかが数十年しか生きていない人間に負ける訳が———!?」

 

 俺は一瞬で邪神の懐に侵入すると、鳩尾へと拳を捩じ込む。

 奴に触れた瞬間———雷電が奴の全身を駆け巡った。


「グァァアアアアアアアアアア!?!?」

「まだまだこんなもんじゃないぞ……!!」


 鳩尾を殴られ苦しそうに喘ぐ邪神を上空に放り投げると、俺は雷電で出来た銃を発射。


「———《超電磁砲レールガン》」


 雷速で発射された雷の銃弾が寸分違わず胸に風穴を開けた。


「ガッ…………く、くそッ……」


 なす術なく地面に叩きつけられる邪神。

 既に奴の体はボロボロで、風穴の空いた胸は中々治りそうになかった。

 

 俺は今がチャンスだと考え足を半歩後ろに開く。

 そして腰を落として腰に手を当て、さながら居合斬りの格好で魔法を発動させた。



「《雷切》」



 その瞬間———俺の腰にまるで始めからあったかの様に雷電で出来た刀が現れる。

 この魔法は完全にオリジナルで、雷を斬ったとされる刀を再現したものだ。


 この刀の性質は最速の斬撃。

 1度鞘から抜けば不可避な一撃となる。


 俺は地面を蹴って一気に邪神へと近付く。

 すると、流石にヤバいと感じたのか、邪神が黒い魔力の光線を俺へと撃ち出した。


「死ね……! 俺よりも強い人間なんて居るはずがないんだ……! 貴様は此処で俺に殺される運命なんだ……!!」

「死ぬのは———お前だ」


 俺は滑らかな動きで雷切を鞘から抜き放った。



「———《建御雷神》———ッ!!」



 居合から放たれた雷切の斬撃は、黒い魔力の光線を容易く斬り裂き、更には邪神の上半身と下半身を真っ二つに斬り飛ばした。

 









「クソクソクソクソクソクソクソクソクソッッ!! 何故だ!! 何故私がこんな所で死ななければならない……!」


 地面へと崩れ落ちた上半身と下半身が分かれた邪神が憎悪の篭った声色で悔しげに何度も何度も吐き捨てる。

 しかし邪神の身体は崩れ始め、既に手遅れな所まで来ていた。


「い、嫌だ……! し、死にたくない……! まだまだ俺は人を殺していたい……! こ、こんな所で———」

「———いや、お前はここで、この手で殺す。お前に明日が訪れることはもう永遠にない」


 俺は雷切を奴に向ける。

 それだけで雷切に魔力が溜まっていき、纏われた雷電がより激しく、美しく迸る。

 

 奴が幾ら命乞いをしようと、コイツは自身の命では償いきれない程の人を殺しているらしいので、慈悲をかけてやる意味もない。

 そして何より、俺がゼウスと契約し、ヘラを救うためにはコイツには死んで貰わないと困るからな。


「や、止めろ!! 止めてください!! もう2度と誰も襲わないと誓う!! 誰にもバレない辺境でひっそりと暮らすことを誓うから殺さないでくれ……!!」


 その言葉に俺の動きが一瞬止まると同時に———奴は駆け出していた。

 俺から逃げる様に反対側へと。


「はははははははは!! 馬鹿な人間だ! こんなことに引っ掛か——————えっ?」


 邪神は何が起きているか分からないと言った表情で崩れ落ちる自分の体を眺めていた。

 そして意識が朦朧としてきた中で漸く理解した様だ。


 ………………ああ……俺は斬られたのか。


 奴は雷切を薙いだ後の姿の俺と最後に目が合うと、絶望に表情を歪めて消滅した。


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 第15話まで1日2話投稿!


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