第52話 勇者の孫 毒舌メイド、動く
「くそおぉぉぉ! 後少しだったのに! スカウトと野次馬どもめ邪魔しやがって!」
奥多摩ダンジョン街から帰ってきたユウトは、ベッドにうつ伏せになり足をバタつかせながら悔しがっていた。
ユウトは玲と楓の二つ星ランクへの探索者証の更新が終わったら、そのまま二つ星ダンジョンに突入するつもりだった。そして裏技を使って一気に最下層に向かいそこでキャンプをして二人の魔力を増やし、日に日に性欲が増していく二人を眺めつつ二人の性欲がピークに達した所でベッドに誘う予定だった。
まあそんなに上手くいくはずがないのだが、ユウトは成功すると思っているようだ。サキュバスの娼婦ばかり相手にしていた弊害である。
「でもマズいな。あんなに騒がれたら二人も当分ダンジョン街には行きたくなくなるだろうなぁ。別れ際も暗い表情をしてたし。くっ、やっぱこの夏休みの間にもう一度行くのは無理か? ぐうぅぅ! 嫌だ! 俺の息子がもう待てないって言ってるんだよぉぉぉ!」
ユウトはインナーが食い込みまくっている股間と大きな尻を思い出し、我慢なんかできないと仰向けになって腰を何度も突き上げながら叫んだ。
そんなユウトをベッドの横から冷たく見下ろす女性がいた。
「ご主人様、今日は一段と気持ち悪いですね。これは股間に
「うおっ、カミラ! 違えよ! ほとばしるパトスを発散させてんだよ!」
ユウトはそう訳のわからないことを口走った後、腰を突き上げたままブリッジをして足の力だけで起き上がりベッドの端に腰掛けた。確かに気持ち悪い動きである。
「そうでしたか。それで何を悔しがっていたのですか?」
「いや、だからせっかく一つ星ダンジョンを攻略したってのにさ、二つ星ダンジョンに行く前に邪魔が入って行けなくなったんだよ」
「そういえば何やら逃げてましたね。つまりもっと玲様と楓様とダンジョンで同棲生活をしたかったと。そして隙を見て種付けをしたかったのに、それができなくなって悔しがっていたと。そういうわけですね?」
「隙を見てって、無理やりじゃねえか。そんなことしねえよ」
「おや? 以前そういうプレイをしたいとおっしゃられて、お応えした時はかなり興奮されておられましたが? あの時は私も色々と演技した甲斐があったと思っていたのですが」
「ぐはっ! え、演技とか言うなよ! 男にそういうの絶対に言うなよ!? 頼むよ……傷つくんだよぉ」
魔族の口撃にユウトの心のHPは一瞬で0になった。
そういうプレイなのだから嫌がる演技をしていたことはユウトもわかってはいる。しかしそれを言葉にされると、行為の最中までもが演技だったのかもしれないと思ってしまうのだ。
「おっと、これは失礼しました。ご安心ください、ちゃんと気持ちよかったですよ」
そこにすかさずカミラの慈しむような視線と優しい言葉の追撃が入る。
「やめろ、優しい眼差しを俺に向けるな。くそっ、いつもは無表情なくせしてこんな時だけ表情豊かになりやがって。というかあれはプレイだからな? リアルで無理やりなんてやったらドン引きだっての」
「そうですか? 亡き勇者はよく押し倒していたと私のもとにも噂が流れてきましたが? 私は見つからないよう隠れていたので詳細はわかりませんが、
どうやら秋斗はカミラが働いていた貴族家の領地にも女漁りに行っていたようだ。さすが娼館勇者である。
「傀儡って……まあ確かに操っていたな。爺ちゃんは無理やり押し倒しても、どうしてか最後は合意のもとってことになってんだよ。しかも相手の女性は高確率で愛人になるし。何が嫌よ嫌よも好きのうちだよ、恋愛未経験の俺にそんなギャンブルできるかっての」
「なるほど、種付けをした後に合意を得られればいいのですね。ではこうしてはいかがでしょう? こちらにはカメラという物があります。このスマホにも。脱がして写真を撮って、インターネットでバラ撒かれたくなかったらと言って合意を得ればいいのでは?」
カミラは両手のひらをパンっと合わせ、さも良い方法を思いついたとばかりに提案する。さすが魔族、考えることがえぐい。
「脅迫じゃねえか! んなクズ男になんかなりたかねえよ! 俺をそんなただヤリたいだけの男と一緒にすんな!」
「!? 違うのですか?」
「違えよ! んなビックリした!って顔すんじゃねえ! 普段絶対しないだろその顔!」
ユウトは目を見開き口を半開きにした上に、軽く仰け反って驚くカミラに全力でツッコミを入れる。
「申し訳ございません、あまりにも意外だったものでつい」
ユウトのツッコミにカミラは姿勢を正し、慇懃無礼とも思える仕草で一礼する。その表情はどこか楽しそうだ。
「くっ……そんな卑劣な手段を使ってまでヤリたい男だと思われてたなんて心外だ」
「さて、ご主人様で遊ぶのもこの辺にしておきましょう。いずれにしろ、ご主人様は玲様と楓様に種付けをするチャンスが無くなって悔しいというわけですね」
「お前絶対俺を主人だと思ってねえだろ!」
「かけがえのない種……ご主人様だと思っております」
「今種馬って言おうとした!?」
「そんなことは一言も申し上げておりません」
「はぁ……もういい……疲れた」
カミラにからかわれ反論する気力も無くなったユウトはベッドに倒れこむ。
そんなユウトの姿を口もとを緩めながら見下ろすカミラ。やはり楽しそうである。
そこへ1階から美鈴の呼ぶ声が聞こえてくる。
《ユウトさん、夕飯が出来ましたよ〜》
「あ、もうそんな時間か。じゃあカミラ、俺は飯食ってくるから」
ユウトは起き上がり、カミラにそう言って部屋から出ていくのだった。
ユウトを見送ったカミラは、先ほどまでユウトが座っていたベッドに腰掛け顎に手を当て何やら考え始めた。
(さて、どうしましょうか。あれほど落ち込んでいるご主人様も珍し……いえ、そういえば人間のメスにフラれる度にあんな感じでしたね。よく見る光景でした)
ユウトが落ち込んでいたのは半分はカミラの毒舌のせいなのだが、彼女はそのことには気付かない。魔族にとってあれくらいは挨拶みたいなものだからだ。
(とはいえ、ご主人様に恋人というものができないのは私にも原因があることですし。魔族である私の存在など隠しておけば良いものを、毎回紹介などするから逃げられるというのに。本当に不器用な
三日の間、食事も睡眠もさせず搾り取れば呼ばれなくなって当然である。
(ここはご主人様に仕えるメイドとして一肌脱ぐ必要がありますね。二つ星ダンジョンに行きたいとご主人様に言っていただけるよう、あのお二人を説得してみましょう。人間のメスなどに言葉を尽くして説得するのは面倒ですが仕方ありませんね。ご主人様の一族でなければ拷問でもして言うことを聞かせるのですが、そうもいきませんし)
カミラは玲と楓を説得することを決めるとスッと立ち上がり、ベッドから影にゆっくりと沈んでいくのだった。
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