第18話 勇者の孫 踏まれて悦ぶ




「え?」


「なっ!? 病気が治っただって!?」


「びょ、病気が治ったってどういうことなの兄さん!?」


 ユウトの爆弾発言に理解が及ばないのか美鈴は呆け、れいかえでは思いっきり混乱しユウトを問い詰めた。


「いやだから義母さんの病気はさ、今飲ませた状態異常回復ポーションで治ったから安心してくれってことだよ」


「さ、さっきのは状態異常回復ポーションなのか?」


「た、確かに紫色の液体ではあったけど……でも光ってたし……私が知っているのとはかなり違うんだけど」


「そりゃそうさ、義母さんに飲ませたのは1等級の状態異常回復ポーションなんだから。これは別名エリクサーや万能薬と呼ばれていて、あらゆる病気を治癒するんだ。だから義母さんの病気も治ってるはずだよ」


 ポーション類は5等級や4等級など下級の物だと、装飾もない少し耐久性のあるガラス瓶に入っている。しかし3等級以上となると装飾が施され、等級が上がるごとに豪華な見た目となっていく。そのため4等級までのポーション類しか見たことがなかった玲と楓は、ユウトが出した物が何なのかはすぐに分からなかったのだろう。


「ま、待ってくれ! 1等級!? エリクサー!? そんなものがあるなんて聞いたことがないぞ!」


「今まで状態異常回復ポーションは4等級までしか見つかってなかったから、もしも1等級というのが存在すればどんな難病でも治せるんじゃないかとは言われてはいたけど……」


「正解。2等級でも難病と呼ばれている病気はたいてい治るけど、義母さんが余命宣告されるほどの病気だと聞いたから念の為に1等級のを飲んでもらったんだ」


 状態異常回復ポーションとは、毒、麻痺、石化、混乱、恐怖、病気など、あらゆる身体の状態異常から回復させる効果がある。


 その中でも病気に関しては5等級では市販薬より少し即効性がある程度だが、4等級から風邪を即座に治す効果がある。そして地球にはないが3等級で疫病及び喘息などの持病。2等級で致死率の高い疫病や末期のガンなども完治させる効果があり、1等級ともなればあらゆる病気を完治させる。


 ユウトは2等級でもしも治らなかった場合を考え、1等級の状態異常ポーションを惜しみなく美鈴へと飲ませたのだ。


「あ……その……ユウトさん。では私の病気は本当に?」 


 展開についていけず唖然としていた美鈴だが、ユウトの話を聞いて信じられないと言った表情を浮かべながらそう呟いた。


「うん、完治してるはずだよ。体調も良くなってるでしょ?」


「ええ……今まで頭に霞がかかったような状態で、常に眠気に襲われていたのですが今は信じられないほどスッキリしています」


「だってさ」


 ユウトは未だ混乱している玲と楓に満面の笑顔でそう告げた。


「……ごめん兄さん。異世界人であり、ドラゴンまで使役している兄さんなら1等級の状態異常回復ポーションを持っていても不思議じゃないとは思う。でもそのポーションが本当にお婆ちゃんの病気を治せたのかは、私たちにはわからないんだ。だからお婆ちゃんを病院に検査に連れて行ってもいいかな?」


「もちろん。ただ、ポーションのことは内緒で頼むよ? そんなに数がある物じゃないからさ」


 自分と将来できるであろう家族のために30本ほど持ってきているが、エリクサーの存在を知った者たちがどんな行動に出るかユウトは予想できていた。だから美鈴や玲たちの安全のために、数がないことを理由に口止めをしたのだ。


「うん、当然黙ってるよ」


「そんなに貴重なものを飲ませてもらって本当に良かったのかしら?」


 美鈴はそれほど貴重なものを自分が飲んでしまったことに申し訳無さを感じているようだ。


「なに言ってんだよ義母さん。俺たちは家族だろ? たとえ1本しか持ってなくても俺は義母さんに飲ませたさ」


「ユウトさん……」


「ユウト……」


「兄さん……」


「あ、あはは。ちょっと臭いこと言っちゃったな。ほら、病院に行くんだろ? 俺は部屋にいるから行っておいでよ」


 三人から潤んだ視線を向けられたユウトは、恥ずかしくなり居間から自分の部屋へといそいそと戻っていった。


 そんなユウトに美鈴たちは顔を見合わせた後にクスリと笑うのだった。




「あらご主人様、なにやら機嫌が良さそうですね」


 ユウトが部屋に戻ってくると、ちょうどカミラも朝食を採っているところだった。


 どこから取り出したのか狭い部屋の中央には腰の高さほどある白い丸テーブルと椅子が置いてあり、そこでカミラが優雅に紅茶と有名なカフェチェーン店で買ったと思われるサンドイッチを口にしていた。


「狭っ! なんでただでさえ狭い部屋のど真ん中にこんなデカイテーブルを置いてんだよ。あ、それ美味そう一口いい?」


 ユウトは机までの道を完全に塞いでいるテーブルセットに文句を言いながらベッドの上を移動しつつ、サンドイッチを一口欲しいとカミラへねだった。するとカミラはサンドイッチを手に持ち、ユウトの口へと運んだ。


「んぐ……美味いな」


「先ほどできたてのを買ってまいりましたから。それで何か良いことでも?」


「ん? ああ、実は義母さんが病気だったんだ。んで1等級の状態異常回復ポーションを飲ませて治したってだけの話さ」


 サンドイッチをカミラに食べさせてもらったユウトは机まで行き、椅子に逆向きに座って背もたれに両腕を乗せながらカミラヘと答えた。


「エリクサーをですか……相当悪かったのですね」


「ああ、余命1年て言われてたらしいよ」


「ですが貴重なエリクサーを良かったのですか? 確か持っていた殆どを一族に譲渡したと聞いていましたが」


 エリクサーはS級ダンジョンの下層の宝箱から手に入るアイテムだが、一族でもS級ダンジョンの下層まで行ける者はたとえ勇者の血を引く者であってもそう多くいない。そんな中、S級ダンジョンを単独で攻略できる実力のあったユウトは、祖父の秋斗が集めた物を含めて100本以上のエリクサーを持っていた。しかしリルを離れるに辺り、ユウトは一族のためにその半分以上を置いてきていた。


「別にいいさ、そうそう1等級の状態異常回復ポーションの世話になるような病気にはならないだろうし。それに、もともとこっちで家族ができた時のために持ってきたもんだしな」


 あらゆる病気を治す1等級の状態異常回復ポーション《エリクサー》だけはユウトは金策のために使う気はなく、自分が病気になった時といずれ結婚し子供ができた時のために持ってきていた。なので家族である美鈴に使ったのは当初の使用目的通りという認識なのだ。


「そうですか。ご主人様がお使いになる分が残っているのであれば、私は特に何も申し上げることはございません」


「大丈夫大丈夫、まだ29本残ってるから。病気で死ぬことはねえよ」


「それを聞いて安心いたしました。孕む前に死なれては困りますので」


 カミラにとってユウトの家族が死のうがどうでも良かった。唯一心配だったのは、エリクサーを使い切ってしまわないかどうかだけだった。ユウトにお人好しな所があることをよく知っているカミラは、他人のために貴重なエリクサーを使いユウトが病気になった時にはもう無くなっているという事態を心配していた。


 わざわざ自分が孕む前にユウトに病死されては困ると口にしたのは照れからであろう。無表情だが可愛いところのある女性である。


「お、おう」


 しかし素人童貞のユウトにそんな乙女心を察する能力はなく、孕むという言葉に顔をひきつらせていた。


「おや? 1階にいた人族が外に出ていきますね」


「ああ、義母さんを連れて病院にちゃんと治ったかどうか検査に行くみたいなんだ」


「エリクサーを飲んでおいてですか? なんと無駄なことを」


「そう言うなって。こっちの世界には存在しないものなんだし、大切な家族の命に関わることだ。確認したくなる気持ちもわかってやれって」


「……そういうものですか。ではご主人様。人もいなくなったことですし、朝の続きでもいかがでしょうか?」


 ユウトの説明に首を傾げつつも頷いたカミラは、足もとの影から赤い生地に金の刺繍が施されている服を取り出しユウトの前で広げてみせた。


「そ、それはまさかチャイナドレスか!?」


「はい。八王子の繁華街で売っておりました。以前読んだマンガにこういった服を着たキャラクターがいたものですから、ご主人様もお喜びになるかと思い買ってまいりました」


「き、着てくれ! 今すぐ! そして深いスリットから覗く白い足で踏んでくれ!」


 ユウトはそう言ってテーブルを空間収納の腕輪に収納し、椅子に座っているカミラの前で一瞬で全裸になり仰向けに寝そべった。


「フフフ、承知いたしました」


 そんなユウトの姿を見てカミラは薄く笑みを浮かべ、メイド服を脱ぎチャイナドレスへと着替えた。そしてその長く白い足を興奮して元気になっているユウトの股間へと伸ばし、踏みつけた。


「あぐっ! い、痛い! でも興奮するぅぅぅ!」


 その後、カミラの思惑通り楓たちが帰ってくるまで子作りに励むことになるのだった。

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