第17話 勇者の孫 難病の治療をする



 ユウトが玲と楓とドラゴン遊覧飛行をした翌日の早朝。


 昨夜に続き朝もナース服のカミラによる奉仕を受けて気持ち良い目覚めをしたユウトは、ジンベエに着替え1階へと降り顔を洗い歯を磨いてから居間へと向かった。


 するとそこには玲と楓の姿があり、美鈴と一緒に朝食の準備を行っていた。


 今日の二人はショートパンツにTシャツとラフな格好だ。そんな二人の太ももとTシャツ越しに浮かぶ下着の線に視線を奪われながら、ユウトは美鈴たちへと話しかけた。


「おはよう義母さんに玲ちゃんに楓ちゃん。二人は朝食はこっちでとるの?」


「おはようございますユウトさん。孫たちとは学校がある時はなかなか一緒に食べれないのですが、今は夏休み中ですし今日はこっちで朝食を一緒にと誘ったんですよ」


「そうなんだ」


 ユウトは美鈴の言葉に、恐らく玲と楓たちと早く打ち解けさせるために気を使ってくれたのかもしれないと思った。そんなユウトの前に、焼き魚をテーブルに並び終えた楓が声を掛けた。


「ユウトさん、昨晩は混乱して言えなかったけど、色々と疑ってごめんなさい」


 楓が目の前でそう言って頭を下げると、台所にいた玲も楓の隣へとやってきて続いた。


「昨夜は酷いことを言ってしまい申し訳なかった。この通りだ、どうか許してほしい」


「いいよいいよ、わかってくれたならそれでさ。大切な家族を想ってのことだったろうし。俺は全然気にしてないから」


 深々と頭を下げる二人にユウトは手を左右に振り笑顔で答えた。視線は頭を下げている二人のTシャツの隙間から見える胸の谷間へと向いているが。


「許してくれるの?」


 頭を少し上げ上目遣いにユウトへ聞いてくる楓に、ユウトはサッと胸の谷間から視線を逸らし誤魔化すかのように親指を立て笑顔で答えた。


「ああもちろん! これからもよろしくな玲ちゃんに楓ちゃん!」


「ありがとうユウトさん!」


「あ、ありがとうユウト……さん」


 楓は花が咲いたかのような笑みを浮かべ、玲は顔を赤らめ恥ずかしそうに謝罪を受け取ってくれたユウトへ礼を言った。


「あはは! 親戚なんだしユウトでいいよ。お兄ちゃんとか兄さんと呼んでくれると尚いいかも」


 ユウトは内心で義兄妹プレイとか興奮するよなどと、相変わらずしょうもないことを考えている。


「そうだね、3つしか離れてないし兄さんと呼ぼうかな。私のことも楓って呼んで。ちゃん付けされるような歳でもないし」


「わ、私はユウトと呼ばせてもらう。あと私も玲でいい」


「じゃあ玲と楓って呼ばせてもらうよ。よろしくな二人とも」


 ユウトは楓だけでも兄さんと呼んでくれることに内心でガッツポーズをしつつ、二人へ腕を差し出し握手を交わすのだった。


「ふふふ、ユウトさんのことを信じてもらえて良かったです。さあ、ご飯が冷めてしまうから早く食べましょう」


 そんな三人の姿に美鈴笑みを浮かべながら朝食をとるように促し、三人は素直にそれぞれの席へと座るのだった。




 食事中は学園の話題などをユウトが振り、それに玲と楓が答えてと昨晩の歓迎会とは違い雰囲気は良かった。そんな時、流れてきたテレビのニュースにユウトは固まった。


《昨夜未明、東京都八王子市の繁華街にある雑居ビルで殺人事件がありました。被害者は三東会系萩尾組の構成員とその傘下の半グレ集団で、6人が刃物のような物で四肢と首を切断され死亡。3人が腕や足を切断され重傷のようです。被害者は『欧米風の女がたった一人で影で仲間を』とわけのわからないことを叫んでおり、警察は回復を待ってから改めて犯行時の状況を聞き出すつもりのようです。また、警察は状況から萩尾組と外国のマフィアとの間に何らかのトラブルが起こったのではないかと疑っており……》


「あら、八王子の繁華街で大きな事件があったみたい。6人も惨殺されただなんて怖いわね」


 ニュースを見た美鈴が眉を顰める。


「確かに酷い殺し方だな。萩尾組は少人数だが構成員が全員元探索者だと聞いたことがある。三東会の中でも武闘派らしい。それがたった一人にやられるとはな」


「欧米風の女性って言ってたけど、これだけの戦闘力を持つとしたらアメリカかイギリスの元軍人の可能性があるよね。沖縄ダンジョンで力をつけた退役軍人が外国のマフィアに入ったとか?」


 沖縄にある三ツ星ダンジョンは一般公開がされておらず、日本軍と同盟国の軍が訓練のために専有している。楓は元探索者だらけの組事務所を一人で襲撃する欧米人など、元軍人以外はありえないと考えたようだ。


 そんな三人の会話を横目に、ユウトは内心で『カミラぁぁ! やっぱ殺ってんじゃねえか! 何が和解しただよ!』と叫んでいた。


 三人はニュースの話題に夢中で、お箸と茶碗を手にプルプルと震えているユウトに気付く者はいなかった。



「ごちそうさまお婆ちゃん。今日は装備を修理に出さないといけないから戻るね」


 食事を終えると玲と楓は立ち上がり、楓が美鈴へと帰る旨を伝えた。


「整備じゃなくて修理に出すほど破損したの? 身体は大丈夫なの?」


「うん、5等級のポーションでどうにかなる程度だったから大丈夫だよ」


「お婆ちゃん、ダンジョンに五日も入っていれば無傷とはいかない。ただ、私も楓も無理をするつもりはないから心配しないでくれ」


 心配する美鈴に対し、楓も玲も笑顔で答えた。


「そう……でも心配だわ」


 しかし美鈴は孫が心配で仕方ないようだ。これまでは学園の授業の中でダンジョンに入っていた二人だったが、引率者なしで入れるようになった途端に装備を破損したのだ。心配になるのも当然だろう。


 不安な表情を浮かべる美鈴にユウトが声を掛けようとした時だった。


「痛っ……」


「「お婆ちゃん!」」


 両手でこめかみを押さえうつむく美鈴へ玲と楓が駆け寄る。


「義母さんまた頭痛? あー二人とも大丈夫だから」


 ユウトはまた頭痛かと思い、慌てる二人に声を掛けながら美鈴へ手をかざした。


「だ、大丈夫なものか! きゅ、救急車を!」


「兄さん、お婆ちゃんは余命宣告をされているほどの病気を患ってるの! 悪化したのかも!」


「ええ!? 病気!? そんなこと義母さんは一言も」


 玲と楓の言葉にユウトは驚いた。これまで2回ほど命の精霊で回復させたが、美鈴はただの頭痛だと言っていたからだ。


「なら義母さんこれを飲んでよ。痛みがなくなるから」


 余命宣告をされているほどの重病なら、精霊魔法で一時的に痛みを取り除いても意味はない。そう考えたユウトはユウトは、空間収納の腕輪からまるで芸術品のように銀の装飾が施された小瓶を取り出し美鈴へ渡し飲むように促した。


 装飾された小瓶の隙間からは光り輝く紫色の液体が見える。


「ううっ……こ、これは? なんだか光って……いるようですが」


 美鈴は痛みに耐えつつも、渡された小瓶を手に持ち戸惑っているようだ。


「ユ、ユウト。なんだこの光る液体は? お婆ちゃんにこんなのを飲ませて大丈夫なのか?」


「兄さん、本当にこれって頭痛薬なの?」


 玲も楓も初めて見る光る紫色の液体に、本当に口に入れても良いものなのか戸惑っている。そんな戸惑う三人にユウトは笑みを浮かべて答える。


「頭痛によく効く薬さ。さあ義母さん、俺を信じて飲んでみてよ。絶対大丈夫だからさ。ああ、色は紫だけど別に苦くないから安心してグッといっちゃってよ」


「ユウトさんがそう言うなら……」


 美鈴はユウトの言葉を信じた。ユウトが兄である秋斗の孫だというだけではなく、何度も激しい頭の痛みから解放してくれたという実績があるからだろう。手に持っていた小瓶の口を開け口に含んだ。


 すると飲み干した美鈴の身体から、紫色の光が薄っすらと放たれた。


「え? 光っ……お婆……ちゃん?」


「お、お婆ちゃんが紫色に光って……」


「あ、本当に光っているわ」


 突然祖母の身体が紫色の光を玲と楓は戸惑い、そんな孫の言葉に美鈴も同じように戸惑っていた。


 そんな様子の三人にユウトが腕を組み満足そうに口を開いた。


「どう? 義母さん、頭の痛みは無くなったでしょ?」


「え、ええ。もうまったく痛みはないです。ありがとうユウトさん」


「どういたしまして。さて、これで義母さんの病気は治ったから安心してくれ。もう頭痛に苦しむとはないよ」

 

「え?」


「なっ!? 病気が治っただって!?」


「びょ、病気が治ったってどういうことなの兄さん!?」


 ユウトの爆弾発言に理解が及ばず美鈴は呆け、玲と楓は思いっきり混乱しユウトを問い詰めるのだった。


 

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