第8話 精霊と相反するモノ

 幾分かマシになった霧の中を歩いて行く。

 死体を残したため、其方にモンスターが集まって俺自身はモンスターには遭遇しないものの、霧が晴れた所でこのウネウネした木々の隙間を縫って進むのは相当疲れる。

 

 大体こう言うのはショートカットがあるのだが、この迷いの森だけはそう言った類のものは存在しない。

 純粋に最短ルートを進むしかないのである。


「まぁだからゲーム内一不人気だった訳だが———っ?」


 俺が鬱蒼と茂る背の高い草を掻き分けていた時だった。

 ふと俺はある違和感を感じる。

 

 何かこう……突然俺のいる場所が分からなくなったというか、異界に迷い込んだかの様な、そんな感覚だ。

 兎に角何故か不気味だった。


 俺はその違和感の正体を掴もうと辺りに視線を巡らせる。

 そして直ぐに気が付いた。


「…………洞窟?」


 背の高い草に覆われる様にして隠れていた洞窟が、異様な雰囲気を放っていた。

 更にその周りにはモンスターはおろか、虫も、鳥も、果てには風すらも吹いていない。


「……こんな場所、ゲームであったか?」


 俺は自身の記憶を思い起こしてこの洞窟を検索にかける。

 すると意外と直ぐに思い出した。


「ああ……此処はダンジョンだったな」


 この世界にはダンジョンと言うものが存在する。

 恐らくこの洞窟は『忘れ去られた過去の遺産』とか言う変な名前だったはずだ。

 

 この中に生息するモンスターは全てレベル130以上で、ボスは存在しない。

 と言うか全てのモンスターがボス級に強いという結構鬼畜なダンジョンである。


 しかし……どうやらこの静かけさはダンジョンのせいだけではないらしい。

 先程から殺気をめちゃくちゃ感じているのだが……モンスターの姿が見当たらない。

 

「はぁ……殺気の正体も分からないし、取り敢えず入る———ッ!?」


 俺がダンジョンに手を伸ばそうとした次の瞬間———俺の身体を狙う剣が、俺の目の前に通過していった。

 急いで飛んできた方向へと視線を向けると……そこには1体の騎士の姿が。

 しかし普通の騎士と違い、体が変に半透明で俺への殺気で満ち溢れていた。


『ニンゲンコロスニンゲンコロス……ニンゲン———コロスッ!!』

「こいつ……もしかして爺さんが言ってた邪霊って奴か?」


 確かにそう考えればこの奇妙な見た目とカタコトな言葉、俺への親の仇を見る様な憎悪や嫌悪の感情、溢れんばかりの殺気の正体にも納得がいく。

 更に邪霊は生物の負の感情が集まって生まれる生物らしいので、感情に敏感なモンスターや動物達が此処らへんに近付かない理由も理解出来る。


 しかし邪霊と決まれば———


「———討伐するか。掛かってこい醜い化け物」

『ニンゲンコロオオオオオオオスススス!!』


 人間殺すニキの邪霊が剣を構えてその凄い速度で俺へと接近しては俺の死角を突く様に剣を薙ぐ。

 その動きは洗練されており、もしかしたら相当名の知られていた剣士の感情も入っているのかもしれない。


 俺は死角から来る攻撃を魔力障壁で防ぎながら拳を振り抜く。

 すると———


「まぁテンプレだよな……物理攻撃が効かないなんて」


 案の定と言うか、俺の拳はこの邪霊の身体を手応えないまま突き抜けてしまった。 

 俺は一度距離を取るために身体強化を脚にのみ発動させて地面を蹴る。

 

「物理がダメなら……魔法はどうだ?」


 俺は掌を邪霊の方へ向け、魔法を発動。


「《迅雷》」


 雷鳴と電気の弾ける音を轟かせ、瞬きよりも速くに邪霊へと到達し、その身を一瞬にして消滅させた。

 そのあまりの呆気なさに違和感を覚えるも、邪霊はまだ弱いと言う爺さんの言葉を思い出して、言っていた事が本当だったことに気付いた。

 どうやら俺は邪霊と言うものを少し過大評価していたらしい。


「さて、邪魔者も居なくなった事だし、そろそろ入るか」


 俺は異質な雰囲気を放つダンジョンへと踏み込んだ。








 洞窟に入って1番に感じたのは、虚無だった。

 自分でも何言っているのか分からないが、本当にそれ以外の言葉が思い付かない。


 洞窟の中は———ゲーム時とは違い、真っ暗で何の気配も感じず、ただひたすらに空間が続いていると言った印象だった。

 確かにゲームで此処を訪れるのは数年以上も後の話なので、ゲームの時と違うのも分からないこともないが……流石にこれはおかしい気がする。


「此処に一体何が———あ?」


 俺が気を引き締めて進んでいると、突如何処からともなく明かりが灯った。

 それは松明とかの一部を照らすと言うわけではなく、太陽の様な強い光だ。

 そのお陰で洞窟内が見渡せる様になったのだが……見て直ぐに後悔する。


「おいおい何だよこの邪霊の数は」


 俺を取り囲む様に何十、何百といった数の邪霊が居た。

 ソイツらは俺が気付くとほぼ同時に襲いかかって来る。


 俺は即座に全身に身体強化を施し、その場を跳躍。

 しかし上にも邪霊がおり、様々な生物の形をした気配のない邪霊が俺の逃げ場を無くすように殺到する。


「面倒だな……この際一気にくたばれ———《雷轟》ッッ!!」


 瞬間———先程の比にならないほどの轟音を鳴らし、空間を揺らしながら極大の雷電が俺の視認出来る全ての邪霊を薙ぎ払う。

 その圧倒的な威力になす術なく消滅していく邪霊が殆どだったが、時々防いだり避けたりする奴らもいた。


 そんな奴らには魔力障壁&身体強化で一瞬で接近すると、至近距離から雷撃を繰り出す。

 流石に雷の速度にはついて行けない邪霊達はそれで呆気なく消滅していった。

 

「残るはお前だな?」

『……シンニュウシャヲコロシテアノカタへケンジョウスル……!』


 ほう……どうやら先程外で会った邪霊よりも知能は高そうだ。

 見た目も何処かの将軍の様な格好で、生前は強かった事が予測できる。

 

『オシテ———マイルッッ!!』


 邪霊は漆黒の剣を鞘から抜くと、ふっと姿が掻き消え、気付けば俺の目の前に移動していた。

 突然の事で一瞬戸惑うも、即座に魔力の籠った拳で剣を弾き飛ばし、更には雷を纏った拳を振り抜く。

 しかしそれも剣で塞がれ、果てには受け流されて体勢を崩してしまう始末。


 そんなスキをこの邪霊が見逃す訳なく、何やら黒い魔力の様なモノを纏った剣を振り下ろしてきた。

 その瞬間———俺の全てがこの攻撃は何としても避けろと警鐘を鳴らす。


 俺はその本能に従い、雷を全身に纏って雷速でその場を離れると、突如俺が居なくなったことに困惑気味の邪霊を、ゆっくりと動く世界の中で何百連打も攻撃を繰り出して、一瞬にして灰になるほど殴り飛ばした。


『ア、ァァァァァァ……』

「ふぅ……最後の奴はそこそこ強かったな」


 あの一撃は何があるのか分からないが、兎に角危険だと感じた。

 邪霊でさえこれほどの強さなのだが、邪神とは一体どれくらい強いのだろうか。


 俺は少し安受けしたかもと、若干後悔しながらも、1番不快な雰囲気の方へと覚悟を決めて足を運んだ。

 

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 第15話まで1日2話投稿!


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