第16話 勇者の孫 お注射をする



「いやぁ都心は凄かったな〜早く街を歩いてみたいなぁ」


 玲と楓を彼女たちの庭まで送ったユウトは、再び裏山まで行きそこでエメラを魔封結晶に戻してから家へと戻ってきていた。


 家に帰ると美鈴が笑顔で仲良くなれましたかと聞いてきたので、ユウトは誤解は解けたと思うと笑顔で答えると美鈴はホッとした顔をしていた。やはり心配だったのだろう。


 そのままユウトは風呂に入り、部屋へと戻って机の前で二人とのドラゴン飛行デートを思い返していた。ユウトがデート相手だと思っている二人は終始顔を引き攣らせていたが。


「玲ちゃんも信じてくれたようだし、やっぱドラゴンが効いたかな? あんだけ敵意が強かったのにおとなしくなったもんな」


 エメラに乗ってからしおらしくなった玲を、ユウトはドラゴンのおかげだと思っているようだ。恐怖に震えていただけなのだが。


「しかし二人の母親が二つ星ダンジョンの支部長をしていたなんてな。なんで工作員だと思われていたのかわかったわ。終戦してからも大華連邦とロシア連邦とは、小競り合いや探索者の拉致とかが続いてるんだったか? まあ、あちらさんも日本軍や探索者が三つ星ダンジョンで力をつけるのを黙って見てはいられないんだろうな」


 ユウトは先日調べた30年前にあった戦争から続く、隣国とのいざこざを思い出していた。どの国よりも多くのダンジョンを有し、さらには日本だけにしか三ツ星ダンジョンは存在しない。その膨大な資源を吐き出す多くのダンジョンと、強力な力を得られる三つ星ダンジョンを手に入れることを目的としたこの戦争は、国内の上位探索者の軍への志願と同盟国であるアメリカとイギリスの参戦。そして欧州諸国やオーストラリアとインドなどの協力を得て日本は勝利した。


 しかし敗戦の決定的な要因が三ツ星探索者により占領軍を蹂躙されたことだったことから、隣国は三ツ星ダンジョンを保有している日本に対し常に危機感を抱いている。


 その結果、玲たちは大華連邦加盟国の大朝鮮国にほど近い、九州にあるダンジョンの支部長をしている母親を狙った工作だと思ったのだとユウトは理解した。


「まあ誤解も解けたし俺にはもう関係ないか。あ、そういえば玲ちゃんが俺のことをチュウニ病患者とか言ってたな。あれってどういう意味なんだろ?」


 ユウトは先ほど玲が厨二病患者と言っていたことが気になり、パソコンで検索してみることにした。


 そして数分後。


「ぐあああああ! 爺ちゃんはかったな! 誰が13や14の現実とマンガの世界の区別もつかない痛い子供だ! 俺はマンガのキャラクターになりきってなんかいねえ!」


 厨二病の意味を知ったユウトは椅子に座りながら頭を掻きむしり、祖父のイタズラとも思える仕打ちにやり場のない怒りを覚えていた。


「魔眼に魅入られぬようにせよとか、まんま厨二病患者の吐くセリフじゃねえか! それどころか厨二病セリフ集のトップ10にランクインしているし!」


 厨二病の意味が書かれているサイトには『厨二病患者の吐くセリフ集』があり、そこにはユウトが祖父から教わったセリフが一語一句間違いなく載っていた。それを知ったユウトは羞恥しゅうちで頭がおかしくなりそうだった。


「何が “一語一句間違いなく言えば赤い目のことは誤魔化せるから大丈夫じゃ” だよ爺ちゃん! 全然大丈夫じゃねえよ俺のメンタルが! ああ……あの時の太田さんの優しい眼差しは、俺を痛い大人だと哀れんでいたのか……もしまた会った時にいったいどんな顔をすれば」


 ユウトは太田に目が赤いと言われた時、それを誤魔化すために発したセリフを思い返した。そして間違いなく太田に、マンガのキャラになりきっている痛い大人だと思われているだろうと考え頭を抱えたくなった。


 世話になったし気の良い男だったので、できればまた会いたいと思っていたが今は会いたくないというより会わす顔がない。


「クッ、落ち着け俺。旅の恥はかき捨てって言うじゃないか。うん、幸いなことにあのセリフは太田さん以外には言っていない。つまり太田さん以外は知らないということだ。なら大丈夫。何もなかった、何もなかったんだ」


 ユウトはまだ一人にしか言ってないので無かったことにすることにした。


「よし、ならもう忘れてもっと楽しいことを考えよう。そうだな……せっかく誤解が解けたことだし、玲ちゃんと楓ちゃんとの仲を進展させることを考えよう。探索を手伝うと言った時の二人の反応も悪くなかったしな」


 ユウトが別れ際にダンジョン攻略を手伝うと言ったときの二人の表情は、決して否定的なものではなかったとユウトは感じていた。


「うへへ、なら俺がポーターとして同行して、ダンジョンで二人を鍛えつつカッコいいところを見せれば好感度爆上がり間違いなしだろ。そして二人に三つ星ダンジョンを攻略させて、四つ星探索者にすればリルから持ってきたダンジョンアイテムを売りに出しても怪しまれない。5等級の若返りの秘薬なんか山ほど持ってきたしな。10本売ったら50億! うはっ! 一石二鳥とはこのことだな!」


 ユウトはダンジョンで熱い眼差しを送ってくる玲と楓の姿と、途方もない大金を手に入れ南の島でハーレム(当然玲と楓もいる)を築く未来を思い浮かべながら床をゴロゴロと転がっていた。


 そんなユウトの姿を冷たく見下ろす女性がいた。


「何をしているのですかご主人様」


「うおっカミラ! いつの間に!?」


 ユウトはいつの間にか部屋のドアの前におり、冷たい眼差しで見下ろしているカミラに驚き後ずさった。


「たった今戻ったところです。そしたらご主人様がまるでゴミムシのように転がっているものですから、また踏んで欲しいのかと」


「ちげえよ! というかあれは一つのプレイだからな? 別に俺はドMってわけじゃねえからな?」


 ユウトは夜のプレイのことを持ち出され、誤解されないよう弁明した。ユウトはSでもMでもイケる口だ。将来結婚した際にマンネリ化を防ぐためという理由で、それぞれの良さを精通した頃から祖父の秋斗より教え込まれていた。本当にロクな祖父ではない。


「そうでしたか。悦んでおられたのでつい……」


「いや興奮はしたけどさ。で? 換金はできたの?」


 相変わらずのカミラの素なのかそれともからかっているのかわからない反応にユウトは苦笑しつつ、頼んでいた換金ができたのか確認した。


「はい、問題なく換金できました。こちらが戦利……換金したお金です」


 カミラはそう言って自身の影から大量の札束を取り出した。


「ちょっ! おいっ! 多すぎだろ! ってか今戦利品て言おうとしたよな!?」


 ユウトは目の前に山積みにされた札束と、カミラが言いかけた不穏な言葉を問い詰めた。


「正当な取引の成果です」


 しかしカミラは無表情のまま堂々と答える。


「おかしいだろ! どう見ても3千万円以上はあるぞ!? なんでたった十数個の金の装飾品がこんなになるんだよ! せいぜい300万円がいいとこのはずだろ!」


 カミラに渡した貴金属は金の指輪やネックレスが主だった。現在の金相場で考えるとだいたい300万円くらいのはずだ。しかし目の前にはその10倍の金がある。これは完全にっている。ユウトはそう確信した。


「少々揉めたのは確かです。ですがそのあと和解いたしまして、こちらは賠償金としていただきました」


「和解ねえ……わかった。俺は300万だけでいい。あとはカミラが好きに使っていいよ」


 ユウトはカミラを問い詰めることを諦めた。そして共犯者にならないよう、渡した貴金属のお金だけを目の前の札束の山から抜き取り空間収納の腕輪へと収納した。


「よろしいのですか?」


「300万もあれば当分は金には困らないだろう。それよりカミラは女の子なんだから色々物入りだろ? それで好きなものを買えばいいよ」


 そう言った後ユウトは、内心でカミラが稼いだ金だし俺は関係ないからなと呟いた。


「ご主人様……ありがとうございます。これでご主人様の好きそうな下着と衣装を買い揃えたいと思います」


 カミラは固定の姿を持たない自分を女の子と呼んでくれたことに内心で喜びを感じていた。様々な姿や性格に変身できるがうえに感情が希薄で表情の変化も乏しいが、カミラはドッペルゲンガークイーンと呼ばれる通り女性なのだ。子種が欲しいと思っている相手から女性扱いされて嬉しくないわけがない。


「あー、まあそれはそれで嬉しいけど、自分が欲しい物も買えよ? せっかく俺より自由に外に出れるんだしさ」


「私が欲しい物はご主人様が喜ぶ物ですので」


「そ、そうか」


 カミラの直球の言葉にユウトは若干照れながら頬をかいた。そんなユウトの姿にカミラは口元を緩め、影から白い衣服を取り出した。


「そ、それはまさか!?」


「ナース服というものだそうです。ご主人様、今夜はこの衣装を着てご奉仕したいと思うのですが」


「これが爺ちゃんの言っていたナース服か! うおぉぉぉぉ! 頼む! めっちゃ頼む! お注射の時間ですと言って欲しい!」


「フフッ、お任せくださいご主人様。このカミラ、心より尽くさせていただきます」


 そう言ってカミラはその場で着ていたメイド服を脱ぎ、新しく買ったのだろう。紫のレースの下着の上下をユウトの前に晒し、ユウトの視線が下着に釘付けになるのを楽しみつつゆっくりとナース服を着ていくのだった。


 そしてわくわくした顔でベッドに寝そべるユウトにまたがり


「ご主人様、お注射の時間です」


 と言ってからユウトのズボンとパンツを下ろしたあと、自らもショーツを脱ぎお注射をされるのだった。




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